家族法第一草案
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1888年(明治21年)、モンテネグロ一般財産法典公布。既に議会が成立していたにもかかわらず、審議は省略された経緯は不明。 2月、大隈重信が外務大臣に就任。 4月、黒田内閣成立。法相山田、外相大隈は留任。 家族法第一草案は10月頃までに完成。法技術的に仏民法典に多くを学びつつその差別的規定を批判する急進的な内容であった。 全ての人に権利能力を保証する。明治民法も同じ(後述)。行為能力とは異なる。 戸主・家族は形式上存在するが、戸主の家族員への権利義務は無い。 婚姻に対する両親の承諾は仏法と異なり、未成年者のみ要する。 姦淫による法定離婚について、夫婦間で性差別を設けない。仏民法1884年改正法がこの立場。 人事編理由書によると、親権は戸主でなく両親が有する。 家督相続は存在するが、家督相続以外の普通相続人を認め、実質的に均分相続に近くする。 家督保有者以外の死亡時の遺産相続は完全に平等。明治民法も同じ(後述)。家督相続とは異なる。 基本的に身分証書の制度を採用し、戸籍は付随的な地位しか認めない。 草案の内容は、植木枝盛の思想に合致するものだったと言われる(井ヶ田良治)。 仏民法旧148条 男25歳未満、女21歳未満は父母の同意を要し、意見一致せぬ場合には父の同意あれば足りる 旧民法第一草案47条 1.成年に至らざる男女は父母の承諾を得るに非ざれば婚姻を為すことを得ず もっとも、妻の夫に対する従属義務を仏民法典から輸入しており(草案100条、仏民法旧213条)、妻の女戸主は一切認めず、常に夫が戸主になるという側面がある(草案397条)。3年後の仙台市の戸口調査では、士族の家の4%、平民の家の12%が女戸主だったから、日本の実情に合わないのは明白であり、その後の修正で削除された。 妻の行為能力については、食料品の買い出し(日常家事)さえ妻単独ではなしえないとする仏民法の建前(判例により死文化)は採らず、重要事項にのみ夫の同意を要求するイタリア民法の主義を採用、明治民法にも継承された。 仏民法旧217条 妻は、共有財産制の下に在らざるときは、又は別産制の下に在るときと雖も、行為に於ける夫の協力又は書面に依る同意なくして贈与、有償又は無償名義に依る譲渡、抵当権設定行為、取得行為を為すことを得ず 仏民法旧215条 妻は、商人たるとき、共有財産制の下に在らざるとき、又は別産制の下に在るときと雖も、夫の許可なくして訴を為すことを得ず 旧民法第一草案104条 婦は夫の允許を得るに非ざれば贈与を為し又は受諾し不動産を移付し書入し又は質入し借財を為し元本を譲渡し質入し又は領収し保証を約し及び使役の賃貸を為すことを得ず並びに右の諸般の行為に関して和解を為し仲裁を受け及び訴訟を起すことを得ず 子を含む家族全体の利益保護を目的とし、一家の浮沈を左右する行為につき夫婦の意見不一致のときの最終的な決定権を夫に与えて紛争防止を図るか、訴訟増加を甘受するかの選択に前者を採った趣旨と説明されている(熊野は批判的)。なお延期派の江木衷も、明治民法についてではあるが批判的であった。 全国の司法・地方官などからの意見が求められたが、多くは批判的であった。 戸主の制…を保存する以上は亦法律上の効果を付せざる可からず、然るに草案は…僅々1条(第401条)を設けたるのみにして他に規定したる所あるを見ず、不備の憾なしとせず。 — 大阪始審裁判所検事岩重巌 第一草案401条 家督相続に因り戸主と為りたる者は他家の入夫と為り又は婦と為ることを得ず 法文に明条を設けて戸主と家族との関係の定義を規定あるを可とすべし。 — 兵庫県知事内海忠勝 此制度は本草案の血族の分度、親権…後見の制と最早適せざるが如し。将(ま)た一家なる意義を戸主及び家族の一定の権利及び義務を含包する法律上の定義として(封建制の消滅したる後)実行せしむることは疑問あるが如し。 — オットー・ルードルフ 立法の要は国体風俗…を考へ内外古今に徴し取捨其宜しきを得るを要す…徒に人為の作用を以て組織すべからざるなり…強て之を行はんとするに…国家の秩序を破壊し経済上云ふべからざる影響を及ぼす…の虞れなき能はざるを、今や…現行市町村制すら尚ほ且つ実施に堪へざるの憾みあり…後見法等の如き必要欠くべからざる所の者(ママ)に限り特に単行之法律を布き以て目今の弊を救ひ…他日民情進化し風俗稍(やや)定まるに至れば…宜しく我国多数人民に適当せしむべき方案を取り…画一の成典とするも未だ以て晩(おそ)しとせず。 — 大阪控訴院長児島惟謙「民法草案人事編獲得編諮問ニ付キ意見具申」 児島は最終的には断行派(後述)。
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