執筆動機・構成とは? わかりやすく解説

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執筆動機・構成

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 23:22 UTC 版)

豊饒の海」の記事における「執筆動機・構成」の解説

三島1960年昭和35年)頃から大長編書きはじめなければならない考え19世紀以来西欧長編小説とは違う〈全く別の存在理由のある大長編〉、〈世界解釈小説〉を目指して、『豊饒の海』を1965年昭和40年6月から書き始める。壮途半ば作家人生を病で終えた高見順の死も執筆拍車をかけたとし、その執筆動機を以下のように語っている。 私はやたらに時間を追つてつづく年代記的な長編には食傷してゐた。どこかで時間ジャンプし個別時間個別物語を形づくり、しかも全体大きな円環をなすものがほしかつた。私は小説家になつて以来考へつづけてゐた「世界解釈小説」を書きたかつたのである幸ひにして私は日本人であり、幸ひにして輪廻思想身近にあつた。 — 三島由紀夫「『豊饒の海』について」 そして、学習院時代旧師松尾聰校注に成る『浜松中納言物語』依拠した「夢と転生すべての筋を運ぶ小説」を四巻構成にし、〈王朝風の恋愛小説〉の第一巻は〈たわやめぶり(手弱女ぶり)〉あるいは〈和魂〉を、「激越な行小説」の第二巻は〈ますらをぶり(益荒男ぶり)〉あるいは〈荒魂〉を、〈エキゾチックな色彩的な心理小説〉の第三巻は〈奇魂〉を、第四巻は〈それの書かれるべき時点事象ふんだんに取込んだ追跡小説〉で〈幸魂〉へみちびかれてゆくものと三島説明している。 ちなみに1950年昭和25年)の『禁色』の創作ノートにもすでに、〈螺旋状の長さ永劫回帰輪廻長さ小説の反歴史性転生譚〉といった言葉並び、『豊饒の海』を予告するような記載があり、初期作品の『花ざかりの森』『中世』『煙草』などにも「前世」への言及見られ、もともと三島には早くから転生への関心抱いていた傾向見られる。 〈豊饒の海〉の題は「月の海」の名のラテン語訳語であるが、三島は、作品完成前に有人ロケット月面着陸が行われることに触れて、〈人類が月の荒涼たる実状目ざめる時は、この小説荒涼たる結末接する時よりも早いにちがひない〉と述べ題名は、〈月のカラカラな嘘の海を暗示した題で、強ひていへば、宇宙的虚無感豊かな海のイメーヂとをダブらせたやうなもの〉で、禅語の〈時は海なり〉の意味もあると説明している。 三島は、論理体系もない芸術宿命限界に、大きな哲学論理構造を持つ大乗仏教唯識思想のような人間一歩一歩狂気引きずりこむような、そういう哲学体系〉を小説中に反映させた長編書き出した述べ第二巻連載中には、汎神論のような宗教世界像のようなものを、〈文学であれができたらなあ〉という願望示しながら以下のように語っている。 そういう世界包括的なものを文学で完全に図式化されちゃったら、だれも動かせないでしょう日本だったら源氏」がある意味そうかもしれないし、宗教ではありませんけれども馬琴一生懸命考えたことはそういうことじゃないか仁義礼智忠信孝悌ああいうものをもってきて、人間世界を完全にそういうふうに分類して長い小説書いて、そうして人間世界全部解釈し尽くして死のう思ったでしょう。 — 三島由紀夫対談人間文学」(中村光夫との対談また、プルーストも『失われた時を求めて』を書くことで、〈現実を終わらせようとした〉とし、その理由を以下のように三島述べている。 ことばというものは終わらせる機能しかない。はじめる機能などありはしない表現されたときに何かが終わっちゃう。その覚悟なかったら芸術家表現しなければいい。一刻一刻過ぎてゆくのをだれもとめることはできない。しかしことばが出たとめられる。それが芸術作品でしょう。それをだんだん広めていけば、ああいうものをやりたいという意欲はわかる。現実を終わらせちゃうことですね。(中略)ことばというのは世界安死術だと思いますね。鴎外の「高瀬舟」ではないけれども、ことばというのは安死術です。そうしなければ時が進行してゆくことに人間は耐えられない。 — 三島由紀夫対談人間文学」(中村光夫との対談) こういった三島創作動機松本徹は、「小説」というものが出現し以来の、最長時間かつ国境越えた広大な空間に展開させ、「この人世界全体」を可能な限り覆い尽くし、その成り立ちと意味を解き明かして、「小説なるものの存立の意味を示す」という「究極小説」を三島目指し、さらに「日本語として全きもの」を企図したと解説している。

※この「執筆動機・構成」の解説は、「豊饒の海」の解説の一部です。
「執筆動機・構成」を含む「豊饒の海」の記事については、「豊饒の海」の概要を参照ください。

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