地理的表示を保護する方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/31 19:44 UTC 版)
「原産地名称保護制度」の記事における「地理的表示を保護する方法」の解説
地理的表示を保護することの背景には、特別な性格をもつ農産物や食品、特に原産地との結びつきのある物に対する需要があることがあげられる。これは質や伝統的製品への消費者の要求が次第に大きくなり、また、農産物の多様性を維持することにも関心が向けられているからである。一方、生産者の立場から言えば、その努力に見合う対価を受け取ることができなければこのような様々な質の生産物の生産を継続することはできない。そのためには取引業者や生産者に製品の特性について伝える手段が必要であり、それが市場で正しく表示される手段も必要となるのである。 このように様々な質の製品に対する対価が得られる枠組みは農村部に経済的利益をもたらし、それは山間部や遠隔地のような農業収入の割合の高い地域で顕著に表れる。また、地理的表示がもたらす製品のブランド価格により、地方の雇用を創出して過疎化を防ぎ、しばしば観光産業や飲食産業において重要な波及効果をもたらす。このようなことから、地理的表示は地域の発展に寄与しうるとされている。 この地理的表示を保護するためには3つの方法がある。 一つは商標の一種として保護する方法で、北米などで取り入れられている。日本でも地域団体商標として産地の名前を冠した商標が登録でき、これは特許庁が管理している。2006年に改正された商標法が施行されて最初に青森県田子町のたっこにんにくが登録されたほか、山形県の米沢牛、福井県の越前がに、東京の江戸甘味噌などが地域団体商標として登録されている。日本では、地域団体商標の制度が確立する以前には「地域名」+「商品・役務の普通名称」という文字商標は商標として登録できなかった。地名も普通名称も一般に使われているものであって、特定の個人や団体に独占的に使用させるわけにはいかないからである。しかしその時、「地域名」+「商品・役務の普通名称」は誰にでも何にでも使用できることになって、地域の特産品を特別な物として積極的に育てようとしている場合には不都合である。例えば長年工夫や努力をして商品のブランドを築いてきても、偽物が出回る事があるからである。 日本の地域団体商標はすでに確立した知名度をもっている物を対象としている。物やサービスの名前だけでなく、その名前と特定の団体(その土地の業界団体など)との関係が良く知られていることも求められているので、あまりに広く用いられていて、すでに特定の団体との関係が希薄になっている場合(つまり、“どこでも誰でも使っている”という状態)はこの周知性の要件を満たしていないとして登録を拒絶される。例えば、喜多方ラーメンや京料理は出願はされたが地域団体商標として登録されなかった。 二つ目は地理的表示を保護する独特の (sui generis) 仕組みを整えることで、これがヨーロッパで採用されている方法である。日本でも国税局が所管する酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律でワイン、蒸留酒、清酒の地理的表示を保護している。例えば、清酒に対して「白山」の名を冠するには、石川県白山市で製造されて、その他の決められた要件を満たさなければならない。その他にも、2014年に農林水産物や食品についての地理的表示の保護を目的とする特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(略称:地理的表示法)が公布された。この法律は農林水産省が所管している。ただし、日本の地理的表示法に基づいて登録された生産物の名前にはいぶりがっこのように地名の入っていない例がある。ヨーロッパの地理的表示保護制度を定める欧州規則では、地名を含まない名前に対しては伝統的特産品保護という、地理的表示とは別のカテゴリーが規定されている。 日本において、地理的表示法も地域団体商標も同じく地理的表示を保護する仕組みであるが、地理的表示法に基づいて地理的表示が登録されるには単に商品の名前だけでなく、商品の生産方法や商品に求められる特性を定める必要があり、登録後も権利者が品質管理を行うことが求められている。他にも地域団体商標は不正使用に対して直ちに自ら損害賠償請求、差止請求を行うことが出るのに対し、地理的表示法に基づく地理的表示の不正使用は行政が取り締まるという違いがある。 地理的表示を保護する方法の三つ目として、不正競争の防止などの一般的な規則を利用して地理的表示を保護する方法もある。日本でも、例えばパルマ産でないハムについてパルマ産であるかのように表示することは、経済産業省が所管する不正競争防止法で禁止されている。実際の例としては、2008年に大阪の高級料亭の船場吉兆が牛肉のみそ漬けの産地偽装に関し不正競争防止法違反(虚偽表示)の罪で罰金が科された例や、2010年に中国産のワカメを鳴門わかめと偽って販売したマルナガ水産の社長が逮捕された例などがある。日本において地理的表示の不正利用、つまり産地偽装については、不正競争防止法以外にも米トレーサビリティ法でも直罰規定が定められているし、2015年以前はJAS法でも直罰規定があった。その中で不正競争防止法による罰則が一番重いので当局は不正競争防止法違反により検挙・起訴することになる。同じ不正行為についてわざわざ軽い罰則を科す理由がないからである。 農林水産省は2002年より“食品表示110番”を開設し食品偽装の情報を専門に受け付けているほか、立ち入り検査などの方法で業者の指導監督を行う権限を有している。犯罪性が強いと判断される案件については警察署に刑事告発を行うことになる。また、新潟県では新潟産とされるコメのDNA検査を定期的に行ない、実際に、新潟産と偽ってブレンド米を販売していた業者を2012年に刑事告発したこともある。
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