地理的表示保護と自由競争市場
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 01:10 UTC 版)
「原産地名称保護制度」の記事における「地理的表示保護と自由競争市場」の解説
地理的表示が保護された農産物や食品(特に原産地呼称保護の対象製品)の生産には、それに携わる参加者の間である程度の調整が必要である。もっとも多くあげられる理由は、対象製品の明細書で決められた特性、つまり消費者がその製品を選ぶ理由となる特性がその製品に備わっていなければならないからである。このことに対しては単に製造工程のみでなく、サプライチェーン全体を管理することが求められる。その一方で、例えば、供給量を制限することで原料の価格を押し上げるというような、市場の適切な運営を妨げる恐れもある。 とはいえ、原産地呼称保護の対象製品に関するサプライチェーンにおいて自由競争が実際に阻害されているかというと、必ずしもそういうことにはならない。例えば、フランスの、カンタルとコンテの牛乳市場を調査してみたところ、その市場は完全競争の状況のようであった。 この地域ではカンタルチーズ、ブルー・ドーヴェルニュ、フルム・ダンベール、サン=ネクテール、コンテチーズ、モルビエなど多くのPDOチーズがある。 カンタルは原料供給業者が特に積極的に供給量の調整などを行っていない(行うことができないでいる)例である。ここでは酪農企業のグループによって設立されたいくつかの牛乳処理工場が、チーズ製造業者に原料を供給している。小規模酪農家も供給に参入することは原理的には可能であるが、チーズ製造業者はそのチーズの特性や評判を維持し、また一般市場への適正量の供給を意図しているので、新規の酪農家が参入できない。 一方コンテは、原料供給業者が供給量の調整を行っている例である。コンテでは3,000の酪農家が、140ほどの牛乳処理団体を組織し、フレッシュチーズの製造まで行う。そのフレッシュチーズは最終工程の熟成業者へ供給され、一般市場にチーズを供給するのはこの熟成業者である。しかし、原料である牛乳の生産量は、チーズの適性供給量や適正価格を考慮して酪農家の側が決める。 このように原料供給業者の役割が違う2つの地域であるが、どちらも市場経済をゆがめているとは認められず、有意水準5%で原料供給業者かマーケットパワー(市場価格を支配する能力)を持っているという、統計的に有意なデータは得られなかった。
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