地理的表示とドメイン名
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/31 19:44 UTC 版)
「原産地名称保護制度」の記事における「地理的表示とドメイン名」の解説
インターネット・プロトコル (IP)においては、ネットワーク上の機器はそれを識別するためのIPアドレスを持っている。ところがIPアドレスは8ビットの数字(0から255)4つの組であり人間が扱うには不便である。そこで通常はドメイン名を使用して通信の相手先の機器を指定する。ドメイン名は人間が覚えやすい文字及び記号の列である。ドメイン名はDNSサーバの助けを借りてIPアドレスに変換でき、ネットワーク上の機器同士はIPアドレスを使って接続される。 このDNSの仕組みは大変便利な仕組みで大変に成功したといえるのだが、ドメイン名が企業や個人の独自性を示す方法の一つになるとDNSは「それ自身の成功の犠牲者となった」。つまりサイバースクワッティングのことである。悪意を持ってドメイン名を取得し、それを転売して金銭を取得する者が現れたのである。そこで、アメリカおよびWIPOメンバー各国の提案に基づき、WIPOは、DNSを管理するICANNへのレポートを1999年にまとめた。それをもとに確立されたのが統一ドメイン名紛争処理方針 (UDRP) である。 UDRPの定めるところでは、第三者(訴えを起こした者)が以下のことを訴えた場合にドメイン名の所有者は行政手続きに応じなければならないとしている。 ドメイン名が、訴えを起こした者が権利を持っている商標と同一であるか紛らわしいほどに似ており、且、 所有者がそのドメイン名に関して何ら権利を持っていないか、合法的な利害関係を持っておらず、且、 所有者が悪意なくそのドメイン名を登録し、使用している場合。 3つの条件がすべてそろうことが必要である。 ここで注目すべきであるのはUDRPは商標の権利のみを紛争処理の対象としていることである。WIPOのレポートの暫定版(1998年12月)の段階では商標だけでなく、地理的表示を含むすべての知的所有権を対象に検討されていた。しかし商品名、地理的表示、個人の権利などはそれぞれの国の法律が互いに調和しているとは言えず、UDRPからは除外された。 もちろん地理的名称も同時に商標としても登録されていればUDRPの対象になる。以下の例はUDRPで地理的表示の仕様の是非が争われた例である。 ゴルゴンゾーラと gorgonzola.club (WIPO Case No. D2017-0554) イタリアのノバラ・ゴルゴンゾーラチーズ保護共同体が、“gorgonzola.club”というドメイン名を登録したアメリカの人物に対して起こした争いである。アメリカでノバラ・ゴルゴンゾーラチーズ保護共同体が所有している商標は最終結論 (ADMINISTRATIVE PANEL DECISION) の中で“CG GORGONZOLA Mark”と呼ばれているアルファベットの“c”と“g”を組み合わせたロゴマークだけで、このロゴマークにはゴルゴンゾーラという名称は入っていない。とはいえ、これがゴルゴンゾーラを意味すると知っている消費者は、確かに“gorgonzola.club”というドメイン名からゴルゴンゾーラという、そのロゴマークが商標登録されているイタリア特産のチーズを考えて紛らわしいであろうことは認められた。また、ドメイン名の所有者がこのドメイン名に関してなんの権利も法的な利害関係も持っていないことも認められた。しかし、悪意を持ってこのドメイン名を登録した証拠はないとされた。結論として、3つ要件のすべてを満たさなかったのでこの訴えは却下された。 リオハ (Rioja) ワインと rioja.com (WIPO Case no. D2018-0168) リオハ認定原産地呼称規制理事会はリオハ・ワインの地理的表示の管理を担っているが、この組織が1996年に登録されたrioja.com というドメイン名に対して訴えを起こした。理事会はリオハの語を含む商標を登録していたし、またriojawine.com というドメイン名を所有していた。rioja.com の所有者は、リオハの地名は世界中にいくつかあり、リオハの語が商標の権利を侵害しているということにはならないと反論した。しかしWIPOのパネルはUDRP4条a項の第一の条件には該当すると認めた。しかし、この場合でもドメイン名の所有者が悪意をもってこのドメイン名を登録したという証拠が不十分であるとされ、訴えは却下された。 シャンパンと champagne.co (WIPO Case No D2011-0026) シャンパーニュ委員会 (CIVC) は champagne.co というドメインに名に対して訴えを起こしたのだが、この場合はCIVCは champagne の語に関するなんの商標も登録していなかったので、訴えは却下された。パネルはUDRPにおいては地理的表示は紛争処理の対象になっていないことを強調し、この決定の内容は前述のリオハ・ワインに関するUDRPでも引用されている。また、ドメイン名の所有者はCIVCの訴えをドメイン名逆ハイジャック(reverse domain name hijacking:悪意を持ってドメイン名の正当性に関する訴えを起こすこと)だと非難したのだが、パネルはハイジャックには当たらないとした。 上の3つの事例のうち2つは、UDRP4条a項の第三の条件を満たさないとされている。つまりドメイン名が悪意を持って取得されたかどうか、という条件である。このことについては WIPO Overview of WIPO Panel Views on Selected UDRP Questions, Third Edition (“WIPO Jurisprudential Overview 3.0”) に、どのような場合を悪意を持って取得されたというのかが規定されている。
※この「地理的表示とドメイン名」の解説は、「原産地名称保護制度」の解説の一部です。
「地理的表示とドメイン名」を含む「原産地名称保護制度」の記事については、「原産地名称保護制度」の概要を参照ください。
- 地理的表示とドメイン名のページへのリンク