商標として地理的表示を保護する方法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 01:10 UTC 版)
「原産地名称保護制度」の記事における「商標として地理的表示を保護する方法」の解説
前述のように、既存の知的財産保護の枠組みの中で地理的表示を商標として保護する方法があり、例えばアメリカではもっぱら地理的表示を商標法で定める証明商標または団体商標として保護している。アメリカでは1946年から地理的表示を保護しており、TRIPS協定(1995年)よりずっと早い。地理的表示は商標と同じく以下のような機能を持っているとされている。 製品の出自(生産者、販売者)を示すこと 質を保証すること さまざまなビジネス上の利益となること 同国では地理的表示をもっぱら企業や生産者グループの競争力の元になる知的所有権とみており、農業振興や地域の伝統の保護という性格をもつヨーロッパでの地理的表示とは位置づけが異なる。商標を保護する仕組みを利用する利点としては次のような点があげられる。 国内外のビジネスにおいてすでに実効のある制度であり、仲裁機関もよくわかっている制度である。 先行する権利が優先されること。 どのような製品・サービスも保護することができる。 政府も地理的表示の保護のために新しく予算や人員を割り当てる必要がない。 単なる名前だけでない地理的表示(視覚的な意匠やスローガンなど)にも容易に対応できる。 マドリッド協定議定書として広く受け入れられている。 これに対して地理的表示を商標とは別の物として扱う場合の利点には次のようなものがある。 地理的表示が一般的な名称になることはない。 無期限であること。 更新や登録にも、多くの場合費用が掛からない。 使用しないことによるペナルティや登録の取り消しがない。 一般に公共の取り組みであること。 裁判において第三者に使用状況を明らかにする必要がない。 地理的表示の保護に良く用いられる商標のうち、証明商標とはその商標があらかじめ定められた品質が満たされていることや特別な特性を持つことを示す商標である。地理的表示保護の文脈では“証明商標”と言われることが多いが、多くの場合それは認証マークである。ただし、アメリカの商標法での証明商標の定義にはシンボルだけでなく、単語、名前なども含まれる。地理的表示の保護については、例えば、アイダホポテトは地理的表示が証明商標として登録されている。アメリカの証明商標は、原産地の表示のほかに、製品やサービスの質や特性などを表示するものや(例えばエネルギースター)、特定の団体に属する者によって製造・提供された製品やサービスであることを示すものがある(例えば認定パラリーガル)。 通常の商標とは違い、“anti-use-by-owener rule(所有者は使えない決まり)”となっている。というのも証明商標の所有者は、自分以外の者が製造したものや提供するサービスがその証明商標が示す要件を満たしているということを認めるだけだからである。証明商標が地理的表示として使用される場合、アメリカの例でいえば証明商標の所有者はほとんどが行政機関かその外郭団体であり、私的な個人ではない。それは、該当する地域の者が自由に使えるものであるし、証明商標の所有者はその誤用や不法使用を防がなければならず、個人の活動としては十分にこれらをこなすことはできないからである。例えば、アイダホポテトの証明商標の所有者はアイダホ州政府の一機関であるアイダホポテト委員会である。 団体商標は通常の商標と同じように商品やサービスの出自を表すものであるが、その出自は特定の一個人・法人ではなく、ある団体の構成員であることを示す。例えば、オレゴン州およびアイダホ州のスネーク川流域で栽培されているスパニッシュオニオンは「SPANISH ONIONS IDAHO EASTERN OREGON」として団体商標に登録されている。この商標の所有者はアイダホ・東オレゴン玉ねぎ委員会であり、この商標は玉ねぎが委員会のメンバーによって栽培された玉ねぎであることを表す。商標の所有者自身は商品を販売せず、商標が示す商品を宣伝する役割を負う。なお、アメリカにおいては、団体商標 (Collective Marks) をさらに狭義の団体商標 (Collective trademarks / Collective service marks) と団体会員商標 (Collective membership marks) に分けている。ここでいう団体商標とはある団体の会員のみが使用できる製品やサービスに対する商標であり、団体会員商標とはその団体の会員であることを示す商標である。団体商標の例として、地理的表示とは無関係であるが、FTD(Florists' Transworld Delivery – 日本の花キューピットのモデルになったサービス)や、団体会員商標の例としてAAA(日本のJAFに相当する団体)を挙げることができる。 日本では地理的表示を含む商標を地域団体商標として単なる団体商標とは別のカテゴリーにしているが、これは世界的に見れば珍しい例で、普通の例では通常の団体商標として登録する。 アメリカにおいては、地名を通常の商標として登録することもできる。ただし、それはその商品の出自が良く知られている物に限るし、その場合は生産地を示すとは限らない。例えば“フィラデルフィア”はクリームチーズの商標として商標登録されている。この場合は当該製品がフィラデルフィアで生産されていることを意味しない。フィラデルフィアはクラフト・ハインツの販売する軟質チーズであると消費者に認識されており、別の製造業者がクラフト・ハインツ社の製品の評判に便乗することを防ぐためにこれが商標として保護されているわけである。地名が商品名に冠されている場合、確かにまずは消費者はその地で製造されたものと考えるであろうが、一方でこのフィラデルフィアの例のようにどの会社の製品であるかという製品の出自を示す働きもあるとされている。 なお、アメリカでもスイスチーズやバーミューダショーツのように地名を用いてはいてもすでに一般的な名称になっているものは商標としても保護の対象にならない。
※この「商標として地理的表示を保護する方法」の解説は、「原産地名称保護制度」の解説の一部です。
「商標として地理的表示を保護する方法」を含む「原産地名称保護制度」の記事については、「原産地名称保護制度」の概要を参照ください。
- 商標として地理的表示を保護する方法のページへのリンク