参議院での審議・否決
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7月6日、小泉は、参議院で否決された場合ただちに衆議院を解散して総選挙を行い、民意を問うと明言。 「小泉自由民主党体制・郵政民営化」反対派は、「王道会」という勉強会を作った。会長には綿貫民輔が就任した。7月14日の勉強会では衆議院議員49名、参議院議員10名が出席した。ただ、この時の参議院自民党には衆議院における綿貫民輔や亀井静香のような大物議員がおらず、参議院自民党において法案反対結集勢力のリーダーが存在しない状況であり、法案可決成立は微妙であった。 7月13日、参議院で郵政民営化法案の審議が開始された。また、同日、自民党の衆議院議員13名によって、「党内融和」を目的とする会合が開かれた。この会合では、「かつて自由民主党が野党になった時の惨憺たる経験を繰り返してはならない」という方針のもと、参議院で郵政民営化法案が否決された場合、衆議院解散・総選挙を回避する様に求めた。その際、反対派の議員たちは、自民党執行部からの賛成の説得を受けないようにすべく、直前まで反対を明言しない、「ステルス作戦」を行うようになる。また会合には法学者の長谷部恭男が招かれ、長谷部は参議院で法案が否決されたから衆議院を解散するのは憲法違反だと述べ、出席者の大きな共感を呼ぶ。 7月20日には、小泉は「今のところ確実に反対するのが10人前後、反対の可能性のある人は20人前後ではないか」という票読みをした。同日、青木幹雄党参議院議員会長(執行部・郵政民営化賛成派)と綿貫民輔(郵政民営化反対派)らが東京都内で会食を行っている。 また、参議院での採決が近づくにつれ、「(民営化法案が廃案になった際の)衆議院解散」の方に議員の関心が傾いていった。同時に、自民党内からは、「解散反対」の意見が噴出した。 一部反対議員からは自民党両院議員総会で小泉総裁を解任する構想もあがったが、衆議院解散を小泉のブラフと考えていたことと後任総裁が決まらなかったこともあり、実際には行われなかった(なお、党総裁を解任されても総理の在任には法的に影響しないため衆院解散そのものは可能。しかし、小泉は党首脳としての権限を振るうことはできなくなるし、郵政民営化反対議員への配慮がある自民党新執行部体制になれば、解散総選挙で郵政民営化反対衆議院議員が自民党非公認として冷遇されることもなかった)。 代わりに、参議院本会議採決に持ち込まれた場合、郵政民営化法案をできるだけ大差で否決させて、小泉首相に解散を思いとどまらせようとする案が浮上していた(衆議院解散は内閣の意向によって行われるため、参議院での採決に関わらず法的に阻止できない)。 また、天皇の国事行為である衆議院解散に当たっては、国事行為に関する助言・承認の主体としての内閣における全会一致が必要であったため、決定文書への署名を拒否することを国務大臣に促す案も浮上した(閣僚が衆議院解散に関する閣議決定文書に署名を拒否をしても、内閣総理大臣が閣僚を罷免して当該閣僚を兼任すれば、衆議院解散を法的に阻止する方法は存在しない)。 8月1日、自民党総務会決議で反対票を投じたが衆議院本会議で賛成票を投じた自民党の永岡洋治衆議院議員が、自宅にて自殺をしていたのが発見された。 8月5日、参議院郵政民営化特別委員会において採決され、自民党および公明党の賛成多数で可決された。その際、郵便局のネットワーク維持や日本郵政公社の分割民営化後も、一体経営を確保するための配慮を政府に求める計18項目の附帯決議を採択した。これは、郵政民営化反対派に対する配慮として注目された。 なお、同日、自由民主党の中曽根弘文参議院議員(中曽根康弘元首相の長男であり参議院亀井派の会長)は、「議会制民主主義の危機であり、法案に反対する。今こそ参議院議員一人ひとりが良識と自らの信念に従って判断し行動すべき。」と宣言した。自民党執行部は、「中曽根弘文参院議員は法案賛成にまわり、反対派を牽制してくれる」と考えていたため、この「反対」の意志を示したことは執行部にとって想定外であった。また、中曽根が反対派に回ったことで、中曽根が参議院における反対結集勢力のリーダー的存在となり、否決の公算が一気に強くなっていった。 自民党内では解散総選挙をすれば党内に遺恨を残し、選挙で自民党が負けて下野するとの懸念があったため、法案修正案や継続審議案などによる解散回避論が高まっていた。また衆議院を解散しても参議院の構成が変わらないため衆議院解散の意味がないと、小泉首相の解散論を批判する声もあがった(当時は衆議院での再可決に必要となる「3分の2」以上の衆議院議席を与党が獲得することは非現実的と思われていた)。 首相出身派閥領袖である森喜朗前首相が小泉首相に解散回避への直談判をするも、小泉首相は今国会での法案成立への決意を変えることはなく説得は失敗に終わった。その際、森は「寿司でもとってくれるのかと思ったが、これしか出なかった」と、缶ビールとチーズを記者団の前に差出し、自分への対応をマスコミに公開し、首相が本気だということをアピールした。小泉はかねてから立法と行政のより明確な権力の分立をめざしていた。官邸主導、自民党をぶっ壊すなどと言った小泉の言葉はこれを端的に示している。したがって従来の首相であれば、首相経験者かつ派閥領袖の説得に屈してしまい解散を断念していたであろう可能性もあったが、小泉は断固として拒否した。 8月8日、参議院本会議で郵政法案に対する投票が行われた。この法案の成否が政局になると考えられたため、2005年4月から療養中で登院していなかった社民党の田英夫も出席して反対票を投じた。自民党から反対22票・棄権8票が出て、賛成108票・反対125票で否決された(内訳は#郵政法案に反対・棄権した自民党議員を参照)。衆議院で可決された法案が、参議院本会議で否決されたのは6例目であった。
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