カルデックの心霊主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/08 10:18 UTC 版)
詳細は「スピリティズム」および「en:Espiritismot」を参照 心霊主義から派生したものに、フランス人イポリット=レオン=ドゥニザール・リヴァイユ(1804年 - 1869年)、筆名アラン・カルデックの名で知られる人物によるスピリティスム(仏:Spiritisme、スピリティズム(英:Spiritism)、カルデシズム、カルデシズモ(葡:Kardecismo)、エスピリティズモ(葡:Espiritismo)。以下カルデシズムとする)がある。カルデックは私塾で教育学、哲学、医学を教えていたといわれる。彼は社会主義思想家フーリエに影響を受けたが、彼からは当時流行していたテーブル・ターニングも学んだという。これが心霊主義と接するきっかけになった。当時のフランス社会では社会主義者らが影響力をもつようになっていたが、その一部は社会的不平等を理解するための説明として輪廻転生を受け入れていた。またカルデックは、動物磁気療法を提唱したフランツ・アントン・メスメルからも大きな影響を受けている。 カルデックは1856年に交霊会で霊媒から「今、真実であり、偉大で美しく、創造主に相応しい宗教が必要とされている。基礎的な教えは既に与えられている。リヴァイユ、汝に(その宗教を伝える)任務がある。」という啓示を受けた。カルデックは、『新約聖書』では、イエスは別の慰安者である「真理の霊」の出現を約束しており、それがカルデックだとし、イエスの隠されたメッセージを理解するために、心霊主義と科学を取り入れた新しいキリスト教を構築しようとした。従来のキリスト教は不完全だと考え、「人びとが真理を理解することができるレベルに到達したので、キリストの教えを補完するために心霊主義が現れた。」と述べている。 カルデックは、進化の原理が救済の本当の意味を復権する鍵になると考えた。「復活」とは死者が肉体を持って生き返ることだが、科学は物質が再生することが不可能であると証明している。輪廻転生とは、霊が肉体をもつようになることであるであり、「復活」とは輪廻転生であり、イエスの教えを完全なものにするのが輪廻転生の教えだとした。輪廻転生は、罪の償いと進歩のためにある。進化によって霊が最終的に救済されると、「天界あるいは神聖な世界」に到達するとされた。肉体は霊の監獄か檻のようなもので、肉体から解放された霊は本来の自由を獲得できると考えた。カルデシズムの教えでは、霊は進化しても信仰がある限り退化することはなく、現在より劣位の世界に落ちることはないされたため、カトリックの地獄や煉獄への恐怖心から解放されるという利点があった。信者たちは、カルデシズムはキリスト教であり、モーセ、キリストに継ぐ「第三の啓示」だと考えているが、カトリックはカルデックの教えを非難していた。現在のブラジルでも同様の傾向がある。 スピリティズムの聖典『霊の書』(聖霊の書)は 1857 年に著された。これはカルデックの質問に数人の霊が答えるという形式で書かれている。カルデシズムは、過去の数々の教えの集大成で、人間ではなく、天の声を伝える諸霊によって明らかにされたものであり、彼が信頼できると判断した複数の霊媒による交信を比較検討してまとめたものであるという。カルデックの著作は主にラテン諸国で読まれベストセラーとなった。カルデシズムは、とくにブラジルにおいて、カルデシズモの名で広く支持されている。その信望者はブラジルにおいて150万人以上にもなる。 カルデシズムは、世界は超越的な神によって統御されるいくつかの小世界からなっており、進化と因果律に支配されているという。従来の欧米系の心霊主義と異なり、「輪廻転生」の教義を持つ点に大きな特徴がある。人間の霊魂は輪廻転生を繰り返しながら霊界を進化するとされ、霊も同じ法則に従い、与えられた自由意志によって輪廻転生しながら高等な霊へと進化していく。カルデシズムではこれを「霊の進化」と呼ぶ。霊の進化と霊媒による霊との交流を根本的な宗教的実践とする。また、霊には下級から上級までのヒエラルキーがあり、そのレベルを上げる「霊の進化」が信じられている。神から自由意思を与えられた霊は、過ちという「負債」を作り、これが苦しみの原因であると考えられている。霊のレベルは過去世と今世での善行で決定され、慈善活動は善行の根本的なものである。慈善活動は、自らの霊としてのレベルを上げ、過去あるいは過去世の負債を支払い、また神から徳分(メレシメント)が与えられる救済に至る方法のひとつである。 ブラジルのカルデシズムは中間層と低所得者層に広まっているが、前者は教会での活動に熱心であり、後者が教会の慈善活動を受益する形となっている。自然と超自然、科学と宗教を分けず、信者は自らの行いを科学的・哲学的実践と考えている。また、カルデシズムの宗教施設では、霊媒に自身の苦難について相談するコンスウタ(診察)を受けることができる。相談者は必ずしも信者であるとは限らず、相談料は無料である。診断で苦難の原因が明らかにされ、霊が関わっている場合とそうでない場合とに分けられるが、たいていの苦難は霊の障りによると考えられている。霊が原因の場合、相談者は霊媒の手かざしによる霊的治療(パッセ)を受け、教理の勉強会に参加し、慈善活動をすることで苦難が除かれるとされる。こうしたプロセスを経て、その中から信者が生まれる。カルデシズムでは個人の意志は尊重されるべきものだとされ、救済されるか否かは当人の努力次第と考えられているため、コンスウタ(診察)で指示された活動への参加は自由である。なお、霊の障りでない場合は、病院で標準治療を受けることになる。教理の勉強会で読まれる本は、アラン・カルデックの『霊の書』、『霊媒師の書』、『エスピリティズモによる福音』であるが、ブラジルのカルデシズムの「法王」と呼ばれる霊媒シコ・シャビエール(ポルトガル語版)(1910年 - 2002年)の著作も好んで読まれている。カルデシズムでは、人は潜在的に霊媒であり、訓練で霊能力を意識的にコントロールすることができるようになるとされるため、霊能力開発の勉強会も開催されている。 ブラジルの宗教は、カトリック、カルデシズムの他に、アフリカのヨルバ族の信仰とカトリックが結びついたカンドンブレがある。ラテンアメリカやカリブでは、心霊主義はエスピリティズモとよばれるが、近代心霊主義にアメリカ大陸の先住民やアフリカ人の祖先崇拝・トランスといった伝統が結びついて体系化されたもので、カルデシズムはこれに含まれる。20世紀前半にブラジルで生まれた、カンドンブレにカルデシズム、カトリック等を取り入れたアフリカ色の濃い心霊主義的習合宗教は、ウンバンダと呼ばれ、これも広く信仰されている。 日本からの移民が多いブラジルは、天理教、世界救世教といった日本の新宗教の布教が世界で一番成功している国である。カルデシズムとこれら日本の新宗教は教義の共通点が多く、ブラジルの人々に親しみやすかったが、これは偶然ではなく、共に近代心霊主義の影響を受けているためである。
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