租税法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/05 09:53 UTC 版)
法解釈
租税法は、国民(納税義務者)の財産権の侵害規範であり、租税法律主義の原則が働くため、その法解釈は原則として、法文に基づく文理解釈とすべきで、類推解釈や拡張解釈を行うことは許されないとされる[31][32]。ただし、文理解釈により規定内容を明らかにすることが困難な場合において、その趣旨・目的に照らした目的論的解釈を行うこととなる[31][33][34]。
租税法の解釈原理として、“in dubio pro fisco”(疑わしきは国庫の利益に/納税者の不利益に)と、“in dubio contra fiscum”(疑わしきは国庫の不利益に/納税者の利益に)という2つの見解がある[34][35]。前者を主張する者はおらず、その解釈原理も成り立たない[35][36]。後者については、法文の意義について疑わしい場合にその解釈することを放棄することは、その法を適用する者の義務を放棄することであり、租税法の解釈原理としては成り立たないとされるが[37]、租税法の解釈に関して1つの法令に対し複数の解釈が成り立ちどちらかを選択する必要が出た場合には、租税法律主義(課税要件明確主義)に反していることになりその規定が無効となるため、結果的に後者の解釈原理が成り立つこととなる[38][39]。
1976年末に廃止された西ドイツの「旧租税調整法(ドイツ語: Steueranpassungsgesetz)[40]」の第1条第2項では、「租税法律の解釈に当たっては、国民思想、租税法律の目的及び経済的意義、並びに諸関係の発展を考慮しなければならない」と規定されていた[34][41][注釈 4]。この租税法の解釈にあたって経済的意義を考慮しなければならないという考え方は、「経済的観察法」と呼ばれる[34]。
概念
租税は市民生活秩序を前提とする私的経済取引を対象とするものであるため、租税法ではそうしたものを対象とする他の法律の用語や概念を用いて規定することも多く、租税法で用いる概念には借用概念(他の法分野の概念)と固有概念(租税法独自の概念)の2種類がある[42][43][44]。
- 借用概念
借用概念とは、他の法分野(特に民法・商法等の私法)で用いられる概念をいう[43]。借用概念については、それを他の法分野と同じ意義で用いるか、租税法の立場から異なる意義で用いるかが問題となる[45]。ドイツでは、第二次世界大戦後、原則として同じ意義として解釈するべきであるという見解が支配的である[45]。日本では、統一説・独立説・目的適合説の3つの見解が対立しているが、租税法が他の(本来の)法分野の概念を取り込んで用いている以上は、本来の法分野の意義を知っていることが前提となり、法的安定性の見地からは、異なる意義を用いる旨の特別の規定がある場合を除き、原則として本来の法分野と同じ意義に解釈することが好ましいとされる[45][46]。
- 固有概念
固有概念とは、借用概念に対する租税法独自の概念をいう[43]。固有概念は、他の法分野とは無関係に租税法独自の見地からその意義を決められる[47]。ただし、固有概念の意義は客観的に捉えられるものでなければならず、課税上の合理性が存在しない固有概念は、日本国憲法第14条等に違反するため無効とされる[44]。
注釈
- ^ 個別の租税法の内容は他の独立した記事で説明することになるので、当記事で取り扱う内容は主にこの部分に関するものが中心となる。
- ^ 一般に政令は「施行令」、省令は「施行規則」と呼ばれる。ただし、1964年(昭和39年)以前は政令を「施行規則」、省令を「施行細則」と呼んでいた[22]。
- ^ ただし、通達に基づいて課税処分が行われた場合であっても、その通達の内容が法律の正しい解釈と合致している場合には、法律に基づいて行われた課税処分とされる[25]。
- ^ 旧ドイツ租税調整法は、1977年の「租税基本法(Abgabenordnung)」の改正に際して吸収統一され、この規定は承継されなかった[41]。
出典
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