租税法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/05 09:53 UTC 版)
歴史
ドイツ、アメリカ等では第一次世界大戦後、日本では第二次世界大戦後、解決を要する法律問題の増大を背景として展開した。これは、福祉国家の名のもとに財政需要が拡大し、大衆課税が浸透した結果、租税を巡って国家と国民との間の緊張関係が高まり、争訟が急増したためである。とりわけ1990年代以降には大型訴訟が相次ぎ[1]、社会的需要の大きさが認知された。今日では私的取引との相互関係をより重視する機能的な体系や、公共経済学やファイナンス理論の知見を活かした見方を前面に押し出すものが有力になっている。
体系
租税法(学)は、大きく租税法序説、租税実体法、租税手続法、租税訴訟法、租税処罰法の5つに分類される[2][3][4]。
- 租税法序説(税法基礎理論、租税基礎法)
- 租税法全体に関する基本的な問題を扱う部分[注釈 1]。
- 租税実体法(租税債務法)
- 納税義務者、課税物件、課税標準、税率等の納税義務(租税債務)が成立するための要件(課税要件)を扱う部分。所得税法、法人税法、相続税法等といった個々の租税法が該当する。
- 租税手続法(租税行政法)
- 納税義務の確定・履行、租税の徴収の手続きに関する内容を扱う部分。国税通則法、国税徴収法が該当する。
- 租税訴訟法(租税救済法)
- 租税法に基づく更正や決定等の各種処分に対する訴訟等に関する救済制度の内容を扱う部分。個々の租税法や国税通則法の関連規定等が該当する。
- 租税処罰法(租税制裁法)
- 租税犯とその処罰に関する内容を扱う部分。個々の租税法や国税通則法の関連規定等が該当する。
また、上記区分のほか、「租税実体法」「租税手続法」の2つに大別する考えや、「租税実体法」「租税手続法」「租税処罰法」の3つに大別する考えがある[3]。
租税法律関係
国家と国民の間の租税を取り巻く法律関係を租税法律関係(ドイツ語: Steuerrechtsverhältnis)といい、租税法学は租税法律関係の体系的・理論的研究を目的とする法分野ともされる[5]。
性質
租税法律関係の性質については、その関係を、権力関係(ドイツ語: Gewaltverhältnis)と見る租税権力関係説と、債務関係(ドイツ語: Schuldverhältnis)と見る租税債務関係説の2つの学説が対立している[5][6]。
- 租税権力関係説
- オットー・マイヤーを中心とするドイツの行政法学者間の伝統的な学説であり、租税債務関係を国民が国家の課税権に服従する関係、国家に対して優越的な地位を与える関係とみる考え方である[5][6]。
ドイツでは、1926年3月30日のドイツ国法学者協会において、「公法の概念構成に対する租税法の影響」というテーマの下に、アルベルト・ヘンゼル(ドイツ語: Albert Hensel (Rechtswissenschaftler))が租税債務関係説の立場に立った報告を行い、オットマール・ビューラー(ドイツ語: Ottmar Bühler)が租税権力関係説の立場に立った報告を行ったことにより、この2つの学説が明確化し、対立することとなった[7]。
租税法律関係は、いずれかの学説に一元的に性質づけることは適切ではないが、日本の租税法学においては租税債務関係説を中心として体系化している[8][9]。
特色
租税法律関係の中心は上述のように債務関係であるが、以下のような私法上の債務関係と異なる特質を持っている[10]。
- 法定債務
- 租税債務は法定債務であり、私法上の債務とは違い、当事者の合意によってその内容が決まるわけではない[11]。
- 種々の特権
- 租税の確定や徴収は公平・確実・迅速に行う必要があるため、債権者である国家の側に、私法上の債権者にはない種々の特権が留保されている[11]。
注釈
- ^ 個別の租税法の内容は他の独立した記事で説明することになるので、当記事で取り扱う内容は主にこの部分に関するものが中心となる。
- ^ 一般に政令は「施行令」、省令は「施行規則」と呼ばれる。ただし、1964年(昭和39年)以前は政令を「施行規則」、省令を「施行細則」と呼んでいた[22]。
- ^ ただし、通達に基づいて課税処分が行われた場合であっても、その通達の内容が法律の正しい解釈と合致している場合には、法律に基づいて行われた課税処分とされる[25]。
- ^ 旧ドイツ租税調整法は、1977年の「租税基本法(Abgabenordnung)」の改正に際して吸収統一され、この規定は承継されなかった[41]。
出典
- ^ “国税庁、「興銀訴訟最高裁判決を真摯に受け止めたい」(2005.4.6)”. 株式会社ロータス21. 2020年6月10日閲覧。
- ^ 金子 2019, pp. 30–31.
- ^ a b 清永 2013, pp. 11–13.
- ^ 北野 2020, p. 50.
- ^ a b c d 金子 2019, p. 27.
- ^ a b c 清永 2013, p. 58.
- ^ a b 金子 2019, p. 28.
- ^ 清永 2013, p. 59.
- ^ 金子 2019, p. 29.
- ^ 金子 2019, p. 31.
- ^ a b c 金子 2019, p. 32.
- ^ 金子 2019, p. 80.
- ^ a b c 清永 2013, p. 28.
- ^ 金子 2019, p. 89.
- ^ 金子 2019, p. 78.
- ^ 水野 2011, p. 33.
- ^ 金子 2019, p. 98.
- ^ 清永 2013, p. 29.
- ^ 金子 2019, pp. 107–119.
- ^ 清永 2013, pp. 17–22.
- ^ 清永 2013, p. 17.
- ^ 清永 2013, p. 19.
- ^ 清永 2013, pp. 21–22.
- ^ 金子 2019, pp. 115–119.
- ^ a b 中里ほか 2020, p. 3.
- ^ 須田 1998, p. 423.
- ^ 須田 1998, pp. 5–6.
- ^ “U.S. Code: Title 26. INTERNAL REVENUE CODE” (英語). Legal Information Institute. 2020年6月10日閲覧。
- ^ 金子 2019, pp. 119–122.
- ^ 清永 2013, pp. 23–24.
- ^ a b 清永 2013, p. 35.
- ^ 金子 2019, p. 123.
- ^ 金子ほか 2016, p. 52.
- ^ a b c d 金子 2019, p. 124.
- ^ a b 清永 2013, p. 36.
- ^ 金子 2019, pp. 124–125.
- ^ 金子 2019, p. 125.
- ^ 清永 2013, p. 37.
- ^ 北野 2020, p. 81.
- ^ “Vollständiger Gesetzestext 1934 S. 925 - 941” (ドイツ語). ALEX – Historische Rechts- und Gesetzestexte Online. 2020年12月10日閲覧。
- ^ a b 金子ほか 2016, p. 54.
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- ^ ラムザイヤー & 中里 2010, p. 56.
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- ^ a b 金子 2019, p. 39.
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- ^ 金子 2019, pp. 549–550.
- ^ 本庄, 田井 & 関口 2018, pp. 1–2.
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- ^ 藤本 2005, pp. 4.
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- ^ 本庄, 田井 & 関口 2018, pp. 9–11.
- ^ 本庄, 田井 & 関口 2018, p. 8.
- ^ 金子 2019, p. 552.
- ^ 本庄, 田井 & 関口 2018, p. 19.
- ^ 本庄, 田井 & 関口 2018, pp. 11–18.
- ^ “租税条約に関する資料”. 財務省. 2020年11月26日閲覧。
- ^ “新司法試験の仕組み”. 法務省. 2020年9月5日閲覧。
- ^ “公認会計士試験に関するQ&A”. 公認会計士・監査審査会. 2020年9月5日閲覧。
- ^ “税理士試験の概要”. 国税庁. 2020年9月5日閲覧。
- ^ “8003 通関士試験の試験科目(カスタムスアンサー)”. 税関. 2020年9月5日閲覧。
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