古典ラテン語とは? わかりやすく解説

古典ラテン語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/10 02:57 UTC 版)

古典ラテン語
Lingua Latina
発音 IPA: [liŋgwa latiːna]
話される国 古代ローマ帝国
消滅時期 4世紀までに中世ラテン語が発達
言語系統
表記体系 ラテン文字
言語コード
ISO 639-1 la
ISO 639-2 lat
ISO 639-3 lat
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古典ラテン語(こてんラテンご)とは、古典期の書き言葉のラテン語を指す。紀元前1世紀頃から紀元2世紀頃までの古代ローマ共和政ローマローマ帝国)で使われ、古典期ラテン語とも言う。古ラテン語の次の時代のラテン語に当たる。

後の中世、また現代において人々が学ぶラテン語とは、通常この古典ラテン語のことをいう。

概要

古典期のアルファベットは下記の23文字である。なお母音字 V は後の時代の U を表している[1]古ラテン語までは X までの21文字だったが、紀元の初めにギリシア語起源の外来語を表記するために YZ[2] の2文字が使われるようになった。母音字は、AIVEOY の六つ。C は [k]、G は [g] と発音された。小文字は無く、大文字のみを用いた。

ABCDEFGHIKLMNOPQRSTVXYZ

母音には長音と短音があった。しかし綴りでは、ごく一時期を除き、長短音の表記上の区別はされなかった。

下記の二重母音(複母音)は一つの母音と見なされた。しかし綴りでは、「二つの母音の連続」との表記上の区別はされなかった。

AE、AV、EI、EV、OE、VI、OI、AI

母音字兼半母音字は二つの音価を持った:

I は [i] と [j] の音を表す。
V は [u] と [w] の音を表す。

アクセントは、現代ロマンス諸語に見られるような強勢アクセントだけではなく、古典ギリシア語から伝えられたと思われる、現代日本語のようなピッチアクセント高低アクセント)もあった。

文法面では、古ラテン語依格(処格、地格)は一部の地名などを除いて消滅し、呼格を含めれば六つのが使用された。また古ラテン語語尾 -os や -om は、古典期には -us, -um となった。

古典期までは、続け書き(scriptio continua、スクリプティオー・コンティーヌア)を用い、分かち書きにする習慣はなかった。碑文などでは、小さな中黒のようなもので単語を区切った事例がある。

当時の代表的な作家としては、ユリウス・カエサルキケロウェルギリウスオウィディウスホラティウスなどがいる。黄金期、白銀期として扱われている。

ギリシア語由来語

ギリシア語由来語の綴りと発音は、

  • 母音字 Υ/υ は、ラテン語では Y/y と綴り、発音は /ju/ もしくは /juː/
  • 子音字 Ζ/ζ は、ラテン語では Z/z と綴り、発音は /z/
  • 有気子音字は(φ、θ、χ)、ラテン語では「無気子音字 + h」と綴り(ph, th, ch)、発音は無気子音(/p/, /t/, /k/)
  • 無声子音字 ρ (語頭)は、ラテン語では rh と綴り、発音は有声の /r/

古典期の話し言葉の発音の変化

古典期の話し言葉では、以下に関して古ラテン語の綴り通りの発音から変化が生じ、元来の発音が廃れていった。

  • 「長母音 + I + 母音」 → 「二重母音[3] + /j/ + 母音」の発音へ変化(例:TRŌIA /troija/ トロイヤ)
  • bs と bt → /ps/ と /pt/ の発音へ変化
  • ae と oe → /ai/ と /ɔi/ の発音へ変化[4]

民衆の話し言葉の発音の変化

民衆の日常の話し言葉俗ラテン語)では、

  • 文末の -s は後ろに母音が続かない限り発音されない場合があった。
  • AV (au) は ō /oː/ と発音した。

後世のロマンス諸語

ロマンス諸語では、

  • C が [s], [tʃ] と発音されるようになった
  • G が [ʒ], [dʒ] と発音されるようになった
  • V [w] が [v] と発音されるようになった
  • ph の綴りは /f/ と発音される

脚注

  1. ^ 後の時代に、母音と子音(半母音)を区別する文字が作られた(I と J、V と U)。
  2. ^ ラテン語に不要な/z/の音を表す古ラテン語初期のZの使用は断絶していたが、古典ラテン語の時期に使用が復活した。
  3. ^ この二重母音は、oi, ai, ei, ui。
  4. ^ 日本などの古典ラテン語教科書の中では、この発音変化を取り上げていないものもある

関連項目


古典ラテン語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 14:51 UTC 版)

ラテン語」の記事における「古典ラテン語」の解説

詳細は「古典ラテン語」を参照 紀元前1世紀以降、数世紀わたって用いられラテン語は古典ラテン語(古典期ラテン語)と呼ばれる。のちの中世、また現代において人々が学ぶ「ラテン語」は、通常この古典ラテン語のことをいう。この古典ラテン語は書き言葉であり、多く文献残されているが、人々日常話していた言葉俗ラテン語口語ラテン語)と呼ばれる。この俗ラテン語現代ロマンス諸語へと変化していった。 古ラテン語同様に、scriptio continua(スクリプティオー・コンティーヌア、続け書きといって単語同士分かち書きにする習慣がなかった(碑文などでは、小さな中黒のようなもので単語区切った例もある)。アルファベットキケロ(前10643)の時代までは X までの21文字だった。また、大文字のみを用いた紀元初めにギリシア語起源外来語表記するために Y と Z が新たに使われるようになり、アルファベットは以下の 23 文字となったA B C D E F G H I K L M N O P Q R S T V X Y Z ただし、K は KALENDAE 等の他は固有名詞限定され常用されることはなくなり、[k] の音は C が常用された(ただし [kw] は QU表記した) 。 古典ラテン語では C および G はそれぞれ常に [k] および [ɡ] と発音された。Y を含めた6つ母音字長短両方表したが、ごく一時期除き表記上の区別はされなかった。 古典ラテン語のアクセントは、現代ロマンス諸語見られるような強勢アクセントではなく現代日本語のようなピッチアクセント(高低アクセントであったとされる(強勢アクセントとする説も存在する)。文法面では、古ラテン語の所格(処格地格位格、依格、於格などともいう)は一部地名など除いて消滅し六つの格(主格呼格属格与格対格奪格)が使用された。また以前時代語尾 -os, -om は、古典期には -us, -um となった。 この時代話し言葉俗ラテン語)では、文末の -s は後ろ母音続かない限り発音されない場合があった。また au日常では [ɔː] と読まれた。このように古典期には、話し言葉古風な特徴残した書き言葉乖離起きていた。現在古典ラテン語と呼ばれるものはこの時期書き言葉である。

※この「古典ラテン語」の解説は、「ラテン語」の解説の一部です。
「古典ラテン語」を含む「ラテン語」の記事については、「ラテン語」の概要を参照ください。

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