雇用悪化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/01 02:44 UTC 版)
バブル崩壊後に過剰人員による人件費の負担増に悩まされた企業は、2004年の派遣法改正で製造業での派遣も認められたこともうけて、業務拡大に際し、正規従業員の雇用増以上に、非正規社員(派遣社員・請負社員・契約社員・期間雇用)の雇用拡大や業務委託で賄った。また、税収増を見込んだ税法改正により、退職給付引当金が損金算入されなくなったことも、非正規雇用の増加に拍車を掛けたといわれている。 一方で、景気が縮小に転ずると、企業は契約の更新を停止するなどして雇用削減に動き、更に業績の悪化で、正社員の削減・配置転換・出向を行う企業や、副業を許可する企業も出てきている。雇用の悪化は急速かつ深刻な状況で、求人広告の少なさから求人情報誌の統合・廃刊が相次いだ。 派遣切り 製造業を中心に2008年秋ごろより派遣切りの動きが顕在化した。例えば、2009年春までの契約期間があるにもかかわらず2008年秋~年末にかけて派遣先企業が、派遣元企業に違約金を支払うなどして、契約の途中解除を行う事例がでた。加えて、業界全体で業務縮小が一斉に行われたために派遣元企業は他への紹介が出来ず、結局のところ派遣元企業も派遣社員に業務をあてがう事が出来ずに契約解除することが広く行われた。同時に派遣元企業が提供していた寮や社宅からの退去も求められ、職と住居を同時に喪う派遣労働者が続出した。 一方で、主に2009年春で契約期限切れとなる派遣契約・期間工雇用契約などについても、契約の更新をしないと予告する企業が相次ぎ、今年度一杯で失職する労働者の数は多数に上ると報じられる。殊に、2007年の労働者派遣法の改正に伴い最長3年の派遣契約を結んだものが2009年春に一斉に切れることから失業者の発生が集中すると予想されていた(2009年問題)。 一部の地方自治体では職を失った労働者を、臨時職員として短期雇用するところもある。 セーフティーネット機能不全 特に登録型派遣の場合には、ある企業に勤務中は当該企業の社会保障制度に加入し、そこの業務が終了すると国民健康保険に切り替え、また次の企業に勤務する際には別の制度に加入するという制度間の切り替えが煩雑に起こる。そのために、最低加入期間の条件(例えば連続して1年以上の加入を要する、など)を満たす事が出来ずに、ほとんどの恩恵を受けられずに困窮する事例が報道される。そもそも、雇用保険に加入していない派遣労働者もあり、職を喪った途端に収入の道が途絶える者も多い。 これに対してはセーフティーネットが充分な機能を果たしていないという批判の声が上がった。一方で、舛添大臣は「細切れの加入期間で都度受給を認めることは望ましくなく、例えば最低6ヶ月の加入を条件とすべき」と述べた。第171回国会では雇用保険の加入条件緩和が議論され、与党が6ヶ月以上勤労見込みへの緩和を提案する一方で野党は31日以上勤労見込みに緩和する様求めている。 内定取り消し 不動産関係の分野を中心に、業績が急激に悪化した事を受けて、2009年春卒業の学生の就職内定を取り消す事例がしばしば報道された。いくばくかの補償金を支払う企業もあるが、しばしば内定取り消しを通知する書類一枚が送りつけられるだけの事例が伝えられた。また、就職前に不安に思った学生が企業に問い合わせても「大丈夫」と言われつづけ、突然に取り消しを通知された事例、内定式を済ませたり、業務に必要な資格を受験する様に指示した後に突然通知される事例も報じられた。 他にも、学生に対して「自己都合で内定を辞退する」様に強要したり、「来春の入社後一定期間で辞職する」特約を受け容れる様に強いる事例も伝えられる。 これに対し批判の声が上がり、政府は条件を設けて内定取り消しが著しい企業名を公表する事を決めた。 また、一部大学は内定を取り消された学生について卒業を再来年春に延期する処置を執ったり、例えば10万円などの少額で在籍延長を認める処置を執った。 育休切り 育児休暇中の者に、業務の悪化を理由として解雇を通知したり、復職時に非正規社員化する事例も報じられた。企業側はこの行為は全く法律に違反していないとしている。 操業時間短縮・副業推奨 製造業の企業では、今後の製品需要の大幅な減退を予想して生産量を抑えるために、年末年始の休暇を延長したり、工場の稼動日を削減するところも出てきた。2月の操業を7日間に限る事例もある。正社員に対しては休業日についても賃金の一定割合を支払うとしている。一方で、社員の収入減を補う副業を許可したり推奨する事例もある。 製鉄会社の中には高炉の火を落とすところもでてきた。 正社員削減 急激な業績悪化を受けて、派遣契約解除、期間工採用停止など非正規社員の数を減らしたり無くすのに加えて、正社員の削減に動く企業もでてきたことが伝えられる。また、配置転換を行ったり、子会社、下請け企業への出向を進めて本体を身軽にする処置も伝えられる。 ワークシェアリング・無給休日 いわゆる派遣切りを中心として失業者が多数生じることを問題視する向きからはワークシェアリングを積極的に導入して雇用維持を訴える意見も出され、経営者側からも導入に前向きな意見が出された。一部の企業は無給休日を設定して賃金を削減することを労働組合に提案した。これに対し連合は、賃金引下げの口実になるとして消極的姿勢を示し、雇用の維持と、内需拡大に繋がる賃金引き上げを求めている。 日雇い派遣禁止へ 2010年春をめどに、日雇い派遣を禁止する動きが出ている。これに対して、業務量の変化が激しく、必要に応じて人手を要求する流通業や引越し業者からは懸念が示されている。一方で日雇い派遣を生業とする派遣企業は、短期の派遣から短期の業務を請け負う形態に業務形態を移行することを検討している事例が報道された。 中途採用拡大 その一方で、外食産業、農業、介護分野では、他業界の余剰人員を採用して人手不足を解消する動きに出ている。外食チェーンでは大々的に正社員の採用に乗り出したところがある。介護分野では低賃金から労働力不足に陥っていたものが、介護報酬引き上げをうけた待遇改善をてこに採用拡大に乗り出している。この他にも、林業分野からのアプローチが伝えられる。
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