諸分野との関係性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/13 07:15 UTC 版)
異世界を舞台にした作品はなろう系のヒット以前にも存在するが、ライトノベルのジャンルで異世界へ行く場合がほとんどなのは前例がなく、他のライトノベル以上に厳密なルールがある。平井幸は二次創作との類似を指摘し、一次創作で読者があまり納得できない、こうすればよかったと思って作り上げた主人公の動きがなろう系異世界作品で、MAGKANは主人公の名前を自由に設定可能なドリーム小説に通ずる部分も感じられるとしている。また平井はオンライン小説がゆえに流行を取り組むのが早く、文章が読みやすいようにサイト運営側や筆者が調整しやすいことも挙げた。 大橋崇行は、パターン化された展開を踏まえて誰でも手軽に小説を書くことができるとし、「異世界」に飛ばされた主人公が持つ能力は筆者の得意分野を活かして他作品と差別化できる部分であるものの、寄席の興行の大喜利のように組み合わせによってどう進むかという点で楽しまれるとみている。その一方で大橋は、小説投稿サイトにおいて利用者の中でコミュニティが形成され、受け手送り手両方が外へ出ていくことが難しくなり強固な形で進展するパターン化したものから外れると読まれ難くなるが、同ジャンルの筆者と読者との間の凝集性が今までの小説より緊密になり、異世界ものが広まった1つの要因だとみている。 また、大橋はなろう系が現代の時代劇であるとしており、時代劇の舞台である江戸時代の街は史実とは異なる上に展開がパターン化されている点から、後世に形成された理想的なファンタジー世界であるパターン化された異世界だと考え、想像力の源が現代ではゲーム的な世界だとすると異世界が理解がしやすいと分析した。MF文庫J編集部副編集長の池本昌仁は最初から作品内容を説明するのは難しいためフォーマットが必要で時代劇はお上や岡っ引きの存在は誰もが知っていることで成立しており、本ジャンルが平成、令和の時代劇であるとしている。いくらかの作品は池波正太郎作品の影響が指摘されており、『オーバーロード』のなどの戦闘シーンにはそれが感じられ、筆者の丸山くがねは強さを提示した上で主人公が瞬殺する『剣客商売』を好んでおり、グルメ描写は『異世界居酒屋「のぶ」』などに影響を与え、2010年代デビューの一般文芸作家に池波ファンはなかなか見当たらないがオンライン小説出身者にはいくらか存在する。「追放もの」、「ざまぁ」作品についてmoemeeは異世界に行くのが起承転結の承だが、「ざまぁ」では起で、追放した側が自業自得な結果となり、主人公が無視や適当にあしらったり情けをかけることもあるが、それよりも見下していた相手に縋り付く無様な姿が最大の「ざまぁ」ポイントで読者にカタルシスを与え、『水戸黄門』『半沢直樹』のような勧善懲悪ストーリーで、その手の作品で悪人の悪事がどうやってバレるのか、屈辱を受けるのかが楽しみな人も多いとみられ、その点では流行して当然のジャンルといえるかもしれないとする。 宇野常寛はハーレクインのような定番として完全に定着し、『アベンジャーズ』のような現実を抽象化して表現した映し鏡的作品となろう系は対立しており、『アベンジャーズ』は持てる者、リア充という現実のプレイヤーの人たちのための物語で、どれだけ努力しようが何になることもできず自ら世界に手を触れられないと絶望している人たち物語が本ジャンルであるとしたが、後に韓国ドラマ『愛の不時着』の存在により修正し、同作品は家族から孤立した財閥令嬢がベンチャー企業を成長させて実力で後を継ごうとし、彼女がパラグライダーで北朝鮮に不時着して出会ったイケメン将校かつピアニストというチート青年に助け出されて恋に落ちるという展開を「財閥令嬢の私が北朝鮮に不時着したらイケメン将校に愛された件」と表現、北朝鮮の文化が面白おかしく扱われ韓国の現代知識を持ったヒロインが変わった方法で役立っていくのはグローバルエリート的、『アベンジャーズ』的な持てる者の物語になろう系のノウハウがリア充側に持って行かれているとしている。 谷川嘉浩は19世紀後半のアメリカで待遇の悪い女性労働者の間で流行したペーパーバックの大衆小説にも同じような都合のいい展開が多く、当時の文学者や作家から批判されていたことを指摘している。 高木敦史はパターン化された展開が揶揄されているが面白い状況だと言い、20世紀末に音楽業界でインディーズバンドが人気によりメジャーデビューした結果、インディーズバンドが似たようなものばかりになったことと類似しており、自らも同じ思いだったが振り返ると格好いいのは格好いいし活動を続けている人もいることから新発見されて人が集まり更に新しいものが生まれるのは健全だとしている。 水野良は、ディストピアのカウンターとしてあるユートピアともいえるのが、なろう系異世界ファンタジーだとしている。そして、ゲーム的ファンタジー作品が多いのは知っている世界のイメージをベースとして各作品でオリジナリティを出していくのは読者の知識がそのまま使用可能で、設定の説明が少なく物語に集中しやすく設定周りがアウトソーシングされており、素晴らしいシステムだと評価した。大橋崇行は先に挙げた『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』や『スレイヤーズ』『ロードス島戦記』といった作品を1990年代から2000年代に好んだ世代で、同時期に若者だった人がRPGの物語を知っている前提で読んでおり、オンライン小説の執筆投稿と受容にはゲーム的要素が教養として作用しているとみている。浅島美悠はキャラがコンピュータゲームでいう強くてニューゲームの状態であると指摘している。 三宅陽一郎と宮路洋一はAIによる物語の自動生成のように王道から外れた新鮮で突飛な展開がまさになろう系ファンタジーだとしている。 追放ものは以前よりある復讐ドロドロタイプのレディースコミックやテレビ番組『痛快TV スカッとジャパン』の存在のようにそれを見て溜飲を下げることへのニーズが指摘されている。
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