第10巻: ウェイク
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 23:48 UTC 版)
「サンドマン (ヴァーティゴ)」の記事における「第10巻: ウェイク」の解説
表題の "wake" には「目覚める」のほか「通夜」や「航跡」の意味があり、第70–72号のタイトル中でそれぞれ異なる意味で使われている。これらの号ではモルフェウスと呼ばれていたドリームの通夜と葬儀が描かれ、最後に "You"(読者)が目覚めることで物語の本編が完結する。続く第73号は通夜のエピローグであるとともに、第2巻以来モルフェウスと友情を育んできたホブ・ガドリングの物語の締めくくりにもなっている。残る第74, 75号はどちらも作中の過去を舞台にした短編である。 第70–73号ではペン入れは行われず、マイケル・ズリによる鉛筆画のみで印刷された。ズリの精細な絵が用いられたのは前巻のミニマリズムと対照させる意図があった。逆に第74号にはペンシラーがおらず、インクだけで描かれた。アーティストのジョン・J・ミュースは原稿に直接色紙や布地を貼り付けて彩色を行った。 The Wake 兄弟の死を知らされた5人のエンドレスはネクロポリス・リサージに集まる。彼らは地下墓地の深奥に使者を送り、葬儀のための経帷子を受け取らせる。一方、元は幼子ダニエルであった新しいドリームは自らの葬儀に参加することが許されず、ドリーミングの再創造に専念する。モルフェウスと呼ばれていたドリームの部下であった大烏のマシューは主と最期を共にすることができなかったことを悔い、新しいドリームを拒絶する。 その夜、ドリーミングで通夜が開かれる。「夢で訪れた者と招かれた者、祝う者と悼む者」、シリーズに登場してきたキャラクターの大半が集い、死者の記憶を語り合う。翌日の告別式では、列席者が順に弔辞を述べ、夢の王の生と死を振り返っていく。最後にデスが別れを告げる。 わずかな門衛とともに居城に残っていたドリームはディストラクションの短い訪問を受ける。また自身の仇ともいえるリタ・ホールや、かつて自身を幽閉したアレックス・バージェスと面会し、保護を与えて送り出す。葬儀を経たマシューは気持ちに折り合いをつけ、新しいドリームの肩に止まって助言を申し出る。二人はエンドレスの兄弟姉妹との初顔合わせに臨む。 An Epilogue, Sunday Mourning 不老不死のホブ・ガドリングはガールフレンドのグウェンに誘われてルネサンス・フェア(英語版)(歴史上のヨーロッパを再現する祭)に赴く。その時代を実際に生きてきたホブには上辺だけの真似事でしかないが、それでもなお過去に捨ててきた人生の記憶を呼び覚まされる。 喧騒を逃れて古ぼけた小屋に入ると、彼を追ってデスが現れる。ホブは夢で見た旧友の通夜が本当の出来事だったことを察する。はるか昔にドリーム(モルフェウス)と交わした約束は、ホブが心からそう望むまで死が訪れることはないというものだった。デスは弟に代わってホブの意思を確かめる。ホブにとって生と死の意味は600年前ほど明快ではなくなっていた。彼は思いを言葉にしながらゆっくりと考え、まだその日ではないと答える。 ホブは夢の中でドリームと再会し、談笑しながら日没を歩く。やがて目を覚まし、グウェンとともに帰途につく。 Exiles 中国皇帝の相談役として栄華を極めた老人は、息子が白蓮教の反乱に関わったことで流刑に処せられる。帝国の最果てを目指して砂漠を渡る途中、老人は供とはぐれ、時間が可塑性を持つ「柔らかな場所」に迷い込む。彼はオルフェウスを死なせた直後のドリーム(モルフェウス)と出会い、息子を失った心情を分かち合う。 老人は再び「柔らかな場所」を歩み出し、難所を越える。その先には新たなドリーム(ダニエル)がいた。ドリームはかつての自分の運命から学んだ教訓に従って、時の狭間に閉じ込められていた人間たちを解放していく。自分に仕えよという申し出を丁重に断った老人は、終の棲家となるであろう流刑地に向かいながら、ローマ兵の放浪者が呟いた一句を繰り返す。「万物は変転す、何物も去り行かず (Omnia mutantur, nihil interit)」 本作は第6巻の短編 Soft Places と舞台を共有している。ラテン語の句は『変身物語』から引かれたもので、本作のテーマを総括するものと見られる。 The Tempest かつて、野心に溢れた若者だったウィリアム・シェイクスピアは、ドリーム(モルフェウス)のために戯曲を書く代わりに才能を引き出してもらう契約を交わした。晩年の彼は、故郷ストラトフォードに置き去りにしてきた妻子のもとに戻り、日々の暮らしの傍らで生涯最後の戯曲『テンペスト』を書き上げる。この作品はドリームが自身のために依頼したものだった。 シェイクスピアはドリームの居城で契約の満了を祝いながら、創作に捧げた一生を少なからぬ後悔とともに省みる。彼が「安っぽい大団円」と自嘲する『テンペスト』の結末をドリームは愛でる。彼が望んだのは、主人公が宿命的な破滅を迎える高尚な悲劇ではなく、書物と魔術を捨てて自らの国から解き放たれる王の物語だった。それはドリーム自身が決してできないことだった。 自室で一人目を覚ましたシェイクスピアは、書き残していた『テンペスト』の最後の口上に取り掛かり、観客に赦しと解放を乞う主人公に自らとドリームを重ね合わせる。「今や魔法はすべて消え失せ、私自身のささやかな力が残るのみです。…」。 このエピソードは A Midsummer Night's Dream(第3巻)の直後に構想されていたが、ゲイマンは『テンペスト』が物語とその終わりについて語っていることに気づき、シリーズ最終号に充てた。
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