私鉄の食堂車
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 17:32 UTC 版)
国鉄・JR以外の日本の鉄道事業者いわゆる私鉄では、所要時間が(国鉄→)JR線ほど長くないため厳然たる食堂車は存在せず、多くがビュフェなど軽食を提供するものにとどまる。 古くは南海鉄道(現・南海電気鉄道)が大阪 - 和歌山間の急行列車(浪速号・和歌号:1日2往復)で1等・喫茶室の合造客車を連結した。この車両は1907年の南海線電化完成時に喫茶室の営業を終了。1917年に廃車となったが、後に電7系ではコンセプトを踏襲する形と近い将来開業が予定されていた阪和電気鉄道に対抗する目的から、電車では日本初となる食堂車の電附6形が製造された。同車は手荷物室・特別室(特等)・本格的な厨房を備えた食堂の合造車で、食堂には日本の鉄道車両としては初となる扇風機を設置、さらに一部の車両ではこれも日本初となる車内ラジオ放送も行われた。 戦後、国鉄・JRと同じ事例で製造された本格的食堂車は1963年の伊豆急行サシ191のみである。サントリーが後塵を拝していたビール事業テコ入れのために観光地でのPRも兼ね「10年間は食堂車で車内でサントリー製品を販売する」という契約で伊豆急行に贈与という形で落成した。形式記号上は食堂車ではあるが、上述した理由から車内で本格的な食事が供される機会は少なく、ビアガーデンに類似した営業形態とされた。「スコールカー」の愛称が付けられ当初は話題になったものの相互乗入する伊東線では、国鉄が難色を示した。後に乗入を許可するも伊東線内営業休止を条件としたことから収益が上がらず次第に存在意義が薄れ、結果として伊豆急行線内での営業も早期終了、さらに連結そのものもされなくなり伊豆稲取駅側線に留置。契約の切れた1974年に普通車のサハ190へ改造。2004年に廃車となった。 私鉄の長距離列車としては最長でも距離は200km、乗車時間は2 - 3時間でしかないため供食設備・メニューも茶菓・軽食中心になっていた。小田急ロマンスカーや近鉄特急に存在したスナックカーでの調理スペースで調理(電子レンジで加熱)した軽食を座席まで運ぶシートサービス方式が主流で、東武鉄道100系(スペーシア)にはビュフェサービスが設置されているものの始発駅発車直後にスタッフが各座席にメニューを配り乗客が購入に出向く売店形式を採っている。ただし、これらの設備も通勤時間帯や運行距離の短い列車では、スタッフ人員の確保問題・着席サービスが優先であること・物品の補充問題などの理由により営業されない事例も多い。 2010年代に運行が開始された供食自体を目的とした諸列車については#現況を参照。本項では1990年代以降に定期列車で実施されていた供食サービスについて解説を行う。 東武鉄道 東武鉄道では日光線特急スペーシア「けごん」・「きぬ」でビュフェサービスを行っている。これは戦前に展望車「トク500形」に供食設備を備えさせ、最後尾に連結したことが起源である。第二次世界大戦の激化に伴い列車そのものが廃止されたが、戦後には5700系・1700系の売店で茶菓の販売を再開。固定編成を採用した1720系DRCで本格的なビュフェを初めて採用。1990年デビューの100系(スペーシア)では、座席までスタッフが運ぶ「シートデリバリーサービス」を導入した。しかし、人件費などの問題からデリバリーサービスについては1995年に廃止されており、現在では列車発車直後にメニューを配り、希望乗客はビュフェに出向き購入する売店形式に変更された。また、日光・鬼怒川方面への観光・行楽利用客の減少、中間停車駅で乗降する区間利用客の増加という日光線特急をとりまく環境の変化もあり、現在ではワゴンサービスを主体とした車内販売に移行している。 小田急電鉄詳細は「小田急ロマンスカー」および「走る喫茶室」を参照 小田急電鉄では1935年の「週末温泉急行」運行で茶菓のサービスが車内販売形式で行われたといわれている。戦後1948年に1910形でロマンスカー運行が復活した際に「走る喫茶室」の愛称で軽食茶菓のシートサービス を開始した。これらの運営スタッフは日東紅茶が1948年の再開時から、森永エンゼルが1968年から参入し担当した。 また昭和30年代から40年代にかけて、新宿から片瀬江ノ島まで夏期におつまみなどの軽食、ビールなどの飲料を積んで車内で飲食する「納涼ビール電車」(のうりょうびーるでんしゃ)を運行していたことがある。 しかし、箱根・江ノ島地区への行楽客輸送特化から、通勤・通学・買い物客の日常的な区間利用が主体になり、注文を受けてから提供まで時間がかかる「走る喫茶室」のサービスが実態からかけ離れたことから利用客が減少したという理由により、1995年に上述サービスは一旦廃止となった。これらにより車両販売が代替する結果となった が、「ロマンスカーの復権」を合い言葉に2005年にデビューした50000形「VSE」ではシートサービスを復活させた が、2016年3月26日のダイヤ改正で再び廃止となった。
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