日本の英語教育における動詞型
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/04 14:20 UTC 版)
「動詞型 (英語)」の記事における「日本の英語教育における動詞型」の解説
日本の英語教育において動詞型あるいは動詞の文型、Verb patternという言葉が使われることはほとんどないと思われる。英語教育の現場からは「「I am a boy.」を「I=私、am=は、boy=少年」と置き換え、なんとなく最後に「である」をつけると日本語らしいから」などといったような(この場合は奇跡的に正しい訳を得られているが)思考から得られる「適当に単語を並べただけのいいかげんな和訳」や「適当に単語を並べらだけのいい加減な”英文”が後を絶たない。」という嘆きがよく叫ばれるが大概はこの動詞型に対する不理解から来ていると考えられている[F1,F3]。 少なくとも動詞の語法解説の目的では世界的に使われている基本5文型ではあるが[要出典]、日本では動詞型としての側面には殆ど触れず、「単に英語の文が5種類に分類される」という側面のみから教える方法が主流であると考えられている[B4-B6]。基本5文型を説明するに当たって「単に英語の文が5種類に分類される」とする現在の教え方は、この5文型の概念のの本質的な意義を見落とすことにつながると考えられる[B4-B6,F1,F3]。また、このような教え方は実用にもそぐわないと考えられている。実際に5文型の概念を重用するのは次の場合である。 英作文において:英作文をする上で、動詞を正しく使う(これは実はテニヲハを正しく使うことと同じ)必要にかられ、その語法を辞書で調べるとき。 英文解釈において:makeやbecomeのように多くの動詞は「どの文型で用いるのか」によって意味がかわるだけではなく、その周囲の語句の格関係(誰が、何を、どうするといった事柄)さえ変わる。英文解釈をする上で、そのようなポイントに留意、辞書などで確認する必要があるとき。 だが[F3]このことからも、「単に英語の文が5種類に分類される」という説明のしかたでは、英文解釈、英作文を行う上で有益な示唆を得られないことが分かる。英語では、日本語での「~を」や「~に」のような助詞が存在せず、それに代わる機能を、「その語が文の中でどの位置にあるのかという事実(5文形)」(と「前置詞の用法」)で補っている。そのため英語では、語順が変化すると、全く意味が異なる、あるいは意味を成さない文となってしまう。そして、その語順を決めているのが、動詞の語法すなわち5文型である。英文は、「どの動詞はどの文型とどの文型で使うことが出来、この文型で用いた場合はこのような機能や意味を持つ」と考えることで意味が分かる。もっといえば、そのように考え(る、あるいはそれと等価な処理を意識/無意識問わず行なわ)なければ「日本語の文において助詞の部分が消滅した状態に等しくなる」と考えてよくまったく意味が分からなくなる。逆に言えば、文型の判別と等価な処理をせずして、ひねり出された”訳”は、偶然正しいことはありえても信頼に足らないといってさえよい[F1,F3]。現実的に英作文、英文解釈を行ううえでは、基本5文型を「動詞の語法の分類法」と考えたほうが実用的であると考えられる。[F1,F3]。 日本の英語教育においても、5文型の導入時には、「5文型は動詞の語法の分類」というニュアンスのほうが強かったと考えられている[B4-B6]。実際、日本に5文型の概念を広めた原典である細江[B3]においては、「『5文型の概念は、本来的には「動詞の語法を完全自動詞、完全他動詞などの5種類に分類した概念』であり、『英文には必ず本動詞が含まれ、英文の構造は、この動詞が決めるもの』なので、英文の分類にも使える」と解説されている。細江[B3]の説明は、噛み砕いて説明すれば以下のように「動詞の語法の分類」という位置づけを第一義とするが、その派生として「英文の構造の分類も出来る」と捉えるものであり、より詳しくは以下の2段階からなっている。 基本5文型は動詞の語法の分類である:基本5文型とは、本来的には動詞の語法を、その動詞の前後にある、「前置詞を伴わない名詞相当語句(名詞、代名詞、名詞句、名詞節)」及び「名詞を修飾していず、前置詞句でない形容詞相相当語句(形容詞、形容詞句、形容詞節)」」(これらは、主語、目的語、補語に繋がる)などの配置から分類した概念の一つである。 それから派生して「英文の構造の分類」も可能:英文には必ず本動詞が含まれ、英文の構造は、この動詞が決めるものなので、本動詞の語法を分類することは、結果として「英文の構造の種類」を分類することにもなる、結果英文も5種類に分類できる。 ロイヤル英文法[B9]や英文法解説[B10],英文法総覧[B11]等の現代の日本の主要な学校文法解説書では基本5文型の位置づけを、「英文の構造分類法」としながらも、基本5文型が、動詞の語法の分類と密接に関連する概念であることを明言している。つまり、基本的には細江と同様の解説をしていて、5文型の項目においては5文型の概念の提示後は「動詞の(語法の)分類との対応」を載せ、その後は、「どういう動詞が、どのような文型を取り得るのか」の解説を展開、つまり動詞の語法解説を展開している。 何故「文の要素4つの組み合わせで、文を5つのタイプに分けるのが(あるいは分けたものが)基本5文型なのだ」などといった無邪気すぎる説明や、果ては「英文の種類は5種類しかないから簡単5つの例文を暗唱したのちは後はひたすら単語を覚えるだけ」、「わざわざ英文の構造を5種類に分類しなくてもVery Simpleなone patternで」などといった俗説が蔓延しているのかはあまり明確ではない[B4, B5]。 最近の傾向としては5文型に否定的な論調が強いが、その一方で根本的なところでいい加減な批判も多い[B4, B5]。例えば、また、「5文型はジャパンローカル(和製英語)でグローバルには通用しない」などという批判があるが「ジャパンローカル」という言葉が和製英語であるという事実以上に全くでたらめである。先述の通り、A.S.Hornbyによる25動詞型や[A4]、安藤の基本8文型[B7]のように、結合価の考え方に基づいた動詞型の分類は、基本5文型の拡張と考えられている[B1,B2,E1,F1-F4]。その意味で「基本5文型」をベースとした動詞型の分類が世界的に受け入れられていて、いくつかの権威ある辞書において積極的、国際的に採用されている。実際、Oxford Advanced Leaner's Dictionary[A4]やジーニアス英和辞典[A1]等、いくつかの英和辞典、英英辞典では基本5文型(あるいはその細分化)が「動詞の語法の分類法」あるいは「動詞の語法解説」として活用されている。このことは、「殆ど全ての動詞の動詞型は、5文型の理論を運用すれば説明できることが実証されている」ことと、「5文型の理論に基づいた動詞型の説明は、海外においても充分通用する理論である」ことを意味する。 また、「そもそも5文型とは何か?」といった根本的な問題が、実はあまり明確に議論されておらず[B4,B5]、批判の中には、5文型の何を批判しているのかよくわからないものがいくつかある。また、「文の構造の分類としての5文型」に対する批判と、「(世界的に通用する概念である)動詞型としての5文型に対する批判」とでは全く意味が違う。また、5文型の特徴である、前置詞句、副詞を文の要素とみなさない姿勢に対する批判は古くからあるが、この点についても、教育的な見地まで含めると非常に難しい側面がある。極論を言えばすべての動詞に対して一つ一つ語法を研究せねばこの批判は完全には解決しえないが、このようなことは現実的ではない。このような立場に立てば、完璧なものが原理的には完成し得るが、ノンネーティブが正確な英文理解を行う上で到底役に立つ代物とはなりえない。つまりは5文型理論については、少なくとも俗論においては否定論が強く、正論においてもいくつかの欠点が指摘されているにもかかわらず有力な代替案が提示されていない現状もある[B4,B5]。 尚、教養ある日本人が日本語の助詞の用法を文法学的に説明できるかといえばそうとも限らないことからも容易に推測ができるように、5文型の概念を全く知らない教養ある英語の母語話者がいても不自然ではない。また、動詞型だけでは「文法的には正しいが不自然な英文」や「絶対にそういういいかたはしない英文」が出来上がる可能性があり、最後の「自然さ」といった部分ではどうしてもネイティブとの隔たりが残る可能性はぬぐえない。 動詞型の概念に着目した英語の入門書は現状ではそう多くないが、一般の初心者向けとしては向山邦子らによるBig Fat Catシリーズ[F2]は「動詞型」などといういかめしい言葉を使わずに平易に説明している。また大学受験生向けには富田一彦の「カリスマ先生の英文解釈」[F1]等は、「動詞型としての5文型」を前面に押し出した解説をしている。風早[F4]の巻末付録には、動詞の語法一覧がある。最近では動詞の語法解説だけで1冊の本になっているものもある[F4,F5]。技術者向けとしては「理系のための英文作法」[E1]が、4章で「動詞型としての5文型」を前面に押し出した解説をしている。また、コーパスベースの技術英語の語法解説として、最近[E2]が発売され、また[E3]にはノーベル賞級の原著論文の語法解説がある。
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