名詞の可算性と冠詞の選択
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/06 09:16 UTC 版)
「英語の冠詞」の記事における「名詞の可算性と冠詞の選択」の解説
「可算名詞」も参照 英語の冠詞の使い分けには、それを伴う名詞の可算性が関係している。まず、英語の名詞には可算名詞と不可算名詞がある。そして、可算名詞には単数形と複数形がある。単数形は基本的に、定冠詞か不定冠詞、あるいは数詞などを伴わなければならない。複数形は限定詞を必要とせずに単独で使用でき、特に不定冠詞は使用不可だが、文脈・状況によっては定冠詞を伴うことがある。不可算名詞の場合、可算名詞の複数形と同様に限定詞を必要とせず、特に不定冠詞は不可で、定冠詞の使用は文脈・状況次第である。 アメリカ合衆国出身で、東京大学大学院総合文化研究科・教養学部でALESSプログラムのマネージング・ディレクターを務めるトム・ガリー准教授は、理学系の英語論文の書き方に関する『科学英語を考える』と題した一連のウェブ講義において「the」を取り上げている。ガリーは日本語母語話者の英語によく見られる誤用として「無冠詞の単数形可算名詞」を挙げ、それは日本語に可算・不可算の区別がなく、しかも日本の英語教育では可算分類が軽視される傾向にあるからだと分析する。 『わかりやすい英語冠詞講義』(2002年、大修館書店)および『これならわかる! 英語冠詞トレーニング』(2012年、DHC)の著者・石田秀雄は、『石田秀雄のこれならわかる英語冠詞講義』と題したウェブ講義(2008年)において、日本の英語教育では冠詞をきちんと取り扱っていないが、冠詞の使い分けによって意味が変わると指摘している。石田は、名詞の有界性という概念で可算性を説明する。有界性とは、名詞の指示対象が「明確な境界線や輪郭」を持っているかどうかという違いであり、有界的なものは可算名詞、そうでないものは不可算名詞として用いられる。こういう境界線に関する意識はどの言語の話者にもあるはずだが、日本語ではその違いを言葉で表現する必要がない。日本語母語話者が可算性を意識しない根拠として、外来語が挙げられる。例えば、野球のtwo strikesを「ツーストライク」、noodlesを「ヌードル」と言うなど、複数形を示す接尾辞の「-s」が反映されないことが多い。一方、英語は可算・不可算の違いを「積極的に表現しようとする言語」である。 広島大学大学院総合科学研究科教授・言語学者の吉田光演も、可算名詞には「個体としての離散的な境界」があると説明している。例えば、「water」はいくら分割したり注ぎ足したりしても均質的で「water」のままであるのに対し、個体としての境界がある「dog」に「dog」を付け足したら「dogs」という複数形にならざるを得ず、逆に分割したら別の言葉が必要になる。なお、「dog」のみではそれによって表される個体の集合(種類)を指示しているにすぎないため、個体を指示する際には Dog is barking. では非文(文法的に正しくない文)になり、A dog is barking.(その個体が文脈から特定できるなら The dog is barking.)などとしなけらばならない。 吉田はまた、英語やドイツ語には可算名詞と不可算名詞の両者があるが、日本語や中国語などに比べて「可算名詞が際立っている」言語だとする。「中国語・日本語タイプの名詞=不可算名詞」という説もあるが、吉田はそれに対し、日本語でも例えば「多数の酒」「多数のコメ」は「多量の酒」「多量のコメ」よりも許容度が低く、「多量の自動車」よりも「多数の自動車」の方が許容度が高く、また「2、3の水」とは言えないなど、可算・不可算の区別がないわけではないと反論している。吉田は、日本語・中国語の名詞は種名詞(kind noun)だという説を支持しており、種名詞には限定詞なしで名詞句になれる性質があると説明している。日本語母語話者は名詞の個別指示よりも種指示(「...というもの」を表すこと)を優先しているため、可算・不可算の区別をあまり意識しないというのである。他方、英語の可算名詞はいったん複数(dogs)になってしまえば、不可算名詞と同様に更にいくら付け足しても同じ形のまま(dogs)であり、限定詞なしで主語や述部(の一部)として機能でき、Dogs are clever.(「犬というものは賢い」)のように種指示もできる。すなわち、種名詞・種指示という概念は「日本語の名詞は冠詞を必要とせず、単数形と複数形の区別もない」「英語の不可算名詞と複数形可算名詞は冠詞を必要としない」という2つの事実が同時に説明できると結論付けている。 なお、英語には、魚の名称などのように単数形と複数形が同じ名詞(単複同形)や、ほぼ同じ意味(例えば「装置」)でありながら可算(「apparatus」)と不可算(「equipment」)に区別されている名詞もある。不可算名詞はさらに「water」のような純粋不可算名詞(最小単位がなく、均質的なもの)と「furniture」のような個体的不可算名詞(個体としての境界線や部品などを持っているもの)に分類することもできる。 しかし、英語の名詞の大部分は、一部の例外(下記)を除き、文脈・状況によって可算・不可算の両用法が可能である。各状況における指示対象を各話者がどう認知しているかによって可算・不可算の使い分けがなされ、やはり各話者の認知・認識に従って冠詞が選択される。 例えば「room」は、「部屋」(=天井・壁・床などによって境界が作られている)を指示する場合は可算、「空間」(=明確な境界線がない)を指示する場合は不可算となる。果物・野菜・肉・魚など、本来の形を留めている「1個」「1匹」という個体であれば可算だが、切ったり調理したり咀嚼したりすれば不可算になる。例えば、1本1本のバナナ(明確な境界線がある)を想起する場合の「banana」は I bought a banana yesterday.(「昨日、バナナを1本買いました」)、I like bananas.(「僕はバナナが好き」)のように可算名詞であるのに対し、バナナの食べかす(=明確な境界が失われている)を示す場合には You’ve got banana on your chin.(「アゴにバナナがついてるよ」)のように不可算名詞になる。また、「chicken」が個体を意味するのであれば catch a chicken(鶏を捕らえる)と言い、本来の形を失った食材であれば cook chicken(鶏肉を調理する)と言う。ただし、「肉」であっても話者が「丸ごと」をイメージしていれば、不定冠詞を用いて We roasted a chicken.(「鶏を丸ごと焼いた」→「鶏の丸焼きを食べた」)と言うこともできる。このニュアンスの違いを顕著に示す実例がマーク・ピーターセン著の『日本人の英語』(1988年、岩波新書)で紹介されている。ある日本人学生が I ate chicken in the backyard.(「裏庭(のパーティー)でチキンを食べました」)と書くべきところを I ate a chicken in the backyard. としたために「庭で鶏を一匹捕まえてそのまま丸ごと食べた」というイメージが浮かんでしまったというのである。これは上述のガリー准教授の観察とは逆であるが、ピーターセンによれば、日本語母語話者には不要な不定冠詞を無意識のうちに飾りのように付けてしまう傾向があるという。 可算性が切り替わるものとして、素材(物質)と製品(物体)の関係も挙げられる。例えば、glass(ガラス)と a glass(グラス)、gold(金)と a gold(金メダル)など。抽象的概念と具体的事例の関係(accomplishment、experience、beauty など)も同様で、前者は無冠詞であるのに対し、後者には冠詞が付かなけらばならない。なお、このような切り替え(変換)ができない「一部の例外」とは、おおむねカテゴリーとしての集合名詞(「advice」「furniture」「luggage」「machinery」「news」「information」など)であり、数えたい場合は a piece of...(多い場合は plenty of... または a great deal of... など)と言う。 本項目では、以上のような事実や研究・分析をふまえながら、各冠詞の語法などについて述べる。
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