原作・TVシリーズとの対比
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「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」の記事における「原作・TVシリーズとの対比」の解説
この作品の原案は、『マスグレーヴ家の儀式』で言及される、「内反足のリコレッティとその忌まわしい妻の記録」である。この作品は、いわゆる語られざる事件に該当する。 IMDbの作品ページで「Season4 Episode0」と付されているように、この特別編はシーズン3とシーズン4を繋ぐ構成になっている。ヴィクトリア朝のシーンが、シャーロックのマインドパレスでの光景として描かれているため、前シーズンまでの様々なシーンが、舞台をヴィクトリア朝に移した形で再現されている。また、本シリーズは原典からの引用ネタが各所に散りばめられていることでも知られている。本作ではそれに加え、ジェレミー・ブレット版やビリー・ワイルダー版など、過去の映像化されたホームズ作品にオマージュをかけたシーンが多数存在する。 脚本のスティーヴン・モファットが案内人を務める特典映像1では、ヴィクトリア朝の221Bのセット内にあるオマージュがいくつか指摘されている。マントルピースにナイフで刺された手紙や、ペルシャスリッパの中に詰め込まれた煙草は、『マスグレーヴ家の儀式』冒頭の記述に由来する。また、壁に弾痕で書かれた"VR"との文字は、同じく『マスグレーヴ家の儀式』冒頭の記述に由来するが、同時に本シリーズでの弾痕で描かれたスマイリーとも対応している。セットにあるヘンリー・ウォード・ビーチャーの絵は、『ボール箱』での記述と符合する。また、221Bのドア脇には、本シリーズでは髑髏の絵が飾られているが、特別編の本作ではチャールズ・アラン・ギルバート(英語版)作の"All is Vanity"が飾られている。この絵は、特別編の年代設定(1895年)に程近い1892年に描かれている。更に、下宿のドアにはめ込まれているステンドグラスは、『緑柱石の宝冠』『まだらの紐』『ライオンのたてがみ』『バスカヴィル家の犬』『オレンジの種五つ』があしらわれたデザインである。 ワトスンが第二次アフガン戦争に従軍し、肩を負傷して帰国するのは、『緋色の研究』冒頭の記述に由来する。その後スタンフォードと出会って、クライテリオン酒場で話すくだりも原典通りである。ホームズがモルグで遺体に鞭を打っているのは、同作でのスタンフォードのホームズ評に等しい描写である。ホームズは、下宿の番地を、現代版のような"Two-two-one B"(訳:に・に・いちビー)ではなく、"Two hundred and twenty-one B"(訳:にひゃくにじゅういちビー)と述べている。この一連のシーンは、本シリーズ『ピンク色の研究』でも使われている。また、ホームズとワトスンが出会った時点では、ワトスンは口ひげを生やしていない。挿絵では口ひげが描き込まれているものの、実際にワトスンがひげを生やしていたと分かるのは、『シャーロック・ホームズの帰還』所収の『犯人は二人』が初めてである。 タイトルバック直後のシーンで、ワトスンは、ストランド・マガジンの売り子へ『青い紅玉』の売れ行きを訊ねる。ストランド・マガジンは、原作のシャーロック・ホームズシリーズが連載されていた雑誌である。また『青い紅玉』自体は、1892年に発表されている。 特報として流されたシーンでは、ジェレミー・ブレットが主演した『シャーロック・ホームズの冒険』シリーズのテーマを変奏した曲が流れる。また、ベーカー街のパンの仕方など、ブレット版のオープニングとの類似が指摘されている。221の1階にある料理店の名前は、本シリーズでの"Speedy"から、"Speedwell"に変更されている。221Bのボーイであるビリーを演じているのは、本シリーズ『三の兆候』でページボーイを演じていた、アダム・グレーヴス=ニールである。同じシーンでは、ホームズが『バスカヴィル家の犬』について言及するが、この作品は1901年に発表されており、「1895年を舞台」とする公式の発表とは食い違っている。 この特別編ではワトスンの妻・メアリーが生きている設定だが、原典『空き家の冒険』では、この作品の設定年・1894年には彼女が死亡していたと仄めかされている。メアリーは喪服とヴェールを着用して221Bに現れるが、『覆面の下宿人』にはヴェールをかぶったまま下宿に引きこもっている女性が登場する。ホームズが香水の香りからメアリーだと言い当てるのは、本シリーズ『最後の誓い』の1シーンに由来するものである。この後、ワトスン夫妻の口論の裏でホームズが弾いているのは、シャーロックが本シリーズ『三の兆候』で夫妻に贈ったワルツである。ホームズは階段を上る足音からやってきたのがレストレードだと言い当てるが、その後述べられるジョーンズとグレグスンは、どちらもスコットランドヤードの刑事として、原典に登場する人物である。ホームズはワトスンをジェイムズ・ボズウェルに例えるが、同じ例えが原典『ボヘミアの醜聞』に存在する。 エミリア・リコレッティは、本シリーズ『ライヘンバッハ・ヒーロー』でのモリアーティと同じく、銃を口にくわえ、頭を撃ち抜いて自殺する。また夫トーマスを射殺する前、彼女が歌っているのは "The Maid of the Mill" と言う曲である。エミリアの言う「ショットガン・ウエディング」(英: shotgun wedding)は、いわゆる「できちゃった結婚」を指す言葉である。 エミリアが乱射している道沿いには、『赤髪連盟』に登場するジェイベズ・ウィルスンの名前が書かれた店舗があると明かされている。 脚本のモファット・ゲイティスは、ラスボーン版ホームズのファンであることを公言している。本作でワトスンが的外れな推論を披露するシーンは、ラスボーン版でのワトスンにオマージュをかけたものとされている。また本作でのワトスンは全体的に、現代版の本シリーズに比べて幾分愚鈍に描かれている。一方ラスボーン版のワトスンは、ホームズより劣ったドジな人物とされている。このシーンでワトスンが「エミリア双子説」を出すが、これはルパート・エヴェレット版ホームズ『シャーロック・ホームズ:淑女殺人事件』 (en) との類似が指摘されている。 ホームズが黄道傾斜角について理解しようとしているシーンがあるが、『ギリシャ語通訳』冒頭には、ホームズとワトスンがこの話題について話していたと記されている。本シリーズで221Bのキッチンになっていたスペースは、壁が緋色(スカーレット)に塗られた書斎に作り替えられているが、これを『緋色の研究』のタイトルに対するオマージュとする意見もある。ワトスン宅に出来が悪いメイドがいるのは『ボヘミアの醜聞』、更に彼女が仕事中小説を読みふけり、ゆで卵も作れないのは、『ソア橋』のメイド評に等しい。またこの後ワトスンに渡される電報の文面は、『這う男』冒頭と同じもので、本シリーズ『ピンク色の研究』でも使われている。 ディオゲネス・クラブに着いたホームズとワトスンは、受付の男性とイギリス手話で会話を交わすが、この男性の名前は「ワイルダー」とされている。ビリー・ワイルダー監督は、映画『シャーロック・ホームズの冒険』を制作しており、脚本のゲイティス・モファットは、この作品を映像化されたホームズの中で最もお気に入りと回答している。2人のクラブ訪問とマナーハウスに関するホームズ兄弟の会話やマイクロフトに面会するメラス氏の名前は、いずれも『ギリシャ語通訳』に由来する。クラブでのマイクロフトは、原作以上にでっぷりと太っているが、このビジュアルはモンティ・パイソンの『人生狂騒曲』との類似が指摘されている。 レディ・カーマイケルの一件は、女性を虐げる夫への戒めという点で『修道院屋敷』と共通しているほか、この事件の被害者名は、「ユースタス・ブラッケンストール卿」である。サー・ユースタスへの脅迫にオレンジの種が使われるのは、『オレンジの種五つ』からの描写で、本シリーズ『大いなるゲーム』ではこの作品がもじられている。またサー・ユースタスがアメリカの人物に脅迫されているとホームズが考えるのは、『恐怖の谷』へのオマージュである。サー・ユースタス邸に向かう列車内のビジュアルは、『白銀号事件』や『ボスコム渓谷の謎』でのシドニー・パジェットの挿絵に酷似している。ホームズの台詞 "The game is afoot!"(訳:狩りの始まりだ!)は『修道院屋敷』に由来する台詞だが、同じ台詞は、"afoot"を"on"に置き換えた形で、本シリーズで幾度となく使われている。張り込み中のホームズがワトスンに言う、「女性は君の領分だ」という台詞は、『第二の汚点』からの引用である。またホームズがアイリーンの写真を持っているのは、『ボヘミアの醜聞』に由来する。 ディオゲネス・クラブには、ライヘンバッハの滝を描いたターナーの絵が飾られている。これは、本シリーズ『ライヘンバッハ・ヒーロー』でシャーロックが取り返したものである。ホームズが自身のマインドパレスに入ったまま、何日も食事を摂らないのは、『マザリンの宝石』での描写からである。ホームズが7%溶液のコカインを使っているのは、『四つの署名』からの引用である。またホームズとワトスンの「兵士じゃなくて医者だろう」「ただの医者じゃなく軍医だ」との会話は、本シリーズ『ベルグレービアの醜聞』に由来する。 婦人参政権運動家の女性たちが秘密の会合を行っているシーンは、『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』に類似シーンが存在する。この映画は、スティーヴン・スピルバーグが制作総指揮を務め、学生時代のホームズを描いた作品である。ホームズが花嫁をレディ・カーマイケルと誤解するシーンは、本シリーズ『最後の誓い』からの引用である。また、このエピソードの原案となった『犯人は二人』には、ミルヴァートンが自分の元へやってきた女性の正体を誤解するシーンがある。 シャーロックがエミリア・リコレッティの墓を掘り返し、棺にもう1人別人が埋葬されているのではと考えるのは、『フランシス・カーファックス姫の失踪』でのトリックと等しい。 モリアーティが221Bを訪れるシーンとライヘンバッハの滝でホームズと決闘するシーンは、どちらも『最後の事件』からの引用である。但し、ワトスンが決闘に間に合ったという記述は原典には無い。ホームズの"Elementary, my dear Watson."(訳:初歩的なことだよ、ワトソン君)と言う台詞は、原典に1度も登場しないにもかかわらず、ホームズの名台詞として有名なものである。ジーニアス英和大辞典やロングマン現代英英辞典、ランダムハウス英和大辞典などの辞典にも掲載されるほどのこの成句は、ウィリアム・ジレット版で有名となった ("Elementary, my dear Watson") 。 ジェット機内でマイクロフトの手帳に書かれている "Vernet" とは、ホームズが『ギリシャ語通訳』で自分の大おじだと語っている、オラース・ヴェルネ(仏: Émile Jean-Horace Vernet)の名字と同じである。
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