仏
★1a.仏の化身。
『寒山拾得』(森鴎外) 台州の主簿・閭丘胤は、托鉢坊主の豊干(ぶかん)から(*→〔病気〕4)、「国清寺にいる拾得という僧は、実は普賢菩薩です。寺の西の石窟に住む寒山という僧は、実は文殊菩薩です」と教えられる。閭は国清寺を訪れて寒山と拾得に会い、うやうやしく礼をする。2人は閭を見ると、腹の底からこみ上げて来るような笑い声を出し、いっしょに立ち上がって逃げた。逃げしなに寒山が、「豊干がしゃべったな」と言った。
★1b.僧や女が仏の姿を現す。
『宇治拾遺物語』巻9-2 唐土に宝志和尚という聖がいた。帝の命令で3人の絵師が、宝志和尚の肖像を描く。和尚は「私の真の姿を書き写せ」と言って、親指の爪で額を切り裂き、皮を左右へ引き退ける。すると、中から金色の菩薩の顔が現れた。1人の絵師はそれを「十一面観音」と見た。1人の絵師は「聖観音」と見た。絵師たちは各自が見たとおりの仏の姿を描き、帝に奉った。
『源平盛衰記』巻30「広嗣謀叛並玄ボウ僧正の事」 聖武帝の皇后と玄ボウ僧正が御簾の内にいるところを藤原広嗣が見ると、2人は共寝をしているので、広嗣は帝に訴える。しかし帝が見ると、皇后は十一面観音・玄ボウは千手観音と現じて、衆生済度の方便を語り合っていた。
『日本霊異記』上-20 捕らえられ朝廷に送られた僧が高貴な風貌なので、絵師たちにその肖像を描かせる。提出された絵を見ると、どの絵も皆観音菩薩の像であった〔*『今昔物語集』巻20-20に類話〕。
*遊女が普賢菩薩の姿を現す→〔遊女〕4aの『撰集抄』巻6-10。
*少年が地蔵菩薩の姿を現す→〔地蔵〕4の『宇治拾遺物語』巻1-16。
『宇治拾遺物語』巻6-7 信濃国筑摩(つくま)の湯のあたりに住む人が、「明日、午(うま)の時に観音が来て湯浴みをすべし」との夢告を得た。その人は、夜が明けてから、このことを近隣に知らせる。午の時を過ぎ、未(ひつじ)になる頃、上野国の武者が湯治に来たので、人々は彼を観音と信じて拝む。武者は、「それでは我が身は観音だったのか」と思い、その場で出家した〔*『古本説話集』下-69・『今昔物語集』巻19-11に類話〕。
『発心集』巻1-6 南筑紫上人が、堂供養の導師を求めかねている時、「某日某時、浄名居士が来て供養すべし」との夢告を得た。当日、雨の中、蓑笠姿の賤しげな法師が来たので、堂供養を請う。この法師は、実は天台宗の明賢阿闍梨だった。
『日本霊異記』中-22 道行く人が、「痛きかな」と泣き叫ぶ声を聞き、声のする家を調べてみると、盗人が仏の銅像の手足を切り取り、鏨で首を切っていた。
『日本霊異記』中-23 勅使が夜間巡行中、尼寺の前の原で「痛きかな」と泣き叫ぶ声を聞いて駆けつけると、盗人が弥勒菩薩の銅像を石で壊していた。
『日本霊異記』中-26 禅師広達が橋を渡る時「痛く踏むなかれ」という声を聞き、怪しんで橋をよく見ると、それは仏像をまだ造り終わらぬまま捨てた木だった。
『日本霊異記』中-39 大井河の河べりの砂の中に「我を取れ」と声がするのを、旅僧が聞き、掘り出すと薬師仏の木像だった。僧はそこに堂を建て、仏像を安置した。
『日本霊異記』下-17 「痛きかな」とうめく声が沙弥信行に聞こえ、毎晩それがやまなかった。寺中を探すと、鐘つき堂にある未完成の弥勒菩薩の脇士2体のうめきであった。
『日本霊異記』下-28 優婆塞が寺中に「痛きかな」とうめく声を聞き、堂の中を探すと、弥勒の丈六の仏像の首が落ちてころがり、大蟻が千匹ほど集まって首を噛み摧いていた。
★4.にせの仏。
『今昔物語集』巻19-4 にわかに発心・出家した源満仲の道心を強めるため、源信僧都たちが相談し、笛・笙を吹く者10人ほどに菩薩の装束を着せて歩かせる。満仲は声を上げて泣き、板敷から転げ落ちて拝む。
『今昔物語集』巻20-3 五条の道祖神のあたりに、実のならぬ柿の木があった。ある時、天狗が金色の仏に化けて木の梢に現れ、光を放ち、花を降らした。京中の人々はこぞって拝みに行ったが、右大臣源光が怪しんでにらみつけると、仏は鳶となって地に落ちた〔*『宇治拾遺物語』巻2-14に類話〕。
『十訓抄』第1-7 僧に助けられた鳶(天狗の化身)が、返礼に霊鷲山での釈迦説法の場をあらわして見せる。「幻術ゆえ、尊いと思い給うな」と注意されたにもかかわらず、その荘厳さに僧が思わず合掌礼拝すると、たちまちすべては消え失せる〔*『大会』(能)はこの説話にもとづく〕。
★5.二人の仏。遠い仏国土の如来が訪れて、釈迦如来と対面する。
『法華経』「見宝塔品」第11 釈迦如来は入滅を前にして、霊鷲山で多くの弟子たちに『法華経』の教えを説く。地面から巨大な七宝の塔が出現し、空中高くに静止する。釈迦如来も空中に昇ると、塔の大扉が開き、中に多宝如来が坐していた。多宝如来は『法華経』聴聞のために、東方無量千万億阿僧祇世界・宝浄国から来たのだった。多宝如来は半座を譲って、釈迦如来を招き入れる。2人の如来は並んで結跏趺坐する。
*他宇宙の神が、この宇宙の神に会いに来る→〔二人の神〕1の『人間万歳』(武者小路実篤)。
『宝物集』(七巻本)巻3 長那梵士(ちやうなぼんじ)は摩那斯羅女(まなしらによ)との間に早離(さうり)・速離(そくり)の2人の子をもうけたが、摩那斯羅女が病没したので、新たな妻を迎えた。妻は、長那梵士が留守の間に、継子の早離・速離を船に乗せ、遠い島に捨てた。早離・速離は泣き悲しんで、「一切衆生の苦を救おう」と誓って餓死した。早離・速離は観音・勢至の2菩薩になり、摩那斯羅女は阿弥陀仏となった。
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