人間魚雷
英語:human torpedo
「人間魚雷」とは、人が搭乗して命中に導く魚雷もしくは魚雷型潜水艦の通称である。たいていは太平洋戦争に投入された特攻兵器「回天」の異名として用いられる。とはいえ必ずしも「人間魚雷=回天」というわけではない。「人間魚雷」と呼ばれ得る兵器は、弾薬を敵艦に設置する小型の潜水艦として機能するものと、自身が魚雷となって敵艦へ突撃(特攻)するものと、大きく2通りに分かれる。どちらにせよ、兵器を人的に制御して攻撃の成功率を高めるための手法であり、電子機器の発達していない時代の産物といえる。
人間魚雷は、普通の魚雷と同様、母艦となる潜水艦に取り付けられる形で出撃し、程よい距離で切り離される形で出撃する。
小型潜水艦としての「人間魚雷」は、典型的には、敵艦に気づかれないように潜航して接近し、艦底に弾薬を設置して切り離し、離脱した後に起爆する、といった運用が想定される。
特攻兵器としての「人間魚雷」は、本体に弾頭を備え、敵艦に突撃(体当たり)して自機もとろも爆破し、敵艦を道連れにする。
日本の「人間魚雷」こと「回天」とは
日本では「人間魚雷」といえば、もっぱら太平洋戦争において大日本帝国海軍が投入した特攻兵器「回天」の異名として用いられる。「回天」は、既存の大型の魚雷を人が搭乗して操縦できるように改造した兵器である。いうなればマンパワーによって必中を期した魚雷である。搭乗員が脱出する機構が搭載されていないため、回天に乗ったなら突撃の成否にかかわらず生還できる見込みは無に等しい。
回天は結果的には思わしい戦果は残せなかったが、相対する敵軍にとっては相当な脅威だったという。
「人間魚雷」を題材にした映画
人間魚雷を題材とした代表的な映画作品としては、「人間魚雷出撃す」「出口のない海」「人間魚雷回天」などが挙げられる。「人間魚雷出撃す」は、1956年に制作された作品である。人間魚雷回天の搭乗員となった4人の若者が、家族との別れを告げ、戦場で戦う様子が描かれている。
「出口のない海」は、2006年に制作された作品である。回天の搭乗員に選ばれた、大学野球部のピッチャーが主人公である。戦闘シーンは少なく、登場人物の心境に重点が置かれている。
「人間魚雷回天」は、1955年に制作された作品である。海軍予備学校の教官だった津村敏行による同名の書籍を原作としている。回天の搭乗員となった若者が、それぞれの事情を胸に、戦場へと赴く様子が描かれた映画である。
「人間魚雷(プロレス)」とは
プロレスの分野では「人間魚雷」は1980年代から日本プロレス界で活躍したアメリカ人レスラ、テリー・ゴディ(Terry Gordy)のニックネームとして知られている。テリーは巨体から多種多様な技を繰り広げる華やかなレスラーとして人気を博した。相手をコーナーに追い詰めてからぶちかます全体重をかけた必殺のラリアットは「魚雷アリアット」あるいは「人間魚雷」とも呼ばれた。
にんげん‐ぎょらい【人間魚雷】
人間魚雷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/20 03:06 UTC 版)

人間魚雷(にんげんぎょらい、英語:Human torpedo)は、接近して艦船を攻撃する魚雷を模した特殊潜航艇の一つ[注 1]。イギリス帝国戦争博物館などでは、Manned Torpedo (有人魚雷)との呼び方もされる[1]。
概要
形状は操作席が艇内部にある超小型潜航艇タイプと、開放型の操縦席を持つ水中スクータータイプとがある。世界初の人間魚雷は、イタリア海軍が第一次世界大戦で使用したミニャッタ(Mignatta)である(後のマイアーレ)[2]。
有人魚雷(人間魚雷)の製作意図は、自殺船ではなく、少人数の操縦で動く安価な船を作ることだった[3]。 当時は、現代の魚雷のような誘導機能がなかったため、人間による操縦となった[3]。
一般に、搭乗員は1、2名であり、母艦ないしは港湾施設から発進する。魚雷と同様に、艦船でいうところの船首部に爆薬が搭載されており、多くは切り離して人力で設置して攻撃するように設計されているが、回天のように切り離さず体当たりの自爆攻撃をする設計もある。
なお、ジャーナリストの前田哲男は日本大百科全書(ニッポニカ)(小学館)において、「人間魚雷」を日本軍に限定して、「九三式魚雷を改造して乗員1人が潜望鏡と簡単な航法装置を頼りに操縦、乗員もろとも敵艦に体当たりする特攻兵器。生還の可能性が絶無である点で、それ以前の特殊潜航艇とは違っている。」と解説する[4]。また、前田は同事典で「特殊潜航艇」も日本軍に限定して、「日本海軍が対米艦隊決戦に備えて極秘裏に開発した小型潜航艇。機密保持上、甲標的とよばれた。」と解説する[5]。
他方、ブリタニカ国際大百科事典では、特殊潜航艇を英語でmidget submarineと称するとして、「戦闘用の小型潜水艇。豆潜水艦とも通称される。乗組員が1~5人程度のものをいう。その小ささを利用して敵の軍港近くまで大型潜水艦によって運ばれ,潜入,攻撃するか,沿岸防衛を目的とした」と解説し、第2次世界大戦ではイギリス、ドイツ、イタリア、日本が装備したと解説する[6]。
歴史家のポール・ケンプは『第二次世界大戦の特殊潜航艇』(合衆国海軍研究所、1999年)で、イギリス海軍のチャリオット、X艇、イタリア海軍のマイアーレ、日本の甲標的、回天、ドイツ海軍のネガーなどを総合して考察している[7]。
歴史
小さな潜水艇で船に忍び寄り、爆弾で沈めるというアイデアは、アメリカ独立戦争時にさかのぼり、1775年にデヴィッド・ブッシュネルが手動水中潜水艦タートルを開発し、1776年のキップス湾の上陸戦で使用されたが、失敗した[8]。1909年、イギリス海軍設計者ゴッドフリー・ハーバートは有人潜水艦を開発したが、英国戦争省は第一次世界大戦での使用を許可しなかった。 [8]。その後、1918年にイタリアで開発された[8]。
ドイツ海軍も同様の兵器を開発し運用した。大日本帝国海軍が開発し運用した回天が有名である。
イタリア
第一次世界大戦
- ロセッティ自走式魚雷(Torpedine semovente Rossetti)は、Mignatta(ミニャッタ、イタリア語で蛭を意味する)とも呼ばれ、技術者ラファエル・ロセッティ(it:Raffaele Rossetti)が開発し、第一次世界大戦中の1918年11月1日にフィリブス・ウニティスをリムペットマイン(吸着機雷)で沈めた[9][10][2]。
第二次世界大戦
- マイアーレ(S.L.C) - イタリア海軍が第一次世界大戦で使用した人間魚雷ミニャッタを改良したもの[11]。第二次世界大戦中の地中海戦域において、1941年(昭和16年)12月19日のアレクサンドリア港攻撃で、イタリア海軍のフロッグマン(潜水工作員)がマイアーレを操縦しイギリス海軍地中海艦隊の艦底にリムペットマインを仕掛け、戦艦ヴァリアント、戦艦クイーン・エリザベス、駆逐艦ジャーヴィス、タンカー1隻を大破させた[2]。
- Siluro San Bartolomeo (SSB) - 実戦には投入されなかった[12]。
第二次世界大戦後
- コスモスCE2F系 - イタリア海軍デチマ・マス師団(Decima Flottiglia MAS)の出身のセルジオ・プッチャリーニが1954年に創建したCos.Mo.S(Costruzione Motoscafi Sottomarini s.a.s.)が製作した水中スクーター(Diver propulsion vehicle:DPV、swimmer delivery vehicle :SDV)のシリーズ。現在はイタリア本社は閉鎖され、技術は韓国のVogo Engineeringに移管された。これまでに同社製品を購入した国は以下。
イギリス
イギリス帝国戦争博物館には、1943年スコットランドの湖での人間魚雷とX艇の実演記録映像が残されている[14]。
アメリカ合衆国

- タートル潜水艇 - デヴィッド・ブッシュネルが開発したタートル潜水艇は、アメリカ独立戦争中の1776年9月15日のキップス湾の上陸戦でイギリス海軍旗艦イーグルに攻撃をしかけたが失敗した。
- H・L・ハンリー (潜水艇) - 1864年、南北戦争でアメリカ連合国海軍が使用し、北軍のスループUSSフーサトニックを沈没させた。ハンリーも沈没し、乗組員は全滅した。
- SEAL輸送潜水艇
ドイツ

- ネガー (特殊潜航艇) - 第二次世界大戦でドイツ海軍が開発した[2]。
- マーダー (特殊潜航艇)[2]
- ビーバー (特殊潜航艇)[2]
- モルヒ (特殊潜航艇)
- XXVIIBゼーフント(Seehund)[2]
日本
語例
「人間魚雷」の語例は、陸軍省「作戦統帥関係 情報要求の件回答」12(一)特攻兵器ノ攻撃目標にある[15]。 ほか、戦後の記録文学等では以下の通りのものがある。
- 斎藤寛『鉄の棺』三栄出版社、1953年(光人社NF文庫)
- 津村敏行『人間魚雷回天』大和書房、昭和29年(1954年)
- 映画『人間魚雷回天』(1955年)
これ以降は、回天を参照。
イスラエル
1967年にイスラエル海軍は人間魚雷マイアーレを運用していた(画像参照)。
ギャラリー
- 人間魚雷[2]
脚注
注釈
出典
- ^ Submersible : SSB 'Maiale' (Pig) Manned-Torpedo : Italian,帝国戦争博物館(IWM)、Italian "Maiale" (Pig) SSB ( Siluro San Bartolomeo,"San Bartolomeo Torpedo" ) Manned Torpedo
- ^ a b c d e f g h i j k l Kemp, Paul.MIDGET SUBMARINES OF THE SECOND WORLD WAR.Caxton, London, 2003 ISBN 9781840675214
- ^ a b Greatest World War II Weapons : Human Torpedo,JUNE 14, 2014 BY N.R.P,Defencyclopedia.
- ^ 前田哲男「人間魚雷」日本大百科全書(ニッポニカ)、小学館、1984-1994,『人間魚雷』 - コトバンク
- ^ 前田哲男「特殊潜航艇」日本大百科全書(ニッポニカ)、小学館、1984-1994,コトバンク
- ^ ブリタニカ国際大百科事典小項目事典、コトバンク「特殊潜航艇」
- ^ Kemp, Paul, MIDGET SUBMARINES OF THE SECOND WORLD WAR,Naval Inst Pr(Naval Institute Press) (1999): ISBN 1861760426
- ^ a b c Chuck Lyons, Italy’s Daredevil Torpedo Riders, Warfare History Network
- ^ 吉川和篤 (2021年7月30日). “魚雷に人間ライドオン! わずか2人で戦艦撃沈&奇跡の生還までのドラマ 100年前イタリア”. 乗りものニュース. p. 3
- ^ “Emilio Bianchi, 'human torpedo' – obituary”. Telegraph (2015年8月20日). 2022年1月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年2月15日閲覧。
- ^ a b 坂本明、おちあい熊一『決定版世界の秘密兵器FILE』学研196頁
- ^ Crociani, Piero; Battistelli, Pier Paolo (2013). Italian Navy & Air Force Elite Units & Special Forces 1940–45 (illustrated ed.). Bloomsbury Publishing. p. 11-13. ISBN 9781849088589
- ^ a b "Stealing the Sword: Limiting Terrorist Use of Advanced Conventional Weapons", p. 60
- ^ DEMONSTRATION OF THE HUMAN TORPEDO AND X-CRAFT、1943年にスコットランドの湖での人間魚雷とX艇の実演記録映像。イギリス帝国戦争博物館
- ^ JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C13071291000、特攻兵器の攻撃目標(防衛省防衛研究所)、陸軍省「作戦統帥関係 情報要求の件回答」
参考文献
- レオンス・ペイヤール、長塚隆二(訳)『戦艦ティルピッツを撃沈せよ!』早川書房、1976年
- J・グリーソン、T・ウォルドロン、永来重明(訳)、出光照生(監修)『必殺!人間魚雷 日英独伊・恐怖の特殊潜航艇』第二次世界大戦ブックス72、サンケイ出版、1977年
- Kemp, Paul.MIDGET SUBMARINES OF THE SECOND WORLD WAR.Caxton, London, 2003 ISBN 9781840675214
関連作品
- Tim Winton,Lockie Leonard , Human Torpedo (1990)
関連項目
外部リンク
- DEMONSTRATION OF THE HUMAN TORPEDO AND X-CRAFT、1943年にスコットランドの湖での人間魚雷とX艇の実演記録映像。イギリス帝国戦争博物館
- Greatest World War II Weapons : Human Torpedo,JUNE 14, 2014 BY N.R.P,Defencyclopedia.
- Italian Human Torpedoes,Weapons and Warfare.
- Phil Nussle,The human torpedoes(1)
- Logan Nye,These were Britain’s ‘manned torpedoes’ in World War IIJuly 20, 2021 23:31:00,MIGHTY NETWORKS
- Sebastien Roblin,Why Japan's Crazy World War II Kamikaze Suicide Torpedoes Never 'Hit the Target',December 9, 2016, ナショナル・インタレスト
- Chuck LyonsItaly’s Daredevil Torpedo Riders,Warfare History Network
人間魚雷
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/04 01:51 UTC 版)
「海へび大帝の猛襲」から登場した特殊装備。名称だけ聞くと「回天」のような特攻兵器を思わせるが、これは爆発しない魚雷。劇中では中に王子が乗り込んで海へび大帝の基地に撃ち込まれ、不発弾を装って潜入に成功した。後に「不死身のハイドラ」では、最終作戦の前にチエノ博士とハナさんを脱出させるのに使用された。
※この「人間魚雷」の解説は、「海の王子」の解説の一部です。
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