ドイツ国民受信機と放送局型受信機・国策型受信機
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「再生回路」の記事における「ドイツ国民受信機と放送局型受信機・国策型受信機」の解説
第二次世界大戦が始まる少し前頃から、政治思想の普及や資材統制などのため政府が主導する形でのラジオの規格化と普及がドイツや日本で行われた。低コストで大量生産が可能なラジオ受信機を実現するため、これらには単純な回路でそれなりの性能が得られる再生回路が使われた。 ドイツの国民受信機(独: Volksempfänger)は、ナチス・ドイツの一般国民に対するプロパガンダ放送の受信の手段として低価格で販売されたもので、ライトホイザー博士を長とする委員会が中心になって開発を進めた。最初の国民受信機 VE-301 型は、1933年8月18日にベルリン国際無線展示会で発表され、発売初日で10万台が売れたと言われる。この受信機は、製造コストをできるだけ抑えること、および自国のローカル局およびドイチェ・ヴェレ(Deutsche Welle)の放送が確実に受信でき、イギリスBBCのヨーロッパ向け放送(後のBBCワールドサービス)など他国の放送局は受信できないようにすることが重要だったため、部品点数が少なく感度が低めの構成が採用された。交流電源用や直流送電地域用、電池用、交直両用などの複数のモデルがあり、使用真空管と構成は異なる。交流用の基本モデル VE301W は三極管 REN904 による再生検波回路(後に五極管 AF7 に変更)と五極管 RES164 による低周波増幅回路の組み合わせが使用された。 後にはさらに価格を抑えたドイツ小型受信機(Deutscher Kleinempfänger)DKE1938 型が販売された。この受信機は三極管/四極管の複合管 VCL11 の使用や電源トランスの省略など徹底的な資材節約を行い、価格は VE301W のほぼ半額の35ライヒスマルクだった。DKE1938 型は1938年末までに70万台が生産された。 ドイツ国民受信機 VE301W ドイツ国民受信機 VE301Wの内部構造 ドイツ国民受信機 VE301Wの回路図 日本では、日本放送協会が「放送局型受信機」の検討を1938年頃から始めた。ドイツの国民受信機から影響を受けたもので、放送協会がデザイン、回路、販売価格までを指定し、同じ物を量産することで一定以上の品質を持った標準受信機を安価に提供することを目指していた。最も有名なものとして放送局型123号受信機があり終戦までに62万台以上が生産された。当時の一般的な受信機であり空襲警報や玉音放送などの記憶とともに語られることも多い。この受信機は、五極管 12Y-V1 による高周波増幅回路、五極管 12Y-R1 による再生検波回路、五極管 12Z-P1 による低周波増幅回路からなり、整流管には双二極管 24Z-K2 を用いた。鉄や銅を節約するため電源トランスを用いないトランスレス方式を採用し、また戦争末期になるほど物資の不足から作りか簡素になっている。この受信機は電解コンデンサの不良など判定困難な故障が多く、真空管が特殊で修理時に入手しにくかったせいもあり、非常に評判が悪かった。以下に放送局型受信機の種別と構成を示す。 放送局型受信機(放送局型ラジオ)の種別と構成名称使用真空管感度階級規格年度形式備考放送局型1号 57 47B 12B 中電界 1938.1 並三 音質改善のためプレート検波を採用、低感度 放送局型3号 58 57 47B 12B 弱電界 1938.1 高一 音質改善のためプレート検波を採用、低感度 放送局型11号 57 47B 12F 中電界 1939.3 並三 放送局型1号の感度改善・省資源版 放送局型122号 12Y-R1 12Z-P1 24Z-K2 弱電界 1940.10 並三 トランスレス方式 放送局型123号 12Y-V1 12Y-R1 12Z-P1 24Z-K2 微電界 1940.10、1942.3 高一 トランスレス方式、物資不足で段階的に仕様簡素化 また、放送局型受信機とは別に、資材節約という当時の国策に沿ってラジオメーカが独自に設計した普及型受信機(「国策型受信機」と呼ばれる)も数多く存在した。これらの受信機で最も一般的な構成は真空管 UZ-57, UX-26B, UX-12A, KX-12F の組み合わせからなる並四で、初期の国策型受信機である「ナショナル国策1号型」(KS-1型)がこの構成である。1940年以降はラジオ統制の強化により UX-26B に代わって UY-56 が使われるようになった。これらの受信機には、放送局型受信機と同様、再生検波回路が使われていた。 戦争が終わるとラジオの統制は解除され、GHQによる民主化の手段としてラジオの普及が行われることになった。このような背景から1945年9月には日本の新たな標準受信機の規格である「国民型受信機」規格の検討が始まり、1946年に日本通信機械工業会から正式な規格が発表された。この規格でも再生検波回路が使われた。戦争中の代表的な受信機だった放送局型123号の構成も国民型1号として国民型受信機規格に採用されている。以下に国民型受信機の種別と構成を示す。 国民型受信機(戦後の認定受信機)の種別と構成名称使用真空管感度階級出力形式備考国民型1号 12Y-V1 12Y-R1 12Z-P1 24Z-K2 微電界 300mW以上 高一 放送局型123号と同構成、トランスレス方式 国民型2号A 6D6 6C6 6Z-P1 12F 微電界 300mW以上 高一 国民型受信機の主流モデル(ナショナル4M-106型など) 国民型2号B 12Y-V1 12Y-R1 12Z-P1 12F 微電界 300mW以上 高一 国民型1号の電源トランス使用版、後に廃止 国民型2号C 6D6 6C6 42 12F 微電界 300mW以上 高一 後に廃止 国民型3号 12Y-V1 12Y-R1 12Z-P1 24Z-K2 微電界 300mW以上 高一 ダイナミックスピーカー使用の高級型、トランスレス方式 国民型4号A 6D6 6C6 42 80 微電界 1000mW以上 高一 ダイナミックスピーカー使用の高級型 国民型4号B 6D6 6C6 6Z-P1 12F 微電界 300mW以上 高一 ダイナミックスピーカー使用の高級型 国民型5号 57A 56A 12A 12F 弱電界 170mW以上 並四 旧式の2.5V管を使用、GHQ指示により後に廃止 国民型6号A 58A 57A 47B 12F 微電界 300mW以上 高一 旧式の2.5V管を使用、後に廃止 国民型6号B 58A 57A 3Y-P1 12F 微電界 300mW以上 高一 6号Aの 47B を傍熱型の 3Y-P1 に変更、後に廃止 その後、再生妨害が発生する国民型5号の製造がGHQにより禁止され、ヒーター電圧2.5Vの旧式の真空管を用いたものが廃止になるなど、見直しと整理が行われた「普通級国民型受信機規格」が1947年に制定された。 また、上位規格である「超ヘテロダイン級国民型受信機規格」も同じ年に発表され、スーパーヘテロダイン受信機の標準化が行われた。これ以降、多くのメーカーから普及型のスーパーヘテロダイン受信機(五球スーパー)も発表されるようになった。この当時の国内の電源事情は極めて悪く100ボルトの電灯線電圧が半分以下に下がることもあり、電源電圧の低下で局部発振が止まると受信できなくなるスーパーヘテロダイン受信機がすぐに主流となることはなかったが、1951年に民間放送が始まり 局数が増加すると、徐々に感度と選択度に優れたスーパーヘテロダイン方式への移行が進んでいった。
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