トランスヒューマニズムの発達
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/11 16:41 UTC 版)
「トランスヒューマニズム」の記事における「トランスヒューマニズムの発達」の解説
最初にトランスヒューマニストを自称する者達が正式に会ったのは、1980年代初頭のカリフォルニア大学ロサンゼルス校であり、後にトランスヒューマニスト思想の中心地となった。FM-2030(英語版)はここで、彼の「第三の道」的未来学イデオロギーについて講義を行った。トランスヒューマニストや他の未来学者が頻繁に訪れるEZTV Mediaの会場で、Natasha Vita-Moreは人間が宇宙に向かう際の生物学的限界と地球の重力から脱却することをテーマにした彼女の1980年の実験映画『Breaking Away』を発表した。FM-2030とVita-Moreは、それから間もなくロサンゼルスでトランスヒューマニストの集会を開催し始めた。これにはFM-2030の講義を受けた生徒達とVita-Moreの芸術作品の聴衆が含まれていた。1982年、Vita-Moreは『Transhumanist Arts Statement』を著し、6年後にはトランスヒューマニティに基づいてケーブルテレビ番組『TransCentury Update』を制作した。これは10万人以上の視聴者に届いた。 1986年、K・エリック・ドレクスラーは、ナノテクノロジーと分子アセンブラの展望について議論した『創造する機械 — ナノテクノロジー(英語版)』(英: Engines of Creation: The Coming Era of Nanotechnology)を著し、Foresight Instituteを設立した。人体冷凍保存の研究と提唱、そして実行を行った最初の非営利団体として、アルコー延命財団の南カリフォルニアのオフィスは未来学者にとっての中心地となった。1988年、『Extropy Magazine』の最初の号がMax MoreとTom Morrowによって出版された。1990年、戦略的哲学者のMoreは、独自かつ特定のトランスヒューマニストのドクトリンを作成した。それはエクストロピーの原則の形を取っており、新しい定義を与えることにより現代のトランスヒューマニズムの基礎を築いた: トランスヒューマニズムは、我々をポストヒューマン状態へと導く哲学の一種である。トランスヒューマニズムは、理性と科学への敬意、進歩への献身、今生における人間(またはトランスヒューマン)存在の評価など、ヒューマニズムと多くの要素を共有している。(中略)トランスヒューマニズムはヒューマニズムとは異なり、様々な科学と技術に起因する我々の生活の性質と可能性の根本的な変化を認識し、予測するものである。(後略) 1992年、MoreとMorrowは、エクストロピー研究所(英語版)を設立した。それは、未来学者をネットワーク化し相互に繋げる触媒となり、一連の会議を組織することによって新たなミームプレックス(英語版)のブレインストーミングを行った。更に重要なことに、メーリングリストを提供してサイバーカルチャーとサイバーデリック・カウンターカルチャーが隆盛している間に、多くの人々にトランスヒューマニストの視点を初めて露出した。1998年、哲学者のニック・ボストロムとDavid Pearceは、科学的調査と公共政策の正当な主題としてのトランスヒューマニズムの認識に向けた国際的非政府組織である世界トランスヒューマニスト協会(WTA)を設立した。2002年、WTAは『トランスヒューマニスト宣言』を修正して採用した。WTA(後のHumanity+)が作成した『トランスヒューマニストFAQ』は、トランスヒューマニズムの二つの正式な定義を提供した: 理性の応用を通して、特に、老化の廃絶と人間の知的身体的および心理的能力を大幅に強化するために、広く利用可能な技術を開発および作成することによって、人間の状態を根本的に改善することの可能性と望ましさを肯定する知的および文化的運動。 人間の根本的な限界を克服することを可能にする技術の影響、展望、および潜在的危険性の研究。そして、そのような技術の開発と使用に関わる倫理的問題に関連する研究。 他のトランスヒューマニストによる組織とは対照的に、WTAの職員は、社会的勢力が彼らの未来学的展望を害する可能性があり、それに対処する必要があると考えた。特に懸念されるのは、階級や国境を超えた人間強化技術への平等なアクセスである。2006年、右派リバタリアンとリベラル左派の間で発生したトランスヒューマニズム運動における政治的闘争により、元常務のJames Hughesの元でWTAは中道左派に位置付けられた。2006年、エクストロピー研究所の理事会は組織の運営を中止し、その使命は「本質的に完了した」と述べた。これにより、世界トランスヒューマニスト協会が主要な国際的トランスヒューマニスト組織として残った。2008年、ブランド変更の一環としてWTAは「Humanity+」へと名前を変更した。2012年、Longevity Partyが科学技術的手段の開発を顕著な延命へと促進する人々の国際連合として発足し、今日では世界に30を超える国家組織が存在する。 Mormon Transhumanist Associationは2006年に設立され、2012年までに数百人の成員で構成されていた。 初めて議会に選出されたトランスヒューマニスト議員はイタリアのGiuseppe Vatinnoである。 2014年には、作家・哲学者のゾルタン・イシュトヴァンがトランスヒューマニスト党を結成し、2016年アメリカ合衆国大統領選挙に出馬した。本人によると、米国初の無神論者の大統領候補である。この党は主に、科学者、未来学者、エンジニア、テクノロジー愛好家から構成されているが、新たな支持基盤として無神論者、LGBT、障がい者のコミュニティを取り込もうとしている。公式な有料の党員制度はないが、ソーシャルメディアやイベント参加者、寄付などを根拠に、米国内に約2万5000人の支持者がいると推定されている。世界的には五大陸を跨ぎ、約25のトランスヒューマニスト党が存在するとしている。基礎を成す考え方は、生命という体験は貴重で美しく、それを保護するための合理的手段はテクノロジーとサイエンスしかないというもので、「誰かを傷つけない限り自分の体にはしたいことをする権利がある」という理念、形態的自由という思想を達成したいとしている。右派でも左派でも気にしないという。主な目標は、戦争や暴力行為から費用を取りあげ、その資源を人々の健康のための医療や、繁栄、幸福の実現に向けて注ぐこと。また、巨大な海上国家プロジェクトを作り、あらゆる人や科学実験がそこで受け入れられるようにしたいという。宣戦布告する相手はがんやアルツハイマー、そして加齢である。ロボットが仕事をする一方、人間は余暇を楽しみ世界を探索するという生き方も提唱している。その他、全国共通のベーシックインカムを設定することで経済的不平等をなくし、大学や幼稚園を含む全ての人の教育無償化を主張している。イシュトバンの政治アドバイザーは、元民主党の下院議員候補で、トランスジェンダーの億万長者起業家マーティーン・ロスブラット(英語版)の息子ガブリエル・ロスブラット(英語版)。
※この「トランスヒューマニズムの発達」の解説は、「トランスヒューマニズム」の解説の一部です。
「トランスヒューマニズムの発達」を含む「トランスヒューマニズム」の記事については、「トランスヒューマニズム」の概要を参照ください。
- トランスヒューマニズムの発達のページへのリンク