チュルク語族とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > 百科事典 > チュルク語族の意味・解説 

チュルク語族

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/24 04:13 UTC 版)

チュルク語族
話される地域 アナトリア中央アジア中国西部、
シベリア南部、シベリア東部など
言語系統 世界の主要な語族の一つ
祖語 テュルク祖語
下位言語
ISO 639-5 trk
チュルク語族の分布

チュルク語族(チュルクごぞく、英語: Turkic languages)、またはテュルク語族(テュルクごぞく)・突厥語族(とっけつごぞく)は、中央アジア全体やモンゴル高原以西にあるアルタイ山脈を中心に東ヨーロッパから北アジアシベリア)に至る広大な地域で話される語族である。

概要

歴史学の成果から本来このチュルク語族を話す人々は中央アジア・モンゴル高原からシベリアのあたりにいたと考えられる。

分布がチュルク語族と隣接するモンゴル語族ツングース語族とはいくつかの言語の特徴を共有するため、チュルク語族とこれらとをあわせてアルタイ諸語という説もあるが、多くの言語学者はその説を否定している[1]

各語群内では言語間の共通性が大きく、意思疎通は容易であると言われる。

その分布の広大さに比べて言語間の差異は比較的小さく、チュルク諸語全体をひとつの言語、「チュルク語」と見なし、各言語を「チュルク語の方言」とする立場もありうる。

特に3語群(オグズ語群キプチャク語群カルルク語群)の話者はイスラム教を受け入れた結果、アラビア語ペルシア語から多くの語彙を取り入れているため、語彙上の共通性が大きい。

政治的経緯から、トルコ語を除く諸言語はロシア語からの借用語も非常に多い。

現在のブルガリア人はスラヴ語派のブルガリア語を用いるが、先祖であるブルガール人は、バルカン半島にやって来るまでは、ブルガール語派(テュルク古語)を話すテュルク系民族であった。なおブルガリアは、その後オスマン帝国支配を受けた経緯により、トルコ語の語彙が多く取り入れられている。

分類

テュルク諸語は、音韻などの特徴からいくつかの語群に分類される。以下に、各言語のうち主要なもののみを例示する。[2]

文法

日本語と同じく、目的語や述語に助詞活用語尾が付着する膠着語で、母音調和を行うことを特徴とする。文の語順も基本的に日本語に近く主語‐目的語‐述語になる言語が多い。

歴史

原郷

チュルク語族の原郷は、トランス・カスピ海の草原と北東アジア(満洲)の間のどこかにあることが示唆されており[9]、南シベリアモンゴルの近くの地域がチュルク系民族の「アジア内の原郷」であることを示す遺伝的証拠がある[10]。同様に、ユハ・ヤンフネン、ロジャー・ブレンチ、マシュー・スプリッグスを含む数人の言語学者は、現代のモンゴルが初期のチュルク語の原郷であると示唆している[11]

およそ紀元前1千年紀の初頭の間に、原チュルク人原モンゴル人の間で広範な接触が起こった。 2つのユーラシア遊牧民グループの間で共有されている文化的伝統はen:Turco-Mongol traditionと呼ばれている。2つのグループは同様の宗教システムであるテングリズムを共有しており、チュルク諸語とモンゴル諸語の間には多くの明らかな借用語が存在する。借用は双方向だったが、今日、チュルク諸語の借用語はモンゴル諸語の語彙の中で最大の外来語彙の構成要素を成している[12]

チュルク語族と、近隣のツングース語族モンゴル語族韓国語族日琉語族(以前はすべていわゆるアルタイ語族の一部であると広く考えられていた)の間のいくつかの語彙的および広範な類型的類似性は、近年ではこれらのグループ間の先史時代の接触を示すものと考えられている。北東アジアの言語連合英語版と呼ばれることもある。

また、チュルク祖語時代に中国語と接触したことを示す借用語も存在する[13]

Robbeets(etal.2015、etal.2017)は、チュルク語族の原郷は満洲のどこかにあり、モンゴル語族、ツングース語族、韓国語族(日本語族の祖語を含む)の原郷に近く、これらの言語は共通の「トランスユーラシア語」(Transeurasian) を起源とする[14]。「トランスユーラシア語族」の証拠はNelson et al. 2020、Li et al. 2020 によっても提示されている[15][16]

有史時代

テュルク諸語の最古の文献は、第二可汗国時代の686年から687年頃に建てられたチョイレン銘文と呼ばれる突厥碑文で、古テュルク文字(テュルク・ルーン文字、突厥文字)で書かれた。その他の突厥碑文は、モンゴル高原の各所に残る。745年に突厥を滅ぼしたウイグルも古テュルク文字を受け継いだ。

モンゴル高原から中央アジアに移住した後、8世紀にはソグド文字を改良したウイグル文字を使用して古ウイグル語が書かれた。

この言語は天山ウイグル王国856年 - 13世紀)を建てると公用語となった。なお、古ウイグル語は後述のチャガタイ語に連なる現代ウイグル語とは系統が異なる。

イスラム教を受け入れたカラハン朝840年 - 1211年)では、アラビア文字テュルク語トルコ語版を書き取るようになり、『クタドゥグ・ビリグ』のような文学作品が著された。その後、中央アジアではチャガタイ語アナトリアではオスマン語がそれぞれアラビア語・ペルシア語の要素を取り入れた典雅な文章語として発展した。

20世紀に入ると文章語の簡略化が進められ、各地の口語を基礎とし、ラテン文字キリル文字で書き表される新しい文章語が生まれた。しかし、依然としてイランなどではアラビア文字が使用されており、中国でも一度ラテン文字化が進められたテュルク系諸言語が1980年代にアラビア文字表記に戻されたので、現代テュルク諸語を表記する文字は大きく分けて3つ存在する。

ソ連崩壊後、旧ソ連のテュルク諸語ではキリル文字からラテン文字へ移行する動きが見られる(アゼルバイジャン語トルクメン語ウズベク語など)。

ロシアのタタール語などもラテン文字への移行を目指しているが、ロシア政府の介入によってラテン文字の公的使用は制限されている。

脚注

  1. ^ Vovin, Alexander (2005). “The End of the Altaic Controversy In Memory of Gerhard Doerfer”. Central Asiatic Journal (Harrassowitz Verlag) 49 (1): 71-132. https://www.jstor.org/stable/41928378?seq=1. 
  2. ^ turcologica”. 18 June 2021閲覧。
  3. ^ (ロシア語) Гумилёв Л. Н. От Руси к России. — М.: Алгоритм, 2007. — С. 83. — 384 с.
  4. ^ アヴァール語とは全く別の言語である。
  5. ^ Krymchak - Glottolog
  6. ^ Urum - Glottolog
  7. ^ Ili Turki - Glottolog
  8. ^ Ainu (China) - Glottolog
  9. ^ Yunusbayev, Bayazit; Metspalu, Mait; Metspalu, Ene et al. (2015-04-21). “The Genetic Legacy of the Expansion of Turkic-Speaking Nomads across Eurasia”. PLOS Genetics 11 (4): e1005068. doi:10.1371/journal.pgen.1005068. ISSN 1553-7390. PMC 4405460. PMID 25898006. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4405460/. "The origin and early dispersal history of the Turkic peoples is disputed, with candidates for their ancient homeland ranging from the Transcaspian steppe to Manchuria in Northeast Asia," 
  10. ^ Yunusbayev, Bayazit; Metspalu, Mait; Metspalu, Ene et al. (2015-04-21). “The Genetic Legacy of the Expansion of Turkic-Speaking Nomads across Eurasia”. PLOS Genetics 11 (4): e1005068. doi:10.1371/journal.pgen.1005068. ISSN 1553-7390. PMC 4405460. PMID 25898006. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4405460/. ""Thus, our study provides the first genetic evidence supporting one of the previously hypothesized IAHs to be near Mongolia and South Siberia."" 
  11. ^ Blench, Roger; Spriggs, Matthew (2003) (英語). Archaeology and Language II: Archaeological Data and Linguistic Hypotheses. Routledge. p. 203. ISBN 9781134828692. https://books.google.com/books?id=48iKiprsRMwC&pg=PA203 
  12. ^ Clark, Larry V. (1980). “Turkic Loanwords in Mongol, I: The Treatment of Non-initial S, Z, Š, Č”. Central Asiatic Journal 24 (1/2): 36–59. JSTOR 41927278. 
  13. ^ Johanson, Lars; Johanson, Éva Ágnes Csató (2015-04-29) (英語). The Turkic Languages. Routledge. ISBN 9781136825279. https://books.google.com/books?id=Z7i5CAAAQBAJ&q=turkic+mongolian+related&pg=PA76 
  14. ^ Robbeets, Martine (2017). “Transeurasian: A case of farming/language dispersal”. Language Dynamics and Change 7 (2): 210–251. doi:10.1163/22105832-00702005. 
  15. ^ Tracing population movements in ancient East Asia through the linguistics and archaeology of textile production”. Cambridge University. 7 April 2020閲覧。
  16. ^ Millet agriculture dispersed from Northeast China to the Russian Far East: Integrating archaeology, genetics, and linguistics”. 7 April 2020閲覧。

関連項目

外部リンク


「チュルク語族」の例文・使い方・用例・文例

Weblio日本語例文用例辞書はプログラムで機械的に例文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「チュルク語族」の関連用語

チュルク語族のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



チュルク語族のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのチュルク語族 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
Tanaka Corpusのコンテンツは、特に明示されている場合を除いて、次のライセンスに従います:
 Creative Commons Attribution (CC-BY) 2.0 France.
この対訳データはCreative Commons Attribution 3.0 Unportedでライセンスされています。
浜島書店 Catch a Wave
Copyright © 1995-2025 Hamajima Shoten, Publishers. All rights reserved.
株式会社ベネッセコーポレーション株式会社ベネッセコーポレーション
Copyright © Benesse Holdings, Inc. All rights reserved.
研究社研究社
Copyright (c) 1995-2025 Kenkyusha Co., Ltd. All rights reserved.
日本語WordNet日本語WordNet
日本語ワードネット1.1版 (C) 情報通信研究機構, 2009-2010 License All rights reserved.
WordNet 3.0 Copyright 2006 by Princeton University. All rights reserved. License
日外アソシエーツ株式会社日外アソシエーツ株式会社
Copyright (C) 1994- Nichigai Associates, Inc., All rights reserved.
「斎藤和英大辞典」斎藤秀三郎著、日外アソシエーツ辞書編集部編
EDRDGEDRDG
This page uses the JMdict dictionary files. These files are the property of the Electronic Dictionary Research and Development Group, and are used in conformance with the Group's licence.

©2025 GRAS Group, Inc.RSS