「キリスト磔刑」とは? わかりやすく解説

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「キリスト磔刑」

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/19 21:13 UTC 版)

キリスト磔刑と最後の審判」の記事における「「キリスト磔刑」」の解説

「キリスト磔刑」のパネルは、キリスト受難エピソード三層配して描き出した構成となっている。上部3分の1が、エルサレム町並み背景描かれキリスト磔刑下部3分の2ゴルゴタの丘集う群衆、そしてキリスト弟子近親者たちである。エルサレムの街を囲む城壁の外には岩窟墓所庭園見える。1世紀ゴルゴタの丘エルサレム処刑場として使用されており、「石だらけで寒々とした、生者気配がない」場所として描かれている。荒涼とした雰囲気は、キリスト処刑をより間近見物しようとしてひしめきあう群衆によってさらに強調されている。『新約聖書』では、キリスト弟子たち近親者、そして告発者や様々な見物人磔刑処せられるキリストのためにゴルゴタの丘集ったことを記している。ファン・エイク描いたこの「キリストの磔刑」では、弟子たち近親者画面前景に、告発者や見物人ユダヤ人大祭司エルサレム神殿長老たちとともに画面中景に描かれている。 画面下部中央には、三名女性囲まれ嘆き悲しむ五名人物描かれている。青色ローブ着用しているのが聖母マリアで、赤色ローブ着用してマリア支えているのは洗礼者ヨハネである。悲しみのあまり失神したマリア (en:Swoon of the Virgin) が画面前景配され美術史家ジェフリー・チップス・スミスは「作品鑑賞者と近い場所」にマリア描かれているとしている。顔のほとんどを青色ローブ覆い隠されマリア地面崩れ落ち、その腕を洗礼者ヨハネ支えている。ヨハネの横には、白で縁どりされた緑色ローブをまとうマグダラのマリアひざまずいている。マグダラのマリア両腕高く掲げられ固く組まれ両手心中苦悶表現している。画面下部描かれ五名人物の中で、マグダラのマリアだけが磔刑処せられたキリストを見つめており、鑑賞者の視線画面下から上へと移動させる役割一端担っている画面前景左端鑑賞者に背を向けてキリストを見つめる女性と、右端マリアたちを見つめる女性古代巫女シビュラで、エリュトレイアの巫女 (en:Erythraean Sibyl) とクマエ巫女 (en:Cumaean Sibyl) だと考えられている。伝統的なキリスト教義では、この二人ローマ帝国によるキリスト教迫害キリスト処刑復活預言したシビュラとして知られている。クマエ巫女は、キリストの死を嘆き悲しむ人々はまった異なった表情浮かべているように見える。この表情自身預言的中したことへの満足感と、嘆き悲しんでいるほかの女性に対する深い同情心との両方表現したものだと解釈されている。 画面中部にはキリストの磔刑見物に来た群衆描かれ群衆画面下部嘆き悲しむ人々との間には二人ローマ軍兵士配されている。赤いターバン巻いた男の肩に寄りかかるを肩に担ぐ兵士の腰には画面下部嘆き悲しむ人々の姿が反射して映り込んだ金属製の盾が吊られている。ジェフリー・チップス・スミスは、この盾が嘆き悲しむ人々見物に来た群衆とを、精神的肉体的に隔て効果持っている指摘している。また、美術史家アダム・ラブダは、嘆き悲しむ人々画面中部群衆との間に全身像で描かれたこの二人兵士が、マグダラのマリア同じく鑑賞者の視線画面の上へと移動させる役割果たしているとしている。 美術史家ブライソン・バローズは、ファン・エイクが「キリスト磔刑」のパネルで、画面中部キリスト苦難見物に来た群衆野卑な冷淡さを特に重視して表現しているとする。ローマ帝国兵士司法官をはじめ、様々な階層人々群衆として描かれている。群衆多く豪奢で色鮮やかな東洋風北方ヨーロッパ風が混交し衣服着用しなかには馬に騎乗しているものもいる。罵詈雑言投げつけあからさまに嘲笑する者、あくびをしながらありふれた処刑見上げている者、内輪雑談をしている者などが群衆描かれている。唯一の例外と言えるのが画面最右部のフレームぎりぎりに描かれている、武装して白馬騎乗したローマ軍百人隊長である。大きく両腕広げたこの百人隊長は頭をのけぞらせてキリスト見上げ、「キリスト天からの光に照らし出され瞬間」にキリスト聖性気付いている。1432年ごろにファン・エイク兄弟描いたヘントの祭壇画』にも、この百人隊長とよく似たキリスト先兵有徳司法官描かれている。美術史家ティル=ホルガー・ボルヘルト (en:Till-Holger Borchert) は、このような後ろ向きに描かれた人物像が「横向き人物よりも、はるかに躍動的な印象」を与え鑑賞者の視線を上へと向けてキリスト磔刑図移動させていると指摘している。 ファン・エイクは「キリスト磔刑」のパネル十字架現実では考えられない高い位置描き画面上部3分の1大部分占めさせている。キリストの顔は鑑賞者に正対し、同時に処刑され二人罪人角度をつけてキリスト左右に描かれている。キリストが釘で十字架固定されているのに対し、この二人罪人ロープ十字架縛り付けられている。キリストから見て右横に描かれているのは『ルカによる福音書』にも記されている「改悛した罪人」で、すでに息を引き取った様子描かれている。左横には「改悛せざる罪人」が苦痛に身をよじる瀕死の状態で描かれている。美術史家ジェームズ・ウィールは「どれほどもがいて苦痛からは抜け出すことができない」さまが描かれているとしている。どちらの罪人の手うっ血して黒く変色している。そしてキリスト頭上には、ユダヤ属州総督ピラトあるいはローマ軍兵士用意したヘブライ語ラテン語ギリシア語で「ユダヤ人の王ナザレのイエスと書かれた銘版掲げられている。 「キリスト磔刑」のパネルには、キリスト息を引き取った瞬間描かれており、伝統的な表現では両横の罪人が脚を折られた後にキリスト死去するが、この作品では罪人の脚は折られていないキリストは薄い腰布以外は何も身に着けておらず、陰毛描写されている。両手両足は釘で十字架打ちつけられ、足の傷から流れ出た血が十字架基部まで滴り落ちている。。両腕上半身重み限界まで張りつめ、激し苦痛の中で死を迎えたために顎がゆるんで垂れ、口が開いて歯が見えている画面中部基部左側に、毛皮のふち飾りがついた帽子緑色チュニック着用し白馬騎乗するロンギヌス描かれている。ロンギヌス従者の手借りて キリストの脇に突き刺しており、その刺し傷からは血が噴き出している。群衆陰に隠れてほとんど見えないが、ロンギヌス右側には、葦の先につけた酸っぱい葡萄酒を含ませ海綿高くかかげるステファトン (en:Stephaton) も描かれている。 初期フランドル派分類される最初期画家たちは、絵画作品背景に描く風景描写をあまり重視してはいなかった。ルネサンス初期イタリア人画家たちによる絵画からの強い影響で、初期フランドル派作品風景描かれることもあったが、作品の構成上は重要な要素ではなく写実表現とは程遠い筆致はるかな遠景として描かれることがほとんどだった。しかしながらこの「キリスト磔刑」のパネルでは、15世紀北方絵画としては異例なまでに、エルサレム町並み全景とその背後山並み背景描き込まれている。「最後の審判」パネルにもまたがって広がる画面最上部の空は濃青色に彩られところどころ積雲見える。同じようが『ヘントの祭壇画』にも描かれており、背景の空に躍動感奥行き与え役割果たしている。「キリスト磔刑」のパネルキリスト息を引き取った瞬間描いた作品であることを踏まえて福音書記述どおりに空が暗くろうとしているように見える。画面最上部の遠景にはかすかな巻雲描かれ画面左上部投げかけられた陰がその上太陽存在示唆している。

※この「「キリスト磔刑」」の解説は、「キリスト磔刑と最後の審判」の解説の一部です。
「「キリスト磔刑」」を含む「キリスト磔刑と最後の審判」の記事については、「キリスト磔刑と最後の審判」の概要を参照ください。

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