高速増殖炉 高速増殖炉の概要

高速増殖炉

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/09/04 00:28 UTC 版)

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日本の高速増殖炉 もんじゅ

概要

現行の商用発電用原子炉として一般的な軽水炉と比較した場合の高速増殖炉の特徴を述べる[1]

  1. 増殖比(核反応において消費される核分裂性核種の消滅数に対する生成数の割合)が1.0を超えること
  2. 核燃料の主体がウラン238/プルトニウム239となること(他に核反応起動用のウラン235が若干必要)
  3. 減速材を使用しないこと(熱中性子を利用せず、高速中性子をそのまま利用するため)
  4. 核燃料の核反応断面積がウラン235と比べ格段に小さいため、核燃料を高密度に配置する必要があり、炉心の体積エネルギー密度が格段に大きくなること。これを冷却するため冷却系の高能率化が必須となる。

現在開発が進められている主な形式としては以下のようになる。

  1. 冷却材軽水(つまり普通の純水)を使わずに、代わりに溶融金属(主に金属ナトリウム)を使用する
  2. 燃料には天然ウランまたはウラン/プルトニウム混合燃料(Mixed oxide: MOX燃料)を使用する

MOX燃料の元となるプルトニウム239とウラン238は通常の軽水炉で燃料として使うこともできるが、高速増殖炉の炉心で燃やすことで、さらに不要なウラン238から次の高速増殖炉用の核燃料であるプルトニウム239を作り出すことで核燃料を循環させる「核燃料サイクル」を実現するための要となる装置である。高速増殖炉は、核燃料サイクルのウラン-プルトニウム系列を実施する。

ウラン238(天然・非核分裂性)+中性子 → ウラン239ネプツニウム239プルトニウム239(核燃料)

高速増殖炉は1980年代まで、ウラン燃料の有効利用促進のため米国、フランス、ロシア、イギリス、ドイツ、日本などで積極的な開発が進められてきた。しかし軽水炉にはない様々な問題を含んでいるため、実験炉から原型炉までは数か国でいくつか完成しつつも、実証炉の完成までは時間がかかっていた。1990年代前半に米国の実験炉FFTFとEBR-IIの運転停止、1991年ドイツの原型炉SNR-300の建設中止、1994年英国の原型炉PFR運転中止、1998年にはフランス実証炉スーパーフェニックスの運転中止などが相次ぎ、日本でも「もんじゅ」のナトリウムもれ火災で運転が中止される。1990年代には高速増殖炉の開発は停止状態となり、フランスを除く欧州各国は高速炉の開発を中止した。

今なおロシア、中国、インド等が増殖を重視した開発を行っているが、ロシアを除く国では実用化は大幅に先送りされている。ロシアでは、2014年6月27日に実証炉BN-800が臨界に達し、実用化の目処がついた。一方日本では2016年12月21日にもんじゅの廃炉が決定され、今後も核燃料サイクルの開発は継続するものの、その原子炉は高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減、資源の有効利用を目的とした高速炉とされ、増殖炉とはされていない。フランスの高速炉ASTRIDにおける2014年からの日仏協力についても継続するとされた[2]ものの、2019年8月にフランス政府は経費の高騰を理由にASTRIDの計画を放棄すると発表した[3]

構成要素

高速増殖炉は流体を冷却材に使って炉心の熱を外部に導き、蒸気を発生させて発電等に利用する点では、一般的な軽水炉と似た仕組みを持っている。一方では、冷却材と燃料において大きな違いがある。

冷却材

軽水炉では、炉心の熱エネルギーを外部に取り出すための冷却材や中性子の減速材、反射体などを兼ねて軽水を利用するのに対し、高速増殖炉では高速中性子を減速させないように加熱溶融した金属ナトリウムのような液体金属を使用する。

高速増殖炉の冷却材は、平均速度が秒速1万km程の高速中性子に対して減速効果が小さくその運動を衰えさせないものでなければならず、また単位体積当たりの出力密度が軽水炉よりもかなり大きくなるため、熱伝導率の良いものでなければならない。高速中性子に対する減速効果は水素や重水素のように核の原子量ができるだけ少ない元素が大きくなる。

これらの条件を満たすものとして、金属ナトリウムが使われている計画が多いが、鉛・ビスマスやヘリウムガス冷却も一定の経済性を持つと言われる。ナトリウムは発火性が、鉛・ビスマスは腐食性が問題である。過去には水銀ビスマスカリウムNaK(ナトリウムカリウム合金)などが考えられた。ナトリウムを採用するメリットとして、以下のような点も挙げられる。

  • 水と違って、圧力をかけなくても800度以上にならないと沸騰しないので扱いやすい。
  • 比重が水と同程度なので、水と同様にポンプで循環できる。

金属ナトリウムとして存在している安定同位体の23Naは、炉内で中性子を吸収し放射化され22Na(半減期 2.6年)と24Na(半減期 15時間)に変化するが、半減期が短いため炉停止後の作業者の被爆量を増加させない[4]

また熱伝導率の高さから「もんじゅ」においては3系統ある冷却系のうち、2系統が故障してしまった場合でも1系統のみで炉心の崩壊熱を除去し冷却する事ができる。また循環ポンプなどの電源を全て失う、全電源喪失が起きて循環ポンプが全て停止しても3系統の冷却系にてナトリウムの自然循環と空気冷却器により崩壊熱の除去が可能である。これらの安全性も評価されているため、ナトリウム冷却高速増殖炉は国際的な第四世代原子炉の一つとして位置づけられている。

なお、もんじゅ事故後、フィジビリティスタディからやり直して、冷却材として鉛ビスマスヘリウム軽水ナトリウム等の検討が進められた事実があり、その上で実績や国際協力の可能性(鉛ビスマスは実績が少ないのが否めない)が評価されてもんじゅの再起動、そして次期ナトリウム冷却高速増殖炉の開発へ進んでいた[5]

燃料

MOX燃料

炉心内中央部にはMOX燃料と呼ばれる核燃料集合体が置かれる。

使用前のMOX燃料は、燃料となるプルトニウム239ウラン235が微量と、あとは核分裂をほとんど起こさないウラン238で占められている。

MOX燃料は、(最初は)他の原子炉で使用済みとなった核燃料棒を再処理して取り出されるプルトニウムとウランを混合して酸化させペレット状に固めて燃料被覆管に詰められ核燃料棒とされる。酸化させることで熱に強くして溶けにくくしている。このプルトニウムは、軽水炉内から取り出された使用済み燃料を再処理して得られた物か、高速増殖炉のブランケットを処理して得られた物のいずれかであり、軽水炉由来の方がプルトニウムの同位体が多く含まれている。ウランは、天然ウランからウラン235を相当分抽出した残り(劣化ウラン)か、または天然ウランそのものである場合と、軽水炉や高速増殖炉のMOX燃料・ブランケットを処理して得られた物などであり、いずれも核燃料として有益なウラン235はあまり含まれていない。

使用済み核燃料中には核分裂に伴う分裂片や多くの元から含まれる核燃料近縁の重核種の同位体が含まれ、再処理前にプール内で十分な冷却期間を置いても何年も熱を帯びながら崩壊による強い放射線を放ち続ける。プルトニウムを分離後も、プルトニウム239の他にプルトニウム238やプルトニウム240、プルトニウム241などが含まれ熱と強い放射線を受けながら核燃料の製造を行わねばならない。

なおプルトニウムの混合割合を富化度といい、高速増殖炉ではこの割合を20 - 30%とする。

ブランケット

炉心内の周辺部にはブランケットと呼ばれるウラン238を主成分とする燃料集合体が置かれる。ブランケットも炉内で「燃える」つまり核分裂反応して発電に寄与するがその割合は比較的少ない。

炉心中央部のプルトニウム239やウラン235といった核分裂性の核燃料が臨界による連鎖反応を起こすことで放たれた高速中性子が冷却材にさえぎられることなくそのかなりの割合が周囲まで飛び出して来る。周囲を取り囲むように配置されたブランケット内のウラン238は、この高速中性子を原子核に吸収することで2度のベータ崩壊を起こしネプツニウム239を経てプルトニウム239に変わる。プルトニウム239は(低速な)熱中性子を吸収するとプルトニウム240に変わるが減速材が存在しなければほとんどの中性子は高速のままで飛び込んで来るため、それがプルトニウム239の核に当たると分裂することになる。ただし、プルトニウムの核分裂断面積は小さく高速中性子が核に当たることはまれである。結局、ブランケットのウラン238は徐々にプルトニウム239へと変化してゆく。

ブランケットのウランは天然ウランか劣化ウラン、またはそれらの混合物であり、ウラン238が主体となる[6]




注釈

  1. ^ 福島第一原子力発電所事故では、全電源喪失事故で、残留熱除去系が働かず、2号機、3号機はECCSによって数日持ちこたえた。つまり、ECCSは「LOCA専用」というわけではない。
  2. ^ 金属ナトリウムが漏出したときのために、循環系の設置される区域は窒素ガスが充填される。そのため、人間が容易にその区域に入ることが出来ず、緊急時のメンテナンス性が損なわれている。
  3. ^ プルトニウムが核兵器の原料となる危険があり、米国のカーター政権が高速増殖炉から撤退することを決めたのは、プルトニウムの拡散防止が理由の一つであった
  4. ^ 兵器級プルトニウムによって高性能な核兵器を作る目的だけに限らず、核廃棄物をばら撒く「ダーティボム」(汚い爆弾)としてなら、使用前・使用後にかかわらずあらゆる核物質が利用される恐れがある。
  5. ^ GNEPプロジェクトに参加する19か国の内訳は、米国、台湾、フランス、日本、ロシア、オーストラリア、ブルガリア、ガーナ、ハンガリー、ヨルダン、カザフスタン、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、スロヴェニア、ウクライナ、イタリア、カナダ、韓国である。
  6. ^ ASTRIDは燃料を自前で賄う self-generating 反応炉ではあるものの、増殖率が低く仰えられているので厳密には高速増殖炉ではなく、単に高速炉である。詳細は世界原子力協会発行の「Fast Neutron Reactors」を参照。

出典

  1. ^ 高速増殖炉 (03-01-01-01) - ATOMICA
  2. ^ 高速炉開発の方針(案)原子力関係閣僚会議(第6回)資料1 2016年12月21日
  3. ^ a b “高速実証炉断念。「原発大国」フランスは曲がり角”. 朝日新聞. (2019年9月6日). https://webronza.asahi.com/politics/articles/2019090600005.html 2019年9月17日閲覧。 
  4. ^ 鹿志村芳範、安藤秀樹、「常陽」の実績から考察した高速炉の放射線管理 保健物理 Vol.30 (1995) No.1 P19-26, doi:10.5453/jhps.30.19
  5. ^ FaCTおよびFSの経緯および概要
  6. ^ a b 山田克哉著 『日本は原子爆弾を作れるのか』、PHP研究所、2009年1月30日第1版第1刷発行、ISBN 9784569706443
  7. ^ なぜ高速増殖炉の研究開発が必要か?-詳細-国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
  8. ^ 転換比 ATOMICA
  9. ^ 労多くして益少なし―不必要な「プルサーマル」 舘野淳 (PDF)
  10. ^ 高速炉の安全性”. 2010年4月9日閲覧。
  11. ^ 20020400原子力安全白書 平成13年版 1_2_2 高速増殖炉”. 2010年4月7日閲覧。
  12. ^ 高速増殖炉スーパーフェニックスの即時閉鎖(1998年12月30日) (14-05-02-12)”. 2010年4月8日閲覧。
  13. ^ 高木仁三郎『プルトニウムの恐怖』(岩波新書・1981年)159~160頁
  14. ^ 高速増殖炉 (1960) p.2
  15. ^ 国際熱核融合炉の建設さらに5年遅れ、巨額のコスト超過も=独誌” (2015年11月12日). 2015年11月21日閲覧。
  16. ^ 原子力エネルギー の展望”. 2015年11月21日閲覧。
  17. ^ 原子力白書 第3章 民間および国立研究機関における研究”. 2015年11月21日閲覧。
  18. ^ 原子力の現実 〜 今や商業化前夜の核燃料サイクルと、夢の海水ウラン研究開発huffingtonpost jp 2016年11月08日
  19. ^ 原発は過渡期のエネルギー 代替技術確立へ日米欧結集を”. 2015年5月7日閲覧。
  20. ^ 2030 年に向けた太陽光発電ロードマップ”. 2015年5月7日閲覧。
  21. ^ 長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告 (PDF)”. 2015年5月7日閲覧。
  22. ^ 太陽光発電・地熱発電・中小水力発電・バイオマス発電について資源エネルギー庁調達価格等算定委員会(第34回)配布資料2 P15 (2017年12月27日)
  23. ^ 原子力にいま起こっているイノベーション(前編)~次世代の原子炉はどんな姿?資源エネルギー庁2020年8月20日
  24. ^ GNEP
  25. ^ 三菱重工業は米国エネルギー省 (DOE) と原子力GNEP計画の契約を締結
  26. ^ 三菱重工と日本原燃 高速炉、米で合併 仏アレバと国際標準狙い[リンク切れ]
  27. ^ Nuclear Power Reactor Details - PHENIX”. 国際原子力機関. 2011年12月11日閲覧。
  28. ^ World’s most powerful fast neutron reactor starts supplying electricity to grid
  29. ^ a b ロシア:試運転中の80万kW級高速炉が定格出力で運転開始”. 一般社団法人 日本原子力産業協会. 2016年8月19日閲覧。
  30. ^ a b c Russia to build 11 new nuclear reactors by 2030”. World Nuclear Association. 2016年8月22日閲覧。
  31. ^ ロシア:80万kW級の高速実証炉「BN-800」が営業運転開始”. 一般社団法人 日本原子力産業協会. 2016年11月2日閲覧。
  32. ^ 高速増殖炉サイクルに関する国際的な研究開発の現状 (PDF)
  33. ^ 高速炉サイクル技術の国際動向 (PDF)
  34. ^ 高速炉の稼動で、ロシアでクリーンエネルギーの時代が始まる (2014/6/27) - RT
  35. ^ Russia postpones BN-1200 in order to improve fuel design
  36. ^ ロシアの高速炉サイクル開発戦略日本原子力研究開発機構 平成29年10月31日
  37. ^ インドの原子力発電計画と核燃料サイクルの見通し (PDF)
  38. ^ 日本原子力研究開発機構 「世界の高速増殖炉開発の実績は」 (PDF)
  39. ^ 福建省・霞浦で60万kWの高速実証炉を本格着工電気事業連合会 海外電力関連トピックス情報2018年1月22日
  40. ^ 世界の高速炉開発の動向 - 日本原子力研究開発機構 (PDF)


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