貧困家庭と犯罪
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/24 10:07 UTC 版)
少年犯罪の現場では次のように報告されている。「A少年院における年次統計を見ると、それでも、3人から4人に1人が貧困世帯であること、平成13年から21年度までの8年間で貧困世帯が約2倍に増加していることが分かります。この背景には、経済不況もあるでしょうが、少年鑑別所・少年院入所少年における母子家庭の増加も影響していると考えられます。」「女性の貧困が子どもの貧困の世襲を招き、そのことが他のさまざまな条件を誘発し、結果として非行に至ったケースは、少年院では数多くあります。」「短期間に転職を繰り返しているB 少年の職歴を見た多くの人は、就労意欲が乏しく、忍耐力がないと非難の目を向けることでしょう。しかし、実際は、本人の非ではない経営縮小による給料不払いや前近代的な雇用関係のなかでの極端な減給が、B 少年だけでなく、中学卒業と同時に働き始めた少年たちに対して日常的に行われている就労環境なのです。」 京都府子どもの貧困対策推進計画によると、「少年院に入る子どもの家庭は、離婚等によるひとり親家庭に加え、虐待、DV、問題行動(アルコール依存、薬物乱用)など、家庭の養育力に問題があるものが多く、その2割近くが貧困の家庭(内閣府 ユースアドバイザー養成プログラムより引用)」とし、少年院入所者の5割前後が母子家庭であり、母親暴力が2割前後あったことなどの逆境的小児期体験調査の結果も掲載している。矯正統計年報2004年によると、全国の新収容者5248人の出身家庭の生活水準では、富裕層2.8%、普通層69.8%、貧困層27.4%となっており、犯罪の度合いが重いほど、貧困世帯出身が多くなっている。また、同統計2017年度「新受刑者の罪名別 教育程度」によると、新受刑者で最も多かった学歴は「中卒」であり、約36.4%を占める。1974年に高校進学率が9割を超えたにも関わらず、全新受刑者約1万9千人中約1万2千人が「中卒(高校中退者・高校在学者含める)」学歴しか持っていない。一方、大学卒業者は、2009年に大学(学部)進学率が50%を超えたにも関わらず、わずか約5.6%となっている。 暴力団加入経験者には、「単親家庭」、またはそれに類する「疑似単親家庭」、家庭内暴力が絶えない「葛藤家庭」、親が子を「放置家庭」、親と子の会話が極めて少ない「意思疎通上の機能不全家庭」等々の出身が多い傾向があるという。特に学童期に門限のない家庭が良く見られるという。また、矯正統計年報2017年度「新受刑者中暴力団加入者の教育程度」によると、新受刑者の暴力団加入者で最も多かった学歴は「中卒」であり、約49.2%を占めた。全新受刑者の暴力団加入者1,194人中991人が「中卒(高校中退者含める)」学歴しか持っていない。逆に大学卒業者は7人しかいない。 アメリカの発達心理学者エミー・ワーナーは、ハワイ・カウアイ島で1955年に出生したすべての赤ん坊698 人を40年間にわたって追跡調査した。その研究で、未熟児として生まれたことや精神疾患の親、不安定な家庭環境など、さまざまなリスクが子どもの精神保健の問題の率を高めるが、そのようなリスクをもった子どもの1/3 が良好な発達、適応をとげたのであり、それは親以外の養育者(おば、ベビーシッター、教師)などとの強い絆や、教会やYMCA などのコミュニティ活動への関与が重要であることを示した。このような「リスクや逆境にもかかわらず、よい社会適応をすること」をリジリエンス(レジリエンス)(resilience)という。欧米では1970年代よりリジリエンス研究がはじまり、近年では児童精神医学、発達心理学、発達精神病理学などの分野で活発に研究が行われている。なお、開発途上国において子どもの学力を上げるのに最も費用対効果の高かった政策は、マダガスカルの事例で『子どもとその家族に、教育が将来の賃金に与える影響について教える』というものだった。 セックスワークは私的なセーフティネットの役割を担うため、その業界の周辺者が貧困状況にある少女やシングルマザーを含む女性と高い親和性を持つとの指摘がある。売春経験のある知的障害者の親もやはり知的障害を持つような連鎖が起こることもあり、「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」に加え、「精神障害・発達障害・知的障害」を持つものが貧困に陥るとの指摘がある。家出売春少女らから、虐待や放置を受けた小学校時代に、下校後の居場所としての夜間時間帯を含む学童保育などがあればよかったとの声がある。現実的には、大阪府大阪市では多くの貧困層の子どもたちが利用しているという駆け込み寺や受け皿となってきた「子どもの家」に対する2013年からの補助金削減が決定したが、貧困に苦しむ子どもたちを救う手段が減り、将来の生活保護受給者を増やしてしまうことになる可能性も示唆されている。当施設は、新聞や段ボールを売る事やバザーで現金を得て、無償運営継続を目指している。東京都渋谷区では、「渋谷区こどもテーブル100か所プロジェクト」ととして、地域住民や団体、民間企業が子どもたちに門戸を開き、食事や遊び、学習支援を利用できる「居場所」を区内に作る事業を開始した。また、同区ではインターネットで資金を集めるクラウドファンディングの手法により資金を集め、在住の貧困世帯の中学3年生に学習塾代として使えるクーポンを2018年度より提供する予定としている。
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