自然科学における「時間の矢」とは? わかりやすく解説

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自然科学における「時間の矢」

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/18 02:57 UTC 版)

「時間」記事における「自然科学における「時間の矢」」の解説

例えば、コーヒーミルク混ざることはあっても、混ざったものが自然と分離することは無い。このようにある方向変化することはあっても、逆方向変化することが無いものを不可逆現象という。 不可逆現象事例は、ビデオ映像映画フィルム逆回し説明されることが多い。例えば、“の底に入れた一升の米と一升小豆混合” を写した映画フィルムの例や、“瀬戸物店に闖入した雄牛” を写したフィルムの例や、“アルコール混ぜて両者一様に混ざっていく過程” のビデオ録画の例、がある。このように自然界において不可逆現象は、可逆現象よりもむしろありふれたものであり、「覆水盆に返らず」などの諺も残されている。しかしながらビデオ逆回しという考えからは、人間時間方向一方向しか認識出来ていないだではないかという解釈出来る。例として、ビデオの中の登場人物考えてみよう。時間とは変化認識する事で初め知覚する現象であり、ビデオの中の登場人物何回巻き戻し実行して結局は同じ行動繰り返すため、巻き戻しという逆方向変化認識出来ない。つまり、ビデオの中の世界人物時間逆行気づく事が出来てはいないが、実際に時間逆行何回起きているのであり、ビデオとは異な世界から観測しないと、それを認識する事が出来ない。これを、ビデオテープパラドックスと言うイギリス天体物理学者アーサー・エディントン (Arthur Stanley Eddington) はこの不可逆現象時間的非対称性だと考え1927年に「時間の矢」と表現した。 この“時間の矢”を表す物理法則として、エントロピー増大則 (law of increasing entropy) について言及されることがあるエントロピー増大則は、「孤立系内のエントロピー時間と共に増大する変化しないと言い表される。このことは熱力学第二法則、すなわち「ある物体より熱を取り、それをすべて仕事変えてそれ以外何の変化残さないようにすることは不可能である」というトムソン原理 (Thomson's principle, —statement) や「低温物体から熱を取り、それをすべて高温物体写しそれ以外何の変化残さないようにすることは不可能である」というクラウジウスの原理 (Clausius' principle, —statement) などから導かれるウィリアム・トムソンケルヴィン卿)やルドルフ・クラウジウス主張互いに等価であることが示されており、これらをまとめたものが熱力学第二法則である。熱力学第二法則熱力学における基本原理であり、熱現象観察事実法則化したものである。熱力学第二法則時間の矢現れ一つというだけでなく、非常に多く時間の矢説明ないしは置換)できる。例えば、アルコール混ぜて両者一様に混ざっていく過程は「アルコール分離した状態よりも、混ざった状態の方がエントロピーが高い(自由エネルギーが低い)ため起こる」と説明できる。そのためしばしば両者同列扱われる。しかし、エントロピー増大則成り立つのは「孤立系」、すなわち外界と熱的なやりとりがない系においてであり、エントロピー増大則をもって時間の矢問題がすべて理解されるということはない。 「時間の矢ないしは熱力学第二法則に対して多粒子系における衝突現象結果として認識する還元主義的な立場をとることもできるが、微視的な理論からそれらを説明することは未だに成功していない。時間的に逆に進行するような変化起こり得る可逆性厳密に成り立つような具体的な巨視的現象挙げるのは難しいが、振り子運動惑星公転ニュートン力学により質点運動として表した力学系では可逆性成り立つ。このことは、その系の時間発展を表す運動方程式時間反転対称性持ち時間の進む向き逆転して方程式の形は変わらないためであると説明される。また量子力学相対論、それに含まれる電磁気学同様に時間反転対称性を持つ。系の時間発展記述する方程式が、時間反転対称性を持つために、ある運動方程式によって記述されるなら(解が存在するなら)、その逆向き運動存在する。この「可逆性」は「微視的可逆性原理」と呼ばれている。微視的可逆性原理からマクロ現象における不可逆性説明できるか否かは、不可逆性問題または不可逆性逆理呼ばれる自然科学上の未解決問題である。 ルートヴィッヒ・ボルツマンは「分子的混沌」を仮定してH定理証明したH定理成り立つならば、それを通じて微視的な力学からエントロピー定義することができる。すなわち(微視的な意味での)エントロピー増大則から「時間の矢」の向き決定できる可逆力学からこのような不可逆理論得られることは、ある種パラドックスのように思われるが、それは「分子的混沌」やそれに相当する仮定よる。 熱力学第二法則に基づく時間の矢説明変わり種として「記憶含めた生命活動エントロピー増大する方向にしか働かず故にエントロピー増大則一般に成り立っていないとしても、知的生命体認識する世界においては常にエントロピー増大している。時間の矢あるようにみえるのはそのためだ」というものもある。実際コンピュータ記録正確にいえば記録消去)はエントロピーの上昇を伴うし、生命活動においてもエントロピー増大利用することで方向性持たせている反応もある(モーター蛋白質など)。この説に従うなら、(われわれから見てエントロピー減少していく系も存在しうるが、その内生じ生命は(われわれから見て)「逆回し」な生命活動を行うはずであり、当人たちにしてみればやはりエントロピーは「増大」していくことになる。 素粒子論においてはCPT変換による物理法則不変性がひとつのテーマとなっている。これは荷電共役変換 C, 空間反転 P, 時間反転 T の積であり、時間反転対称性関与している。 量子力学観測問題におけるコペンハーゲン解釈では観測瞬間波動関数の収縮起きると解釈するが、波動関数収縮することはあっても、「復元」することはない。すなわち観測に伴う過程不可逆なものであり、時間反転に対して非対称となる。 これらの矛盾などからジュリアン・バーバーは、宇宙には時間存在しておらず、時間とはあくまで人類感覚としての幻想だと主張している。また、時間測定は、時間そのもの測定する方法などは現在も存在せず物体状態の変化速度時間の経過捉えて測定しているだけのものである。これは、時間そのもの現実として存在しないことを意味しているかもしれない

※この「自然科学における「時間の矢」」の解説は、「時間」の解説の一部です。
「自然科学における「時間の矢」」を含む「時間」の記事については、「時間」の概要を参照ください。

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