常染色体優性脊髄小脳変性症
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/07 16:45 UTC 版)
「脊髄小脳変性症」の記事における「常染色体優性脊髄小脳変性症」の解説
臨床診断における大まかなポイントを以下に纏める。 症候第一選択第二選択純粋小脳失調 SCA6,SCA31 SCA5,SCA11,SCA14,SCA15,SCA22 認知症 SCA17,DRPLA SCA2,SCA13,SCA19,SCA21 精神症状 DRPLA,SCA17 SCA3,SCA27 てんかん DRPLA,SCA10 SCA17 舞踏アテトーシス DRPLA,SCA17 SCA1 ミオクローヌス DRPLA SCA2,SCA19 振戦 SCA2,SCA8,SCA12 SCA16,SCA21,SCA27 パーキンソン症候群 SCA3,SCA12 SCA2,SCA21 痙性 SCA3,SCA18,SCA25 SCA1,SCA4 末梢神経障害 SCA3,SCA18,SCA25 SCA1,SCA4 外眼筋麻痺 SCA3,SCA1 緩徐眼球運動 SCA2 SCA7,SCA1,SCA3 網膜色素変性 SCA7 SCA1 詳細は「脊髄小脳変性症1型」を参照 第6染色体にあるataxin-1遺伝子内のCAGリピート配列の異常伸展が原因である。1974年に日本の矢倉らによりSCA1の遺伝子座第6染色体のHLA上に連鎖することが発見された。異常リピート数は39以上である。日本では東北、北海道に多く、東北と北海道の例には創始者効果も認められる。発症年齢は若年~中年期と比較的幅が広いが30~40歳代の発症が多い。歩行障害などの小脳性運動失調で発症し、構音障害、嚥下障害などに加え、眼球運動障害、腱反射亢進などの錐体路徴候、錐体外路徴候、認知機能低下などが出現する。従来Menzel型遺伝性脊髄小脳変性症と言われていたものの大半はSCA1、SCA2、SCA3のいずれかに含まれると考えられている。SCA1の臨床的な鑑別には錐体路、錐体外路徴候およびの眼の徴候が重要となる。SCA1はSCA3程眼振が目立たず、ジストニアや痙性も目立たないのが特徴である。 SCA1SCA2SCA3眼振 + - ++ 緩徐眼球運動 + ++ - 外眼筋麻痺 + ± ++ 腱反射 亢進 減弱 亢進 痙性 ± - ++ 病理学的には小脳皮質、歯状核、脳幹などに変性が認められる、異常伸長ポリグルタミン病を認識する抗体(IC2)を用いた免疫染色では神経細胞核内に変異ataxin-1蛋白質の封入体が認められる。頭部MRIでは小脳萎縮や脳幹萎縮が認められる。 SCA2 詳細は「脊髄小脳変性症2型」を参照 SCA2は第12染色体にあるataxin-2遺伝子内のCAGリピート配列の異常が原因と考えられている。異常リピート数は32以上である。発症は30~40代が多い。小脳性失調で発症し早期から緩徐眼球運動、末梢神経障害を含む腱反射の低下が認められるのが特徴である。錐体外路症状としてパーキンソン症候群、ミオクローヌス、ジストニア、ミオキミアといった不随意運動なども認められることがある。緩徐眼球運動と腱反射の低下がその他のMenzel型遺伝性脊髄小脳変性症のとの鑑別で重要視される。緩徐眼球運動では比較的なめらかな緩徐な追従運動は保たれているが随意性、反射性ともに速い眼球運動は障害される。主に水平性眼球運動が障害される。頭、眼の共同運動は保たれる。輻湊運動は障害されない。固視反射の増強がみられるという特徴がある。病理学的には小脳皮質、大脳基底核、脳幹、脊髄の変性を認める。抗ポリグルタミン抗体のIC2陽性の核内封入体を認める。頭部MRIでは小脳萎縮、脳幹萎縮が認められる。 SCA3 詳細は「マチャド・ジョセフ病」を参照 かつてはMarie病(spinopontine atrophy)として分類されていた疾患である。SCA3とMJD(Machado-Joseph病、マチャド・ジョセフ病)は当初は別の疾患として報告されていたが両者の原因遺伝子が同一であったという経緯からMJD/SCA3と記載されることがある。MJDはポルトガル領アゾレス諸島出身者に伝わる稀な遺伝性運動失調症とされていた。1970年代に最初に報告さえた3家系Machado家、Thomas家、Joseph家がいずれもポルトガル領アゾレス諸島から米国への移民であったためそのように考えられた。SCA3はフランスのグループにより報告されていた。原因遺伝子は第14番染色体長腕に存在するMJD1遺伝子である。MJD1遺伝子はataxin-3をコードしているが、このたんばく質の機能は不明である。CAGリピートの延長が発病に関与するトリプレットリピート病である。日本でも欧米でも優性遺伝性脊髄小脳変性症(ADSCD)で最も頻度が高い疾患である。異常リピートは53以上で病的となる。古典的には臨床症状から4病型に分類される。これは発症年齢によって臨床症状が異なり、若年発症では錐体外路症状が目立ち、高齢になるほど小脳失調と末梢神経障害が目立つという経験からの分類である。しかしSCA3のスペクトラムは広く、非典型例としては痙性対麻痺型や純小脳失調型なども報告されている。 I型II型III型IV型発症年齢 20〜30歳 20〜45歳 40〜65歳 まれ 臨床症状 錐体路症状、錐体外路症状、痙性 小脳症状、錐体路症状 小脳症状、末梢神経障害、筋萎縮 パーキンソン症候群、末梢神経障害 リピート数 79.4±1.0 74.6±0.5 72.6±1.1 病理学的には小脳歯状核、大脳基底核、脳幹、脊髄特に胸髄の変性は認められるが、小脳皮質は比較的保たれる。歯状核神経細胞は萎縮し、プルキンエ細胞の神経終末の二次的変性であるグルモース変性が認められる。この変性は小脳皮質が比較的保たれ、かつ歯状核神経細胞の萎縮があるときに認められる所見である。抗ポリグルタミン抗体IC2陽性の核内封入体を認める。淡蒼球は内節優位に障害されるため淡蒼球外節優位に障害されるDRPLAとは異なるが両者の区別は遺伝子検査が有用である。頭部MRIでは小脳萎縮、脳幹萎縮(特に被蓋部)が認められる。 SCA6 詳細は「脊髄小脳変性症6型」を参照 第19番染色体短腕に位置する電位依存性Caチャネルα1Aサブユニット遺伝子(CACNA1A)のCAGリピート伸長により発症する常染色体優性遺伝性の脊髄小脳変性症である。ポリグルタミン病の一つである。CAGリピート数は20以上で異常伸長である。日本においては遺伝性脊髄小脳変性症の2~3割を占める。発症の平均年齢は45歳と比較的高齢であり、ほぼ純粋な小脳失調を呈する。画像上は小脳虫部に上面に強い小脳萎縮が認められる。脳幹や大脳は保たれる。小脳のプルキンエ細胞、顆粒細胞、延髄下オリーブ核の神経細胞に強い変性が及ぶ。変性は小脳虫部上面のプルキンエ細胞に強い。神経細胞には変異Caチャネルα1Aサブユニット蛋白の凝集体を認める。これらの封入体はプルキンエ細胞のみに存在し、主に細胞質内に存在し、抗ユビキチン抗体陰性である。他のポリグルタミン病では核内に封入体形成するため特徴的な所見である。なおCACNA1Aは反復発作性失調症2型(EA2)と家族性片麻痺性片頭痛の原因遺伝子でもある。 SCA31 詳細は「脊髄小脳変性症31型」を参照 第16番染色体長腕連鎖型常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症(16q-ADCA)とも言われている。感覚障害を合併するSCA4と同じ第16番染色体長腕に責任遺伝子座が同定されている。世代間で4.9年の軽度の表現促進現象が示唆される、純小脳失調症を示すSCAである。日本の常染色体優性遺伝脊髄小脳失調症の中ではSCA6、SCA3、DRPLAと並んで多い疾患である。日本に固有のSCAであり、家族性脊髄小脳変性症の27.4%におよぶ。同じ純小脳失調症を示すSCA6と同様に高齢発症であり、臨床症状から両者の鑑別は困難である。高齢発症で極めて緩徐に進行するため、家族歴に患者自身が気がつかないこともある。2009年に原因遺伝子の同定がされ、BEAN(brain expressed assosiated with NEDD4)とTK(thymidine kinase 2)がイントロンとして共有する位置に挿入された5塩基の繰り返し配列が原因と判明した。これは非翻訳領域のおけるリピートであり、伸長RNAリピートが、その結合蛋白と核内RNA凝集体(RNA foci)を形成し核内蛋白制御異常をもたらすことが主な病態と考えられている。同様のRNAリピート病の病態を示すものとしては筋強直性ジストロフィーなどがあげられる。病理学的には肉眼所見では小脳虫部上面に萎縮が認められる他は著変はない。ミクロ所見では小脳虫部の前方部分を中心にプルキンエ細胞の脱落などの変化が著明であった。下オリーブ核を含めて脳幹や大脳には異常所見はなく、HE染色では残存したプルキンエ細胞のまわりを厚い好酸性の物質が囲んでいるのがみえる。calbindin-D28kとsynaptophysinに対する免疫染色で陽性を示す。プルキンエ細胞の成分と他の神経細胞からの神経前終末が存在すると考えられている。他の疾患ではみられないSCA31に特異的に認められる病理所見である。またプルキンエ細胞核内にリピートRNA凝集体を認める。これは同じRNAリピート病であるSCA8やSCA10と同様の所見である。 SCA36 50歳移行に小脳失調で発症し後年になって舌や四肢の筋萎縮や脱力、繊維束性収縮など運動ニューロン障害を呈する疾患である。罹患期間が長くなるとMRIで脳幹萎縮も認められる。舌萎縮はSCA1、SCA3でも認められることがあるがSCA36では圧倒的に多い。岡山県と広島県の県境にある芦田川流域で多い。 DRPLA 歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は小脳歯状核赤核路と淡蒼球ルイ体路の系統変性を主病変とする遺伝性疾患である。有病率は10万人対0.6人と推定される。平均罹患年数はおよそ11年とされている。DRPLAは日本では常染色体優性遺伝性SCAの1割を占め、SCA3、SCA6、SCA31についで多い。原因遺伝子は12番染色体にあるatrophin-1遺伝子内のCAGリピート配列の異常伸長である。48以上で病的である。CAGリピート数でにより発症年齢が小児から中年期まで幅広く分布する。発症年齢により臨床症状が異なる。20歳未満で発症する場合は進行性ミオクローヌスてんかん型(PME)である。自発性ミオクローヌスやてんかん発作、知能低下が主症状となる。小脳失調も認められるがミオクローヌスや舞踏運動などで目立たないことがある。40歳以降に発症する場合は小脳失調と舞踏アテトーゼが主症状となる。顕著な表現促進現象により同一家系内でも多様な臨床像と呈することが特徴である。 臨床病型年齢症状若年型 20歳未満発症 ミオクローヌス、てんかん、精神発達遅延、認知機能障害、小脳性運動失調が主症状 遅発成人型 40歳以上発症 小脳性運動失調、舞踏様アテトーゼ、認知機能障害、性格変化などが主症状 早発成人型 20~40歳発症 遅発成人型の主症状に加えてミオクローヌスやてんかんも出現する移行型 病理学的には小脳歯状核の萎縮と淡蒼球ルイ体系の萎縮が認められる。加えて脳幹、大脳皮質の萎縮が認められる。歯状核ではグルモース変性が認められる。これは小脳皮質がほぼ保たれている状態で歯状核の神経細胞が変性した際に認められる所見である。抗ポリグルタミン抗体IC2を用いた免疫染色では変異atrophin-1蛋白質の神経細胞核内封入体や核内のびまん性蓄積を認める。頭部MRIでは小脳萎縮や脳幹(特に被蓋部)萎縮、大脳萎縮を認める。また遅発成人型では大脳白質にびまん性のT2延長病変が認められる。ハンチントン病で特徴的な尾状核頭部の萎縮は認められない。
※この「常染色体優性脊髄小脳変性症」の解説は、「脊髄小脳変性症」の解説の一部です。
「常染色体優性脊髄小脳変性症」を含む「脊髄小脳変性症」の記事については、「脊髄小脳変性症」の概要を参照ください。
- 常染色体優性脊髄小脳変性症のページへのリンク