常染色体トリソミー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/07 04:34 UTC 版)
ある常染色体にトリソミーが起きると、その染色体が担当する物質産生などが通常の1.5倍になって様々な影響を及ぼす。常染色体の完全なトリソミーの誕生例は13番・18番・21番染色体の3種類以外はごくまれにしか存在しないが、これはこれらの染色体がトリソミーを起こしやすいわけではなく、流産児の染色体を調べると一番多いのは16番染色体トリソミーであった。 (英語版のen:Warkany syndrome 2(8)、en:Trisomy 9、en:Trisomy 16、en:Trisomy 22も参照。) この3種類の症候群が多い理由は、他の常染色体には、より重要な遺伝情報が多いため、トリソミーによる変化が致死となり早期に流産するためで、常染色体で一番遺伝子の数が少ないのは一番小さい21番染色体の337個だが、次に少ないのはサイズの近い22番(701個)や20番(710個)ではなく18番の400個、その次が13番の496個となっている。このため上記の3種類の染色体は完全なトリソミーでも生存への悪影響が比較的小さく、出生時まで生存できる可能性がそれなりにあるが、これ以外の出生例が稀なのは生存への悪影響が大きすぎて胎児でも生存が困難なのだろうと考えられている。もっとも出生可能なものでも、流産・死産で出生前に死亡する例の方が多く、一番軽い21トリソミーでも8割は流産になるうえ、流産例と出生に至った例を調べても本質的な違いは見つかっていない。 21トリソミー(いわゆるダウン症候群)(ICD-10 Q90.9) ダウン症候群の項目を参照。 18トリソミー 女児に多い(男児は流産する場合が多いため)。18番染色体が過剰であるために引き起こされる先天性障害。 口唇裂、口蓋裂、握ったままの手、耳介低位付着などの奇形があり、また先天性心疾患になる可能性もある。先天性心疾患は心室中隔欠損症、心内膜床欠損症など。発見者の名前を取りエドワーズ症候群と呼ばれることもある。 予後は21トリソミーより悪く、1967年の報告(Weber)では生存率は生後2か月で50%、2歳で5%(ただし18トリソミー判定以前に死亡した子供の例が抜けている可能性がある)。1979~1988年の64例では生存期間中央値が4日、1週間生存が64%、1歳まで生存が5%。2006年の時点で24例に手段を講じたうえで平均余命152.5日、最高1786日だったという報告がある。 13トリソミー 女児に多い(男児は流産する場合が多いため)。13番染色体が過剰であるために引き起こされる先天性障害。発見者の名前を取りパトー(パトウ、プット、ペイトー)症候群とも呼ばれる。 こちらも予後が悪いが、出生数自体が少ないので出生後の生存率でよいデータがない。 正常細胞とのモザイクではこれら3種以外のトリソミーも出生することがあり、このため染色体分析を行った場合に8・9・13・18・21・22番染色体いずれかの組が3本ある場合は他細胞の染色体混入混入ではなく実際にトリソミー細胞がある可能性を考慮すべきとされる。 常染色体のその他の数の異常については次の通り。 常染色体の完全なモノソミーは細胞レベルでも生存が困難なため、常染色体モノソミーだけは妊娠の自覚もないまま流産する。正常細胞とのモザイクでも出生後ではまず見られず(自然流産の胎児ではまれにある)、もし染色体標本でモノソミーの細胞が混じっていた場合は標本制作時に本来あった染色体が無くなった可能性をまず疑うべきとされるほどである。後述の部分モノソミーはモザイクでなくても状況に応じて生存できる場合もある。 相同染色体が1本もないのをナリソミーと呼ぶが、これも全て着床前に死亡する。 常染色体のテトラソミーについては、ほとんどが流産(もしくは着床前死亡)に終わり、出生例は18テトラソミーなどわずかに報告されているのみである。
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