クナーファとは? わかりやすく解説

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クナーファ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/02 00:48 UTC 版)

クナーファ
パレスチナナーブルス旧市街で、アタール (シロップ) をかけられ切り売りされている柔らかく滑らかな生地を使ったナーイマ・タイプのクナーファ
別名
  • クナーフェ
  • クナフェ
  • ケナーフェ
種類 ペイストリー
地域 アラブ世界
主な材料
その他お好みで
類似料理 カターイフ
Cookbook ウィキメディア・コモンズ
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クナーファアラビア語: كُنَافَةٌ UNGEGN式: Kunāfah)は、アラブ世界で一番有名な菓子ペイストリー)であり[1]、その材料となる小麦粉と水から作られる細麺状の生地のこともクナーファと呼ぶ。クナーフェ、クナフェ、ケナーフェなどと発音および表記する場合もある。

概要

生地

カダイフとも呼ばれる生地としてのクナーファは、伝統的に水と小麦粉から作られ、これを複数の細い注ぎ口が付いた器具を通して銅の大型円形金属調理用トレイ上に細い糸状に円を描くように垂らし、熱を通すことによって作られる[2][3][4]。生地は伝統的に量り売りされる[5]

菓子

菓子のクナーファは地域によって多種多様の種類があるものの、概ね、サムナをまぶしたクナーファ生地でチーズを挟むか包んで共に焼き上げ、熱いうちに室温か冷たいアタールシロップ)をかけ、仕上げにピスタチオをトッピングしたものである[1][6][7]。例外があるものの原則温かいうちに食べられる[8][9]。地域によってチーズの代わりにキシュタまたはナッツ類クルミアーモンド)が使用されることがある。

生地による分類では大まかに以下のものがある[10]

羊乳のチーズとオレンジ色の食用色素が加えられたカダイフ、そしてピスタチオのトッピングを用いたクナーファ・キシュナ
  • クナーファ・キシュナアラビア語: خشنةkhishnah、 荒いまたは粗い) - クナーファ生地(カダイフ)の麺の形が残った状態のもの。
  • クナーファ・ナーイマアラビア語: ناعمةnāʿimah、滑らかまたは柔らかい) - クナーファ生地(カダイフ)を大変細かく砕くか、セモリナ粉から作られた生地が滑らかで柔らかいもの。
  • クナーファ・ムハッヤラアラビア語: محيرةmuhayara、混乱する、二つの物の間)- キシュナとナーイメの両方の生地を使ったもの。
  • クナーファ・マブルーマアラビア語: مبرومةmabrumaワイヤーロープ)- 長い麺状のままのクナーファ生地(カダイフ)がねじりよりあわされた形状のもの。

また、形状的には2層のクナーファ生地の間にフィリングを層状に挟んだものと[1]、クナーファ生地でフィリングを巻いたもののがあり、前者は伝統的に大きな浅いトレイで調理される。

クナーファ生地を揚げるか焼くかした後に蜂蜜をかけ、その上にクリームか刻んだナッツをかけるとクナーファ・ビル・アッサル(كنافة بالعسل)と呼ばれる[11]

起源

起源はファーティマ朝である。13世紀半ばアイユーブ朝時代末期の『友人との絆』(al-Wuṣla ilā al-ḥabīb)というアラビア語の料理書などに言及され、千夜一夜物語にも靴直しのマアルフとその女房ファティマーなどにしばしば登場する[12]イスラム教ラマダーン期間中に好まれるデザートとして、カターイフとともに最もよく知られている[13]アラブ世界以外で名称にカターイフとの混乱がみられるのは、かつてクナーファ生地とカターイフがどちらも同じ生地から、タバク(طبق)という鉄板を用いて作られていたためである[12]

各地域のクナーファ

クナーファは、祝いの席に欠かせない[6]パレスチナ料理英語版の中心の位置を占めるものであり[1]、パレスチナの名物である[6]。パレスチナ人はクナーファに対して熱い思いを抱いており、例えばどこのお店が一番おいしいかや発音はクゥナーファなのか、ケーナーフェィなのか、ケナーファなのかなどを長時間延々と議論する[8]

パレスチナの都市ナーブルスで生まれたことが名前の由来となっているクナーファ・ナーブルシーヤアラビア語版アラビア語: كنافة نابلسية、Knafeh NabulseyehまたはNabilsiyeh)は[1][7]、クナーファの中でも一番有名で[14]人気があり、一般的にただ単にクナーファと言った場合このバージョンを指す[1]

ナーブルスのクナーファは、「この都市のトレードマークである、固くて白くて塩辛いナーブルスチーズが詰められ」、甘いアタール(シロップ)がかけられている[6][14]

パレスチナ難民移送の際、隣接するヨルダンシリアレバノンへレシピが持ち込まれたため、それらの国で最も一般的なバージョンで[15]、学者たちはナーブルスを現代のクナーファの首都と表現している[8]。パレスチナとヨルダンでは生地にオレンジ色の食用色素が加えられることがある[7]

ガザ地区のクナーファ・ガッザーウィヤ(アラビア語: كنافة غزاويةKnafeh Ghazawiya)は、クナーファ・アラビーヤとも呼ばれ、チーズを使わず代わりにクルミなどのナッツ類をフィリングに使い、生地はセモリナ粉を使ったナーイマ・タイプで、ナツメグシナモンの香りを利かせたものである[6][16]。冷やしても食される。

クナーファ(コナーファ)のフィリングには、ナッツにレーズンを加えたものやカスタードクリーム、クリームを包んだものもある[17]

レバノン

キシュタをフィリングに使ったオスマリーエとも呼ばれるクナーファ・キシュナ

チーズのクナーファも人気が高いが、チーズの代わりにキシュタを使うものもある。ゴマをまぶしたカアク英語版(كعك)というパンにクナーファを挟んで朝食に食する[18]。カダイフ麺を別個にカリカリに焼き上げた土台でキシュタを挟んだものはオスマリーエ(Osmalieh)とも呼ばれる[19]。カダイフ麵でキシュタを挟んだ状態で一緒に焼く場合もある[20]

クナーファ生地でナッツを巻いたものはバクラーワ・シャアリーヤ(بقلاوة شعرية、「細麺バクラヴァ」)、焼き色をつけずに仕上げたものをバクラーワ・バッルーリーヤ(بقلاوة بلورية、結晶バクラヴァ)と呼び、チーズやクリームをクナーファ生地の間に挟んで大きなトレーで調理したものをクナーファと呼ぶ[12]

きつね色に揚げたワルカ(ورقة)という薄い生地の間に揚げたアーモンドとアーモンドミルクの甘いソースを挟んで層状にしたデザートをケネッファと呼ぶ[21]

クナーファ生地をカダユフ(トルコ語: Kadayıf)と呼び[注 1]、菓子クナーファをキュネフェ(tr:Künefe)または カダユフ・ドルマ(「カダユフ包み」)と呼ぶ。カダユフ・ドルマに関しては、ルーツの論争がある[22]。カダユフ生地をパンで代用すると、エクメク・カダユフ(Ekmek Kadayıfı)というブレッドプディング風の菓子となる。

クナーファをカタイフィ(ギリシア語: Καταΐφι, Κανταΐφι)と呼び、カスタードクリームやナッツを包む[23]

生地と菓子両方をカダイフと呼び、ナッツを包む[24]

でナッツを包んだ菓子をテル・カダイフまたはクナフェ、チーズを包んだ菓子をバニロフ・テル ・カダイフと呼ぶ。前者には好みでイチゴカイマクを添え、後者にはシロップをかけた後で刻んだピスタチオをふりかける[25]

フランス料理イタリア料理ではクナーファ生地をカダイフと呼び[注 1]デザートのほか、魚や肉を包んで調理するのに使用される。

世界記録

2009年、パレスチナでは、巨大なクナーファ・ナーブルシーヤでギネス・ワールド・レコーズに挑戦した[26][27][28]

  • 日時: 2009年7月18日
  • 場所: パレスチナ自治区ナーブルス
  • 企画人: ムハンナド・アル・アラビ(アラビア語: مهند الرابي
  • 動員数: 100,000人
  • ケーキのデータ
    • 寸法: 幅105-110cm、長さ74m
    • 重量: 1,765.011kg[注 2]
    • 材料: セモリナ粉700kg、ナーブルスチーズ600-700kg、乳脂肪分360kg、ローズウォーター、砂糖300-400kg、ピスタチオ40kg
    • 製作人員: 170人の菓子職人
    • 製作費用: $15,000($30,000という説もある)

ギャラリー

脚注

注釈

  1. ^ a b 稀にガダイフと表記する。
  2. ^ 材料の総重量が1,765.011kgを上回ることから、トッピングに使用した分の重量は、この1,765.011kgから除外されている。

出典

  1. ^ a b c d e f Abu Shihab, Sana Nimer (2012). Mediterranean Cuisine. AuthorHouse. p. 74. ISBN 9781477283097. https://books.google.com/books?id=7kgVTx41NbYC&q=Kunafa+Nablus&pg=PA74 
  2. ^ Ergil, Leyla Yvonne (2022年11月18日). “Turkish desserts that will warm your heart this winter” (英語). Daily Sabah. 2025年2月14日閲覧。
  3. ^ Konya’daki tek kadayıf ustası!” (トルコ語). Konya Yenigün Gazetesi: Konya Haber, Konya Son Dakika, Güncel Konya ve bölge haberleri, Konya'da, Konyaspor, (2011年11月3日). 2025年2月14日閲覧。
  4. ^ Ramazan ayının vazgeçilmez tatlısı: Tel kadayıf - En Son Haberler” (トルコ語). CNN TÜRK (2024年3月10日). 2025年2月15日閲覧。
  5. ^ Sonia Uvezian (2001). Recipes and Remembrances from an Eastern Mediterranean Kitchen. Siamanto. p. 75. ISBN 0-9709716-8-0 
  6. ^ a b c d e Tamimi, Sami; Wigley, Tara (2024年10月8日). “Sami Tamimi and Tara Wigley's knafeh nabulseyeh” (英語). The ガーディアン. ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/food/2021/mar/29/20-best-cheese-recipes-sami-tamimi-and-tara-wigley-knafeh-nabulseyeh 2024年12月12日閲覧。 
  7. ^ a b c d Edelstein, Sari (2010). Food, Cuisine, and Cultural Competency for Culinary, Hospitality, and Nutrition Professionals. Jones & Bartlett Publishers. ISBN 9780763759650. https://books.google.com/books?id=NQoWQTVcpVIC&pg=PA575. ""The topping is made of orange-dyed vermicelli in Palestine and Jordan, and named knafeh nabilsiyeh due to its origin, Nablus (West Bank)."" 
  8. ^ a b c Nissenbaum, Dion; AbdulKarim, Fatima (2023年1月4日). “A Trendy Dessert Stirs Up a Sticky Debate” (英語). Wall Street Journal. ISSN 0099-9660. https://www.wsj.com/articles/middle-east-west-bank-knafeh-dessert-debate-11672847029 2025年3月17日閲覧。 
  9. ^ Assil, Reem (19 April 2022). Arabiyya: Recipes from the Life of an Arab in Diaspora. Clarkson Potter/Ten Speed. p. 97. ISBN 9781984859075. https://books.google.com/books?id=NUJlEAAAQBAJ 2023年2月28日閲覧。 
  10. ^ Kunafa” (英語). Sampateek (2013年10月9日). 2017年11月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年11月8日閲覧。
  11. ^ Claudia Roden (2000). The New Book of Middle Eastern Food. Knopf. p. 436-7. ISBN 0-375-40506-2 
  12. ^ a b c Nawal Nasrallah (2003). Delights from the Garden of Eden: A Cookbook and a History of the Iraqi Cuisine. 1st Books Library. p. 478. ISBN 1-4033-4793-X 
  13. ^ The Ramadan Experience in Egypt アッシャルクル・アウサト2007年10月4日(英語
  14. ^ a b Cuisine Archived 2007-08-04 at the Wayback Machine. Institute for Middle East Understanding
  15. ^ الكنافة النابلسية.. الأصل فلسطينى والشهرة سورية” (アラビア語). اليوم السابع (2017年5月29日). 2025年3月18日閲覧。
  16. ^ The dessert that’s blocked at borders” (英語). www.bbc.com (2022年2月24日). 2025年3月17日閲覧。
  17. ^ Sally Elias Hanna (2006). Dining on the Nile: Exploring Egyptian Cooking. Dog Ear Publishing. p. 98-100. ISBN 1-59858-142-2 
  18. ^ Sonia Uvezian (2001). Recipes and Remembrances from an Eastern Mediterranean Kitchen. Siamanto. p. 339. ISBN 0-9709716-8-0 
  19. ^ Kazan, Samira (2022) (英語). Lebanese cuisine: the authentic cookbook (First American edition ed.). Indianapolis, IN: Dorling Kindersley Limited. pp. 184-185. ISBN 978-0-7440-5449-1 
  20. ^ Attar-Bashi, Lamees (2024) (英語). Middle Eastern Delights: 60 Delicious, One-of-A-Kind Treats You Need to Try. Page Street Publishing. p. 114. ISBN 9781645678236. https://books.google.com/books?id=XRyhEAAAQBAJ&pg=PT229&dq=Osmalieh&hl=ja&newbks=1&newbks_redir=0&sa=X&ved=2ahUKEwidrPTWwbeMAxXXJ0QIHeGiLkYQ6AF6BAgGEAM#v=onepage&q=Osmalieh&f=false 
  21. ^ Paula Wolfert (1987). Couscous and Other Good Food from Morocco. Perennial Library. p. 322-323. ISBN 0-06-091396-7 
  22. ^ お菓子のルーツ論争、今度はカダイフ? 「アルメニア人に渡すな」とエルズルムの菓子職人(2006年5月24日付 Radikal紙) 東京外国語大学「日本語で読む中東メディア」("News from the Middle East")
  23. ^ Sophia Skoura (1989). The Greek Cookbook. Crown. p. 203-205. ISBN 0-517-50339-5 
  24. ^ Atanas Slavov (1998). Traditional Bulgarian Cooking. Hippocrene. p. 174-175. ISBN 0-7818-0581-3 
  25. ^ Sonia Uvezian (2001). The Cuisine of Armenia. Siamanto. p. 391-393. ISBN 0-9709716-7-2 
  26. ^ パレスチナで巨大ケーキ、ギネスに挑戦 AFPBB News 2009年7月19日
  27. ^ أكبر سدر كنافة في العالم ... نابلسي بامتياز   アル・アヤーム新聞(en:Al-Ayyam) 2009年7月19日(アラビア語
  28. ^ فلسطين تدخل موسوعة جنيس للارقام القياسية بالكنافة النابلسية    Ma'an通信(en:Ma'an News Agency) 2009年7月19日(画像

関連項目

外部リンク




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