これまでの進展
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「国際リニアコライダー」の記事における「これまでの進展」の解説
主線形加速器の基幹技術を超伝導高周波空洞に拠ることを決めた2004年の研究者間国際合意を踏まえ、2005年に加速器設計のための国際協力チーム (GDE) が立ち上げられた。GDEは、ICFA(International Committee for Future Collider - 世界各地の主要加速器研究所所長と研究代表者で構成される)の下部組織の一として位置づけられており、その統括責任者はICFAのもとの国際リニアコライダー執行推進委員会 (International Linear Collider Steering Committee) に任命された。GDEの中枢メンバー名簿に載っているのは約60名であるが、世界の100以上の研究所と大学から数百名の加速器専門家、技術者、高エネルギー物理学研究者が参加し、国際リニアコライダー (ILC) の設計と技術開発の作業を行っている(ILCでの実験について準備検討を行っている実験物理学者を加えるならば、関連研究者総数は一千名を大きく越える -- おそらく二千人弱 -- と推計される)。 GDEによる、国際リニアコライダーの2007年時点の設計構想は、国際リニアコライダーサイトに見ることができる(縦横ほかの実際の寸法比は異なる)。第一期計画完成時に国際リニアコライダー加速器施設の主体をなすのは、相対するそれぞれ11.3キロメートルの直線状の2本の主線形加速器 (Main Linacs) である。これに延長約4.5キロメートルの最終収束部 (Beam Delivery Systems)、同じく約2.6キロメートルのビームバンチ圧縮部 (Bunch Compressors)、ビームエミッタンス減衰リング (Damping Rings) などを加えて、加速器施設で必要な立地は総延長約31キロメートルの細長いものである。主線形加速器をはじめとする大部分の設備は地下施設に納められるが、中央の実験設備に対応する箇所を含め、約2.5キロメートルの間隔で地上地下をつなぐ連絡路が設けられ、対応する地上部分に機材搬入口および各種の所要建屋が設けられる。加速器施設の中央部分にはビーム衝突点 (Beam Collision Point) がもうけられ、2つの実験装置 (Detectors) を交互にビーム衝突点に据え付けて実験を行う。 主線形加速器には平均31.5 MV/mの加速勾配で稼働する超伝導空洞(1個の長さ約1メートル)が総数約16,000台据え付けられる。付帯設備として、L-バンド1.3GHzのマイクロ波源、空洞を絶対温度2Kまで冷却するための冷凍施設、各種電源、制御機器が必要となる。最高ビームエネルギーはそれぞれの主線形加速器から250 GeV。これらからのビームが正面衝突するので、ビーム衝突時の重心系エネルギーは最大値500 GeVに到達し、前出CERNのLEP-II加速器で実現された重心系エネルギーの2倍を優に超えるものとなる。加速器施設全体の所要電力は約240メガワットに上ると見積もられる。 このような設計構想に沿い、GDEでは2005-2006年のあいだ加速器設計の現況とりまとめと建設コストの一次評価を行い、これをICFAに報告した。報告書ドラフトと骨子とりまとめは、ICFAおよびILCSCの討議と承認を経て、2007年2月の北京でのICFAの会議のさいに、"Reference Design Report"(略称RDR)として一般に公表され、最終印刷物は2007年9月に出版された。それによると、ILC加速器建設に必要な経費は、"ILC value unit" と呼ぶ仮想価値単位にして、トンネルほか立地整備関連に18億ILC-VU、加速器機材関係で49億ILC-VU、と評価された。また、建設工程に携わる所要マンパワーは2,200万人-時間と積算評価された。なお、通貨に換算すると、1 ILC-VUは2007年はじめ時点の1 USドル、0.83ユーロ、117円に相当するが、上記評価ではインフレ、税金、間接経費ほかが算入されていない。また、人件費の算出習慣も各国で異なっていた。これらのことを考慮した、各国の会計規則に従った見積もりへの換算は、別途行う必要がある。さらに、最終設計に至る間の開発予算、建設後のシステム立ち上げ試験経費、運転経費、また、物理実験用の測定器のための建設費用は別枠となっていた。 RDRには、加速器の設計とともに、ILCで行われる実験物理の骨子と、そのための実験装置に関する素案も記載されていた。実験装置のさらなる開発推進のため、2007年秋にILCSCは、加速器の設計開発を行うGDEと並行し、実験測定器の設計開発をコーディネートする責任者として "Research Director"(略称RD)を選任し、そのもと、世界の関連研究者による作業の組織整備が開始された。 これらの背景のもと、GDEとRD組織は、RDRを加速器と実験測定器の基本骨子文書とし、2008年よりEngineering Design活動を始めることを企画して、2010年ころまでの実機への適用可能性のデモを目指す高度R&Dと、詳細なシステム工学設計の完成にむけた作業に乗り出す活動構想を立案した。 ところが、2007年冬にまず英国、次いで米国で、それぞれの監督官庁によってILC関連の開発予算に関する縮減方針が発表された。とくに、それまで加速器・測定器の双方で大きな物的人的予算配分を行ってきた米国監督官庁の方針転換の影響は無視できず、ILC全体としての開発は減速を余儀なくされることとなった。2008年春に再策定されたGDEとRDの活動方針では、加速器についてはRDRをさらに深化し、コスト面の圧縮と技術リスクの低減を図ったTechnical Design Reportを、測定器については加速器のビーム衝突点近傍の設計と整合をとりつつ、2台の相補的特性をもった測定器システムのDetailed Baseline Reportを、それぞれ2012年終わりまでに完成する、とされていた。なお、英国や米国の監督官庁による予算縮減の理由としては、予算規模展望、技術開発の費用、経済事情などの理由が挙げられているが、この2国のアクションは基本的に独立した事象と理解されていた。また、欧州の英国以外の諸国、また、日本では、これまでのところ大幅な開発予算縮減はなされておらず、2007年中までの米国の規模には及ばないが、2021年現在まで活発な研究・開発が続けられている。
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