原子時計 原子時計の概要

原子時計

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/05/10 13:57 UTC 版)

アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が開発したチップサイズの原子時計

原子時計に基づく時刻系原子時と呼ぶ。現在のSIおよび国際原子時(International Atomic Time)は原子時計に基づく。

原理

原子時計の精度の向上。縦軸は一日当りの誤差(ナノ秒)、横軸は西暦を表す。NIST-F1ではレーザー光によって原子の熱運動を低減することで精度を上げている(レーザー光冷却)

原子分子スペクトル吸収線・輝線(決まった周波数電磁波を吸収・放射する性質もしくはその周波数)を持ち、水晶振動子等よりも高精度な周波数標準となる。周波数は時間の逆数であるから、時間を高精度で測定できる。SI秒の定義もこの性質を利用している。

原子時計は、このような周波数標準器と超高精度の水晶振動子によるクォーツ時計とを組み合わせ、その水晶振動子の発振周波数を常に調整・修正する仕組みによって実現される。

原子時計を元に作られた正確な時刻情報は標準電波として放送されており、その電波を受信してクォーツ時計の誤差を修正しているのが電波時計である。

セシウム原子時計

1984年から1993年まで国際原子時の校正に使われていたセシウム原子時計の共振部。国立科学博物館の展示。

アンモニアセシウムの他にルビジウム水素なども用いられるが、セシウム原子時計の例について述べる。まず炉から放射されたセシウム133蒸気を、磁場によって超微細準位の異なる2つに分離する。分離されたうち基底状態の原子に水晶振動子を基準として9 192 631 770Hzのマイクロ波を照射し、これによって励起された原子に再び磁場をかけて分離する。励起状態のセシウムの量が多くなるよう周波数を調整し、正確な9 192 631 770Hzのマイクロ波を作り出す。1967年から、国際的な1の定義となっている。誤差は1億年に1秒(10の-15乗)程度とされている。最高精度を実現しているのは1次標準の数台に限られており、多くは少し精度の低い商業的に作られた2次標準を用いている。

ストロンチウム光格子時計

レーザー光の干渉定在波によって作られた光格子の中に、ストロンチウム原子約100万個をラム・ディッケ束縛により閉じこめる。光格子に閉じ込めるために原子を数μKまでレーザー冷却する。ラム・ディッケ束縛によりドップラーシフトおよび反跳シフトを排除できる。また、光格子を構成するレーザーの波長を適当に選ぶ(「魔法波長(389.9nm)」)と、時計遷移(線幅はmHzオーダー)の基底状態と励起状態の光シフトを打ち消すことができるため、光シフトの影響がきわめて少ない。2001年東京大学の香取秀俊[1]によって提唱され[2]2003年に基礎実験に成功[3]し、2005年に開発に成功[4]した。セシウム原子時計を超える原子時計として期待されている[5][6]。「光コム」(光周波数コム。レーザー光を利用して光の周波数を精密に測定する仕組み)を使い、より高い周波数マイクロ波ではなく光波)の使用により安定度を上げる。

理論的にはセシウム原子時計の1000倍の「300億年に1秒」の精度がある。2009年現在16桁の精度が実現している(429 228 004 229 873.7Hz)。2006年10月の国際度量衡委員会で、「秒」の二次表現として採択された[7]

イッテルビウム光格子時計

ストロンチウム光格子時計をしのぐ精度をもつ可能性のあるものとして、イッテルビウム171光格子時計の開発が進んでいる。産業技術総合研究所計測標準研究部門時間周波数科の洪鋒雷・研究科長、安田正美・主任研究員らの開発による。黒体輻射や核スピンの影響が少なく精度が高いと考えられている。2010年現在の周波数は518 295 836 590 864Hz(2009年測定、不確かさは28Hz=60万年に1秒)である[8]。 その後、装置の改善等を行い、2012年現在の周波数は518 295 836 590 863.1 Hz (2012年測定、不確かさは2.0Hz。相対不確かさ=3.9×10-15[9]。 2012年10月の国際度量衡委員会で、秒の二次表現として採択された[10]




  1. ^ 2011年度朝日賞「光格子時計に関する研究」
  2. ^ 東京大学香取研究室の研究テーマ
  3. ^ H. Katori, M. Takamoto, V. G. Pal'chikov, V. D. Ovsiannikov, Ultrastable optical clock with neutral atoms in an engineered light shift trap, Phys. Rev. Lett. 2003, 91, 173005.
  4. ^ M. Takamoto, F. L. Hong, R. Higashi, H. Katori, An optical lattice clock, Nature 2005, 435, 321.
  5. ^ 産総研計量標準報告 Vol.4, No.3 光格子時計を用いた光周波数標準
  6. ^ 応用物理、第74巻、第6号(2005)
  7. ^ 情報通信研究機構 > 新世代ネットワーク研究センター > 光・時空標準グループ > 次世代時刻周波数標準プロジェクト > 研究紹介 > Sr光格子時計>ストロンチウム(Sr)原子を用いた光格子時計の研究開発
  8. ^ イッテルビウム光格子時計の開発に成功 産業技術総合研究所 2009年7月29日
  9. ^ Applied Physics Express Vol. 5 (2012) Article No:102401 "Improved Absolute Frequency Measurement of the 171Yb Optical Lattice Clock towards a Candidate for the Redefinition of the Second".
  10. ^ イッテルビウム光格子時計が新しい秒の定義の候補に 産業技術総合研究所 2012年11月1日
  11. ^ Smithsonian Institution Research Information Systemの記述
  12. ^ 1949年7月に成立した特許の内容
  13. ^ 6500万年にわずか1秒の誤差!光格子時計の精度を世界で初めて光ファイバで結び実証
  14. ^ Applied Physics Express Vol.4(2011) No.8 Article No:082203 “Direct Comparison of Distant Optical Lattice Clocks at the 10-16 Uncertainty”
  15. ^ 6500万年に1秒しか狂わない時計 東大など精度実証 朝日新聞(asahi.com)・ 2011年8月5日付け掲載記事《2014年2月6日閲覧→現在はインターネットアーカイブに残存》


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