袋
『オデュッセイア』第10巻 オデュッセウスたちの順調な航海のために、風の司アイオロスが、逆風を革袋に封じこんでくれる。オデュッセウスは革袋を船に縛りつけて航海を続けるが、部下たちが「革袋の中には金銀が入っているのだろう」と考え、開けてしまう。たちまち凄まじい疾風が起こって、船はアイオロスの所まで吹き戻される。
『捜神後記』巻1-3 男が山中の異郷で女から袋をもらい、「これを開けないよう、気をつけなさい」と教えられ、故郷に帰って来る。ところが男の外出中に、家人が袋を開けてしまう。袋は5重になっており、中から青い小鳥が出て飛び去る。その後、男は田仕事中に、立ったまま脱け殻になった。
『今昔物語集』巻17-47 生江世経は吉祥天女に祈願して、米1斗の入った袋を得る。米を取り出して使うと、取るはしから自然にまた袋に米が満ち、いくら取っても尽きることがなかった〔*『古本説話集』下-61の類話では、毘沙門に祈って、米袋を得る〕。
*いくらでも米が出てくる俵→〔名付け〕7bの『俵藤太物語』(御伽草子)。
『遠野物語拾遺』137 遠野の町の某が、夜、墓地を通っていて、同じ町で先ごろ死んだ女に出会った。女は「これを持って行け」と言って、汚い小袋をくれた。中には多量の貨幣が入っており、いくら使ってもなくならなかった。これは「幽霊金」といって、昔からあることだ。1文でもいいから袋の中に残しておくと、一夜のうちにまた元のとおりに一杯になっているという。
*餅の木の親餅を残しておけば、いくらでも餅が出てくる→〔餅〕8aの『餅の木』(昔話)。
*いくらでも金貨が出てくる袋→〔交換〕2の『影をなくした男』(シャミッソー)。
『西遊記』百回本第65~66回 弥勒仏祖に仕える黄眉童子が如来に化け、三蔵法師をだます。孫悟空と彼に味方する28宿の天兵・5万の掲諦が攻め寄せると、黄眉童子は、弥勒のもとから盗んだ人種袋を開いて、悟空らをすべて吸い込む。しかし後には弥勒が袋を取り戻し、その中に黄眉童子を収める。
『古事記』中巻 ヤマトタケルは東国平定に出発するにあたり、伊勢大神宮を参拝した。姨(みをば)倭比売命が彼に剣と袋を与え、「危急の折に用いよ」と教える。相武(さがむ)の国に到った時、ヤマトタケルは国造(くにのみやつこ)に欺かれ、火に囲まれる。ヤマトタケルは姨の言葉を思い出して袋を開け、剣をふるって、難を逃れることができた→〔火攻め〕3。
『三国志演義』第54~55回 劉備は呉の孫権の妹との婚礼のため江南へ赴く。諸葛孔明が3条の計略を記した紙を3つの錦の袋に入れて趙雲に与え、劉備の供を命ずる。「南徐州に着いたら第1の袋、歳末になったら第2の袋、危急の時には第3の袋を開けよ」という孔明の指示どおりにして、劉備は無事に帰国することができた。
★5a.命の入った袋。
『異苑』巻5-14 ある男が幼少時、不思議な老人から袋をもらい、「これはお前の命だ。中身を壊したりなくしたりせぬように」と教えられた。袋を開けると、1本の炭が入っている。男は袋を大切に持ち続け、83歳になった。重病にかかったので、子供たちに袋を開けさせると、中の炭は粉々に砕けていた。男はまもなく死んだ。
*魂の入った袋→〔袋〕1の『捜神後記』巻1-3(通巻3話)。
★5b.経の入った袋。
『宇治拾遺物語』巻10-10 海賊が、若い僧を海へ投げ入れる。僧は「我が命は惜しくはないが、日頃読誦するお経を、しばらくの間でも水に濡らすまい」と考え、首にかけていた経袋を手に持って、高くささげた。すると美しい童子が2~3人現れ、僧の頭や腕をつかんで、海に沈まないようにした。海賊の1人がこの奇瑞を見て心を改め(*他の海賊たちには童子は見えなかった)、僧を救い上げ、自らも法師となった。
★5c.嘘の入った袋。
『うそ袋』(昔話) 殿様が嘘五郎を呼んで、「お前は嘘が上手だと聞くが、おれをうまくだませたら、何でも望みの物をやる」と言う。嘘五郎は、「実は、嘘袋を家に忘れて来ました。家来をやって、取って来てもらいたい」と頼む。それがそもそも嘘だったのだが、殿様はのっけからだまされて、家来に取りに行かせた(岩手県稗貫郡)。
『述異記』(祖冲之)11「袋の中の目玉」 謎の男が黒皮の大きな袋を索万興の家に持ち込んで、去った。袋は転がって、索万興の膝まで上がって来た。皮が四方に開いたので中を見ると、目玉がいっぱい詰まっており、瞬(またた)きしていた。そのうち袋はまた転がりだし、どこかへ消えてしまった。索万興は非常な不愉快を感じ、病気になって死んでしまった。
*多くの目玉の入った箱→〔箱〕3bの『今昔物語集』巻27-21。
『太平広記』巻386所引『玄怪録』 漢の李陵将軍の食糧運搬に用いられた多くの皮袋が、倉庫に放置された。そこに水銀があったために皮袋は朽ちず、生命が宿って人間の形をとることができるようになった(*→〔入れ子構造〕1b)。北周の時代(6世紀)、居延部落の長・勃都骨低が水銀を得ようとして、袋をすべて焼き捨てた。袋は悲鳴をあげ、血が流れた。それから1年もせぬうちに、勃都骨低と家族は全員病気になって死んでしまった。
『英雄伝』(プルタルコス)「カエサル」 エジプトへ侵攻したカエサルが、遠方にいる女王クレオパトラを王宮へ呼ぶ。クレオパトラは人目を避け、夜、小舟に乗って王宮へやって来る。彼女は寝具袋にもぐりこみ、部下がその袋を革紐でしばる。袋は、贈り物としてカエサルのもとへ運び込まれる。思いがけず、袋の中から現れた美女を見て、カエサルはすっかりクレオパトラのとりこになってしまった〔*映画『クレオパトラ』(マンキーウィッツ)では、彼女は絨毯に包まれて、シーザー(=カエサル)のもとへ届けられる〕。
『聊斎志異』巻10-391「彭二ソウ」 禹城の韓公甫がこんな話をした。「私が彭二ソウと出かけ、振り返ると彼の姿はなく、馬だけがついて来る。そして、馬につけた嚢(衣類や寝具を入れる袋)の中から、助けを呼ぶ声がする。嚢の口が綿密に縫いつけてあるので、刀で糸を断(き)って、彭を出してやった。彭は『どうやって嚢に入ったのか、自分でもわからない』と言う。彭の家は狐にたたられており、これに類したことがよくあるそうだ」。
*大きな袋に死体を入れる→〔女中〕4の『ハウス・バイ・ザ・リヴァー』(ラング)・〔盲点〕1bの『見えない男』(チェスタトン)。
*死体と入れ替わって袋に入り、脱獄する→〔脱走〕2の『モンテ・クリスト伯』(デュマ)。
『俵薬師』(昔話) 嘘吉が嘘ばかりつくものだから、旦那が怒り、嘘吉を俵に入れて縄で縛っておく。しばらくして米を運ぶ牛方が通りかかったので、嘘吉は「俵に入って薬師様を拝んだら、悪い眼が良くなった」と、でたらめを言う。牛方はだまされて、「おれも眼が悪いから治してもらおう」と、嘘吉に代わって俵の中に入る。村の若い衆が来て、俵の中は嘘吉だと思って、俵を海へ沈めてしまう(長野県上水内郡小川村稲岡東)→〔海〕6e。
『キリシタン伝説百話』(谷真介)32「占い師の予言」 キリスト教弾圧の時代。キリシタンたちは、俵に入れられて河原に積み上げられたり、火をつけて踊らされたり(蓑踊り)した。このことについて、京の都に住む占い師が筮竹で占ったところ、「俵は米のためのものである。米は増えていく種子(たね)だから、いくら弾圧しても、キリシタンは増えていく」と出た。「お上も馬鹿なことをするものじゃ」と占い師が言ったので、人々は彼を都から追放してしまった(京都)。
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