自主審査機構
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規制に関する歴史にあるように、業界にとって青天の霹靂とでも言うべき事態であった沙織事件などから来る規制強化の流れを受けて、1992年、自主審査機構つまり自主規制の団体としてコンピュータソフトウェア倫理機構(以下ソフ倫)が設立された。 最初期に制定された性表現の規制基準については、主に当時のアダルトビデオ業界の最大の自主審査機構・日本ビデオ倫理協会(以下ビデ倫)の基準を参考にしていたが、動画の実写作品を管理することを主目的としたビデ倫をモデルにした基準は、ほとんどの作品で静止画のイラストが主体であるアダルトゲームの実態にはそぐわないものであった。 しかし、ソフ倫はアダルトゲーム業界唯一の審査機構であることを背景に、パソコンソフト卸・流通の企業との関係・連携を重視しこれらを取り込むことで、ソフ倫に加盟してその規制・指示に従わなければアダルトゲームをパソコンソフトの商業流通の販路に乗せることが事実上不可能になるという業界の構図を作り出し、設立後数年と経たないうちにアダルトゲーム業界で絶大な権力を持つに至った。 だが、その反面で、ソフ倫はその業務内容については非公開としており、ソフ倫に人員を提供する一部の制作会社に対しては作品の審査が甘いという指摘がなされるなど、透明性が低いと言わざるを得ない組織体質であり、プレイヤーサイドの求めるものとのギャップも大きく、プレイヤーや会員メーカーからの不信感を招いた。その上、組織体質的には極度の事なかれ主義で、1999年施行の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の影響が波及する事態や沙織事件の再来を恐れ、18歳未満の男女キャラクターの性的描写の禁止や、ゲーム内において使ってはいけない言葉(いわゆる「NGワード」)などといった規制強化ばかりを年々進め続け(例えば「高校生」(ほとんどが18歳未満)という言葉を「学園生」(年齢不詳)に言い換える、など)、ジュブナイルポルノやアダルトアニメなどと比べても表現の制約と不自由さは増すばかりであった。しかも、ソフ倫はアダルトゲームの審査業務を事実上独占し上述のように卸・流通をも掌握していたことから、事実上、商業流通のアダルトゲーム市場でのメーカーやクリエイターの生殺与奪の権を握っていたと言っても過言では無く、アダルトゲームのメーカーやクリエイターたちはソフ倫加盟か自主審査かは関係なくソフ倫に楯突くような真似はできず、ノベライズであるジュブナイルポルノ作品などの関連商品や雑誌イラスト、ウェブサイトなどにおける表現や言動も含めて、業界で権勢を増すばかりのソフ倫の影響下から逃れることはできなかった。 この状況に小さくとも風穴が開く、すなわちアダルトゲームの審査業務におけるソフ倫の独占が崩れる、その転機となる出来事のきっかけは2001年8月に起きた。『君が望む永遠』(2001年、アージュ)が、画像の修正処理に不手際があるとして“自主回収”となった。発売元のアージュの代表は後年、同作について「自主審査のうえで自主回収だった」としている が、自主回収騒動の後しばらくは主に同作に絡めてアダルトゲーム業界やソフ倫に絡んだ様々な情報や憶測が流れたことも事実である。 「君が望む永遠#初回生産版回収騒動」も参照 いずれにせよ、同作の回収騒ぎが1つの契機となり、アージュの作品を取り扱っていたソフトウェア卸売会社ホビボックスは、アダルトビデオの自主審査機構だったメディア倫理協会(現・コンテンツ・ソフト協同組合メディア倫理委員会、以下メディ倫)にアダルトゲームの審査を行うように働きかける。そして、2003年2月、アージュの『マブラヴ』がメディ倫審査によるアダルトゲーム第1号として発売された。また、ホビボックスとソフト流通の独占契約を締結していたぱんだはうすなど数ブランドが、アージュとほぼ同時期にメディ倫に移行した。 前作『君が望む永遠』がヒット作になったアージュの新作『マブラヴ』は、諸般の事情で発売予定日の延期を何度も繰り返しながらも大きな注目を集めていた。しかし、メディ倫審査による作品の登場という事態に対して、当初、パソコンソフト流通の企業やこのルートからの仕入れをメインとする小売店の多くは、ソフ倫との関係への配慮からソフ倫審査作品以外は取り扱わない方針を取った。その結果、多くのパソコンソフト販売店で『マブラヴ』について入荷どころか仕入れ元からの情報さえ一切皆無という事態が起き、パソコンソフト販売店の店頭や通販のルートからの購入希望者たちを困惑させる。その一方で、『マブラヴ』の流通と販売の中核を担ったのは、従前からメディ倫審査のアダルトビデオの販売を数多く手掛けていたアダルトビデオ系の流通とこれを取り扱うサブカルチャー系書店であった。パソコンソフト販売店での『マブラヴ』の入手難から、アダルトゲームのプレイヤーたちの間ではインターネット上で同作の販売概況を巡る情報交換が幅広く行われ、やがて実情が明らかになるに連れて、サブカルチャー系書店でのパソコンソフト販売に対する認知がプレイヤーの間で広まることになった。 また、当時のメディ倫はソフ倫と異なり、全ての素材を審査する完全審査体制を取っており、卑猥な用語に対する規制もソフ倫より若干緩いものであった。メディ倫審査を通過した『マブラヴ』の登場によって、当時のソフ倫とメディ倫の規制などへに対する姿勢の相違点は比較され、その中でソフ倫の表現規制や末端の加盟メーカーに対する姿勢のきつさが表面化する格好になった。 その後、2004年初頭に数々のブランドを抱える大手・テックアーツがメディ倫への移行を表明、前後して主に中堅以下の数ブランドがメディ倫へ移行し、その後に設立されたメーカーの中には最初からメディ倫による審査を選択し、ソフ倫には加盟しない所も見られるようになった。これらの結果、パソコンソフト流通に属する流通・小売の各社もメディ倫審査の作品の存在を無視することができなくなり、なし崩し的に取り扱いが開始され、10年以上にわたって続いたソフ倫によるアダルトゲーム審査業務の独占は崩壊することになった。 この一連の流れを受けて、加盟メーカーのメディ倫審査への流出防止、すなわち組織防衛の必要に迫られたソフ倫は様々な対抗策を打ち出して加盟メーカーの引き留めを図ったが、その最大の切り札は、それまで組織内部では口にすることさえ事実上のタブーであった性的描写の部分的規制緩和であり、たとえば一度は厳禁になった近親相姦描写は2004年秋以降の作品から再解禁となった。 なお、メディ倫によるアダルトゲーム審査業務は、メディ倫の組織変更に伴い2010年に映像倫理機構による審査業務に移行している。
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