有神論的サタニズムの教説の多様性
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「有神論的サタニズム」の記事における「有神論的サタニズムの教説の多様性」の解説
インターネットによってサタニストの教説の多様性がより意識されるようになり、一方で多様性が増すことにもなった。しかしそれでもサタニズムは常に多元主義的・脱中心的な宗教であり続けてきた。サタニズムの外部の研究者たちは有神論的か無神論的かによってサタニズムを分類して研究し、文字通りのサタンを協同しようという実践を伝統的サタニズムあるいは有神論的サタニズムと呼称した。アブラハムの宗教にみられるような厳密な意味でのサタンであるかもしくはアーリマンやエンキといった他の宗教(大抵はキリスト教以前の宗教)の神々と習合したサタンであるような1~複数の神格を認める神学的・形而上学的経典を受け入れることが、一般に有神論的サタニストとみなされるための条件となっている。Children of the Black Roseという現存しない小規模なグループではサタンがThe Kybalionに記されているような汎神論的な「全者」とみなされていた。多くの有神論的サタニストは一つの解釈を信じ込むよりもむしろ個々の概念はサタンに関する多様な概念全体の諸部分に基づいているのだと考えている。 神話やステレオタイプに終始することを選ぶ者もいるが、有神論的サタニズムに言及するうえでキリスト教は常に第一の枠組みだというわけではない。有神論的サタニストの宗教はネオペイガニズム、左道、オカルトといった流儀に基づいている場合もある。キリスト教のサタン論に基づいた信仰を持つ有神論サタニストは他のサタニストから「逆キリスト者」(英: reverse Christian)と呼ばれるが、これはしばしば侮蔑的な含意を伴う。一方「逆キリスト者」と呼ばれる人々自身は自分たちのサタン論を純粋で混じりけのないものとみなしていることがある。彼らはより厳密なサタン解釈を信奉する: つまり、キリスト教の聖書に登場するようなサタンである。こういった意識は有神論的サタニストの大多数には共有されていないものの、ウイッカはほとんどのサタニズムを逆キリスト教とみなし、無神論者であるサタン教会の指導者ピーター・ハワード・ギルモア(英語版)は「悪魔崇拝」をキリスト教の異端、つまり多様なキリスト教の一形式だとみなしている。有神論的サタニズムに分類される信仰の多様性は有神論的サタニズム内部の激しい議論の原因であるが、サタンが個人主義を慫慂していることの反映だとしばしばみなされる。 はっきりと伝統的サタニズムを自認する著名なグループとしてOrder of Nine Anglesがある。このグループは人間を生贄に捧げることを奨励しているために議論の的となり、新聞や書籍で数多く取り上げられた。ONAではサタンは「無為」な永遠の2つの存在の片方であり、もう一方はバフォメットであり、サタンは男でバフォメットは女だと信じられている。 ONAとは大きく異なるイデオロギーを持つ集団にSatanic Redsがおり、彼らのサタニズムには共産主義的要素がみられる。しかし彼らはサタンを人格神だと信じるような有神論的サタニズムではなく、闇の理神論つまりサタンは自然の中に存在するという信念を持っている。初期のサタン教会ではアントン・ラヴェイ自身が提議した理神論あるいは万有内在神論が奉じられていたが、サタン教会の指導者たちは自身が偽サタニズムとみなしていたものと距離を置くために無神論を奉じていると主張した。 他のグループとしては2007年までMisanthropic Luciferian Orderの名で知られていたTemple of the Black Lightがいる。このグループは「Chaosophy」という哲学を信奉している。Chaosophyとは人類は世界(英:World)の中に存在し、世界は宇宙(英:Universe)の中に存在し、そして宇宙はコスモス(英:Cosmos)という領域の中に存在するという思想である。コスモスは3つの空間的次元と1つの時間的次元から成る。コスモスはほとんど変化しない物質的な領域である。一方、コスモスの他にカオスという領域が存在する。カオスはコスモスの外に存在しており、コスモスと違って無数の次元を有し、常に変化している。カオスの領域は11の闇の神によって統治されており、その神々の中で最上位の存在がサタンであって、史上知られている全ての神々はより高位の存在が顕現したものである。この行為の存在はAzerate、龍の母であり、11の闇の神が1つに統合された存在である。そしてAzerateはいつの日にか復活してコスモスを破壊し、カオスを破壊させるのだとTotBLでは信じられている。TotBLはスウェーデンのブラックメタル/デスメタルバンドのディセクションと、特にそのフロントマンのジョン・ノトヴェイトと結びついてきた。ノトヴェイトは「早い段階で」TotBLに参加した。ディセクションのサードアルバム『Reinkaos』の歌詞は専らTotBLの教説を扱ったものであった。そしてノトヴェイトは2006年に自殺した。 かつてのChildren of the Black Roseのような有神論的ルシフェリアンのグループはとりわけルシファーにインスパイアされているが、ルシファーはサタンと同一視されることもされないこともある。 実際には「曙の子」、「ルシファー」その他の名前を単一の霊的存在よりもむしろバビロニア王などの当時の政治的人物を指すのに用いられたと考える神学者もいる(し、聖書の記述は表面上は明らかにティルス王を指している)が、この名前がサタンを指していると信じる者はサタンの堕落にもそれを適用する。Joy of Satanはサタンが天使のような姿で現れると信じている; また、サタンはノルド人の神々のリーダーであると信じている; さらに、サタンは古代のシュメール人の神エンキ/エアであるとも信じている; 加えて、サタンはヤズィーディーの大天使マラク・ターウースでもあると信じている。The Church of the EldersはJoy of Satanの神学を借用してサタンはエンキに基づいていると信じるが、この存在をサタンと呼ぶことは拒否してエンキと呼ぶ。これはセトの寺院がサタンはセトに基づいていると信じるがこれをサタンと呼ぶよりもむしろセトと呼ぶのに酷似している。The Cathedral of the Black Goatはサタンとルシファーは同一の存在であり、それぞれの名前が彼の光の側面と闇の側面を表すと信じている。 セトの寺院によるセト崇敬を有神論的サタニズムと同一視する著述家もいる。しかし、セトの寺院は有神論的サタニストを標榜していない。彼らはエジプトの神セトこそがサタンの名に隠れた真の闇の主であり、サタンとはセトを戯画化したものにすぎないと彼らは信じているのである。彼らは自己発展を中心に据えた実践を行っている。セトの寺院において、「黒い炎」とは個々人の神的な中核であってセトと類縁関係にある霊魂であり、彼らはこの黒い炎を発展させることを目指す。有神論的サタニズムにおいては黒い炎とはサタニストから独立した存在であるサタンから人類に与えられる知識のことであり 、サタンは知識を求めるサタニストにこの黒い炎を分け与えることができる。 サタニストの信仰の多様性やいくらかのサタニストの有神論的性質が1995年の調査で示されている。サタンを探求・崇拝する人にとって危険なものではなく友人のように付き合えるものとみなせると言う者もいる。サタンを「父」と呼ぶ者もいるが、他の有神論的サタニストの中にはそう呼ぶのは混乱を招くとか卑屈すぎるとかと言って批判する者もいる。しかし聖書John 8:44においてサタンは追随者から「父」と呼ばれ、悪人は1 John 3:10で「悪魔の子たち」と呼ばれている。またサタンはジョン・ミルトンの『失楽園』で娘である罪の父親として描かれている。 有神論的サタニズムは単なる一時的な暇つぶしとしての魔術儀式に基づいたオカルトの実践というよりもむしろ宗教的コミットメントを伴っている場合がしばしばある。有神論的サタニズムの実践者は自己を捧げる儀式を行うことを選ぶことがあるが、そうした儀式は有神論的サタニストとなってすぐ行うべきかそれともある程度研鑽をつんでから行うべきかは議論の対象となっている。
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