暴行
★1a.処女が自分の純潔を犠牲にして、肉親の敵(かたき)である男を暴行犯に仕立て上げる。
『エンマ・ツンツ』(ボルヘス) 18歳の女工エンマ・ツンツは、無実の父を横領罪に陥れた工場主レーヴェンタールに、復讐しようと考える。エンマは街へ出、行きずりの男と関係して処女を捨て、その足で工場2階のレーヴェンタールの部屋へ行く。彼女はレーヴェンタールを射殺し、警察に「レーヴェンタールさんが私を呼びつけて、辱めました。私は彼を殺しました」と電話する。
『霧の旗』(松本清張) 柳田桐子の兄は、無実の罪で逮捕され獄死した。高名な大塚弁護士が弁護を引き受けてくれなかっために兄は死んだ、と桐子は考える(*→〔金貸し〕2b)。彼女は、夜、大塚を自分のアパートへ呼び寄せ、酔わせ誘惑して関係を結び、処女を捨てる。その後で桐子は、検事あてに「私は大塚弁護士に暴行され、穢(けが)されました」との手紙を書く。大塚は弁護士の職を辞さねばならなくなる。
『マドモアゼル』(リチャードソン) フランスの片田舎。マドモアゼルと呼ばれる独身女教師が、村人の家や納屋に放火し、家畜を毒殺する。村人たちは、イタリア人の木こりマヌーを犯人と見なす。マドモアゼルはマヌーのたくましい肉体に魅(ひ)かれ、彼と森で関係を持つ。朝、乱れた服装で歩いているマドモアゼルを見て、村人たちは「マヌーに暴行されたのだ」と思う。大勢の村人たちがマヌーを取囲み、撲殺する。
『野性の証明』(森村誠一) 越智朋子は暴走族によって輪姦され、さらに茄子(なす)で陵辱されて、殺された〔*彼女の恋人・味沢岳史は、暴走族のリーダーをつかまえて、生の茄子を無理やりいくつも食べさせた。その時、もと自衛隊秘密部隊の工作員だった味沢に野性がよみがえり、彼は斧をふるって大勢の暴走族たちを殺傷した〕。
『アラバマ物語』(マリガン) 1930年代のアラバマ州。白人の農夫ボブが「私の娘メイエラが、黒人トムに強姦された」と訴え出る。実際は、メイエラがトムを誘惑し、トムは誘惑を退けて逃げたのだった。白人弁護士アティカスが裁判でトムの無実を立証するが、陪審員たちはトムを有罪とした。アティカスは「控訴すれば、勝つ可能性が高い」とトムを励ます。しかしトムは移送中に脱走し、射殺された。
『乾燥の九月』(フォークナー) 南部の町ジェファソン。白人女性ミニーが黒人のウィルに強姦された、との噂が広がる。それは事実ではなく、40歳近くまでずっと独身だったミニーの、欲求不満に起因する妄想だった。しかし、町の人々は白人の言葉を信じ、黒人の言葉は信じなかった。9月の夜。白人の男たち数人が、「殺してしまえ」と叫んでウィルを襲った。
『死と処女(おとめ)』(ポランスキー) 女子学生ポーリナは、反政府運動をしていて逮捕された。彼女は身体の自由を奪われ、目隠しをされて、シューベルトの『死と処女』が流れる中で、1人の男から繰り返し陵辱された。やがて彼女は解放され、心に深い傷を残して結婚し、10数年がたつ。ある夜、帰宅途中の夫の車が故障し、親切な男が彼の車に乗せて夫を家まで送ってくれた。ポーリナはその男の声を聞いて、それが、かつて彼女を犯した男であることに気づく。ポーリナは男に拳銃をつきつけ、男の過去の悪行を白状させる。
*声を聞いて、強盗殺人犯であることを知る→〔声〕9aの『声』(松本清張)。
★5a.夫の目の前で、妻が悪人に暴行される。その後の妻の言葉。
『今昔物語集』巻29-23 夫が妻を馬に乗せて、京から丹波まで旅をする。途中、大江山で出会った若い男が弓で夫を脅し、木に縛りつける。男は、夫が見ている前で妻を犯し、馬を奪って逃げ去る。その後に妻が夫の縄を解くと、夫は呆然自失の状態だった。妻は夫に向かって、「貴方は本当に頼りない人だ。そのような御心では、今後もろくなことはないだろう」と言う。夫は無言のまま、妻とともに徒歩で丹波へ向かう。
★5b.『今昔物語集』巻29-23にもとづく『藪の中』(芥川龍之介)では、若い男(盗賊多襄丸)、夫(金沢武弘)、妻(真砂)の言い分が食い違う。
『藪の中』(芥川龍之介) 盗賊多襄丸「私は金沢武弘の目の前で、その妻・真砂を犯した。真砂は泣き叫んで、『2人の男に恥を見せるのは、死ぬよりつらい。あなたか夫か、どちらか1人死んでくれ。生き残った男に私は連れ添いたい』と言った」。真砂「私は夫に『一緒に死んで下さい』と言った」。死霊となった金沢武弘「妻は多襄丸に『あなたについて行くから、夫を殺して下さい』と言った」。
★5c.『藪の中』(芥川龍之介)にもとづく『羅生門』(黒澤明)では、事件を目撃した木こりが最後に「真相」を語る。
『羅生門』(黒澤明) 多襄丸は真砂を犯した後、「俺の妻になってくれ」と請う。真砂は、多襄丸を夫と闘わせ、勝った男のものになろうと考える。夫は「俺はこんな女のために命をかけるのは御免だ」と多襄丸に言い、「2人の男に恥を見せて、なぜ自害せぬ」と真砂を詰(なじ)る。多襄丸も醒めた心になり、真砂を見捨てて去ろうとする。真砂は2人の男を「腰抜け」と罵り、大声で嘲笑う。夫と多襄丸は斬り合い、多襄丸が勝つ。しかし真砂は逃げてしまう〔*だが、これもどこまで本当かわからない〕。
『暗夜行路』(志賀直哉) 時任謙作は直子と結婚して、京都に住む。謙作が10日ほど留守にしている間に、直子の従兄である要(かなめ)が訪ねて来て、2階の一室で直子は要に犯された。帰宅した謙作は、直子の様子が変なので問い詰め、その事実を知る。謙作はなかなか直子を許すことができず、精神の修養をしようと考えて、直子と別居し、伯耆・大山の寺にこもる。
『人間失格』(太宰治)「第三の手記」 「自分(大庭葉蔵)」は、煙草屋の娘ヨシ子を内縁の妻として、木造2階建てアパートの1階に住んだ。夏の夜、「自分」と友人の堀木がアパートの屋上で酒を飲んでいる時に、ヨシ子は自室で、出入りの商人に犯された。「自分」は階段からそのありさまを見て、立ちすくんだ。年の暮れ、「自分」は催眠剤を致死量飲んだが、死ねなかった。
『黒地の絵』(松本清張) 朝鮮戦争中の昭和25年(1950)7月11日。小倉の祇園祭の夜。進駐軍の黒人兵250人が兵営から脱走し、市中に散らばった。前野留吉の、6畳と4畳半だけの狭い家に、6名の黒人兵が押し入って、妻芳子を輪姦した。このことによって、前野夫婦は離婚した。黒人兵の1人は、盛り上がった黒い胸に、赤い色で描かれた女陰の刺青をしていた→〔性器(女)〕4。
★7.暴行された人妻が、そのことを夫に知られたくないと思う。
『雨の訪問者』(クレマン) 1人で留守番する若妻メリーが、侵入して来た男に殴られ、気絶している間に犯される。意識を取り戻したメリーは警察に電話するが、夫が夜帰って来ることを考え、何も言わずに電話を切る。男がまだ家の中に隠れていたので、メリーは「誰にも言わないから、出て行って」と訴える。男がメリーを脅すようなそぶりをしたため、彼女は銃で男を撃ち殺し、死体を海へ捨てる。メリーは何事もなかったかのように、夫を出迎える。
『リップスティック』(ジョンソン) トップ・モデルのクリスは、妹キャシーの音楽教師スチュアートによって、強姦された。クリスは裁判を起こすが、女性検事から「暴行犯で有罪になるのは百人のうち2人だ」と聞かされる。その言葉どおりスチュアートは無罪になり、彼は悪びれることなくキャシーをも犯してしまう。クリスは「法律ではスチュアートを裁けない」と考え、ライフル銃で彼を射殺する。法廷はクリスの行動に理解を示し、彼女を無罪とした。
*妻と娘を暴行された男の復讐→〔仇討ち〕5cの『狼よさらば』(ウィナー)。
『モンテ・クリスト伯』(デュマ)33 ローマの旅宿の亭主が語る山賊の物語。「山賊の首領が、少女をさらって来て犯した。その後は手下たちがくじ引きをして、順番に少女を陵辱する、というのがならわしだった。ところがその少女は、山賊の一員カルリニの恋人だった。彼は、首領が少女を犯したことを知ると、ただちに少女を刺殺した。父親が身代金を持って少女を取り戻しに来たので、カルリニは『お嬢さんが大勢のなぐさみものにならないうちに殺しました』と言う。父親はカルリニに感謝の言葉を述べ、首を吊って死んだ」。
『ギリシア神話』(アポロドロス)摘要第5章 ギリシア軍がトロイア城内へ攻め入った時、ロクリスのアイアス(=小アイアス)は、祭壇でアテナの木像にすがるカサンドラを見て、彼女を犯した。この木像が空の方を向いているのは、このためだと言われる。
*暴行されている現場を、暴行犯以外の別の男からも見られるというのは、女性にとって最大の辱めであろう→〔盲目〕3cの『月澹荘綺譚』(三島由紀夫)。
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