新幹線中止・道路単独架橋問題
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「大鳴門橋」の記事における「新幹線中止・道路単独架橋問題」の解説
1978年(昭和53年)3月9日に建設・運輸・国土3省庁は、大鳴門橋の道路単独橋への変更を固め、4月に鉄道建設審議会にて本四淡路線を削除することとした。「国鉄財政が悪化しているのに、開通の見込みの立たない鉄道を併設するのはおかしい」との異論が以前から政府部内にあったものである。 山地進運輸省鉄道監督局国有鉄道部長は、1978年(昭和53年)3月28日 参議院建設委員会で「四国新幹線、いまの大阪から大分に至る新幹線というのがいつできるかということについては非常に見通すことがむずかしい問題の一つになってきております。いま整備五線というすでに整備計画のできているものについても、一体これは財源問題も含めましてどういうことになっていくのかということで議論されているわけでございますが、その他の計画路線についてはさらに時間がかかる問題だろうと思うわけでございます。 こういうことを考えてみると、一体その併用部分の金というもの、まあ六百億ぐらいの負担を国鉄がせざるを得ないわけでございますが、これが四国新幹線ができない間、まさに何らの効果も生まないままに置くということは金利が毎年積み重なってまいりますので、これは国鉄、それから本四公団についても大変な圧迫要因になる。こういうことを考えまして、一体この併用橋というものについてもう一回見直すべきじゃないだろうかという議論をわれわれの方でいたしまして、今後も本四における鉄道部分というのは、新幹線で行くにしても併用橋であることが必要なのかどうかということで、とりあえず私どもとしては、単独橋の考え方というものは一体いままでの経緯から見て認められるものかどうか、かような観点で国土庁並びに建設省といろいろお話をしているというのが現状でございます。」と答弁している。 一方、住田正二運輸省鉄道管理局長は「新幹線の併用橋を造るには、全部の新幹線計画が決まらなければならない。大鳴門橋はともかく世界最長のつり橋になる明石海峡大橋に新幹線を乗せることは、騒音対策も含め、技術的に極めて困難だ。それに新幹線はいつできるかわからない。21世紀までむずかしいという見方もある。併用橋にすると赤字の国鉄が約4割の費用を負担し、利子だけでも大変。21世紀まで通らないなら、そのときに別にトンネルを掘った方が安くつく」と説明している。 「徳島県では当初、運輸省のこんな計画変更案に対し「やむをえない」との空気が支配的だった。武市恭信同県知事も3月の県議会で「早期完成が最優先」と弱気の答弁をしたほどだ。あまり新幹線にこだわって、橋そのものの完成が遅れたのではもとも子もなくなる、との心配も手伝って、橋の運命は「単独橋」に決まったかに見えた。」と四国関係者も道路単独橋で合意するところであった。 これに対して地元徳島県選出の三木武夫元首相が反発し、道路単独橋阻止に動いた。鉄道建設審議会会長であった中曽根康弘や淡路島等を地盤とする原健三郎(中曽根派)等へ働きかけるとともに、自民党総裁選での三木派による中曽根支援の動きもあった。 「政治家は地元への利益誘導を慎むべき」としている三木氏のこんなハッスルぶりに地元は喜んだりびっくりしたり、と異例の行動であったことを報じている。 この三木の動きに対しても、「運輸省は「三木さんは併用橋を造っておけば、将来、新幹線を引く”人質”になる、とお考えのようですが、たとえ併用橋になっても人質にはなりませんよ。本土―四国間の新幹線計画は神戸―鳴門ルートのほかに、岡山―坂出―高松―高知ルートの計画もあります」と冷ややかだ。」としている。結果的に運輸省当局の思惑のとおり大鳴門橋は”人質”にはならず、明石海峡大橋は道路単独橋となった。 1978年(昭和53年)12月12日に自民党国鉄基本問題調査会は、大鳴門橋は「新幹線にこだわることなく、工事を促進する」ことを決め大平正芳首相、高木文雄国鉄総裁等に道路単独での架橋を申し入れた。その際「巨額の赤字を抱えた国鉄の財政再建の面から、新幹線の建設は無理と運輸省、国鉄が反対しているため、併用橋を主張する建設省と対立」と報じており、国鉄も財政面から大鳴門橋への新幹線敷設に反対していたことがわかる。 1979年(昭和54年)1月に「総工費に対する道路負担部分を増やし新幹線建設費も極力切り詰めて併用橋とすることで、建設省と運輸省間で合意した。」「なお、新幹線は「単線載荷方式」とすることとし、複線にはするものの、上下線の電車がいっしょに通らないように配慮し、工事費を切り詰めることとした。」 「道路」1985年(昭和60年)6月号に掲載された対談「大鳴門橋の建設を振り返って」において、松崎彬麿は「結局は載せる、鉄道の火は消さない。ただ、複線載荷を単線でいこう、かつ、鉄道を載せるために将来でもできる仕事は、今回は極力やるまい、鉄道を載せるための手当ては最小限のことしかやっておくまい」と述べている。また、「将来新幹線を通す際には補剛桁の主構トラス下弦材を取り換え、鉄道縦桁を新たに設置する必要がある」とあるように実際に鉄道を敷設するには相当ハードルが高いのが実情である。 本州四国連絡橋公団総裁であった山根孟は、神戸-鳴門ルートの鉄道についての「経営上はどうですか。」との問いに対して「備讃線でもう精一杯ではないでしょうか。備讃線でさえ止めようと話が出たくらいですから。」と答えている。 本四淡路線の鉄道施設の建設に要した費用は、長期借入金に係るものとしての債務総額約60億2700万円、本州四国連絡橋債券に係るものとしての債務総額232億3700万円の合計、約292億6400万円となっている。この他鉄道側の維持管理費として毎年度の橋体共用部分維持管理費の4.5%分を鉄道側が負担している。これらは本来は国鉄が負担するべきものであったが、国鉄民営化に伴い、日本国有鉄道清算事業団(日本鉄道建設公団)が債務を負担することとなった。 これらの鉄道に係る費用について運輸省の外郭団体が編纂した「日本国有鉄道民営化に至る15年」では、「大鳴門橋については現状では全くの埋没費用となっており、投資決定の責任の所在が問われるべき」としている。 本四淡路線の鉄道施設は、日本高速道路保有・債務返済機構法第12条第2項に基づき、本州四国連絡橋公団より建設途中にある鉄道資産(建設仮勘定)として日本高速道路保有・債務返済機構が承継し、33,107,794,306円が建設仮勘定に計上された。しかし、「昭和60年以来建設が20年余にわたり中断されている状況を鑑み、当初の基本計画から完成が著しく滞っていると認められたため、減損の兆候を認めました。さらに、現状においてこの状況が大きく変わる状況に無いことから、減損を認識することとし、帳簿価額を備忘価額まで減額しております。」とされ、現在の簿価は1円となっている。一方、国土交通省は大鳴門橋の維持管理に係る経費のうち鉄道負担分に対し、年間34百万円(2017年(平成29年)実績)を税金で負担している。
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