学術におけるキャリア
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「ダグラス・ホフスタッター」の記事における「学術におけるキャリア」の解説
1988年よりインディアナ大学ブルーミントン校の芸術科学部で認知科学と比較文学の特別教授を務めている。概念と認知に関する研究センター(Center for Research on Concepts and Cognition)を指揮し、流動的類推研究グループ(Fluid Analogies Research Group, FARG)を形成している。 1977年にインディアナ大学の計算機科学部に着任し、精神機能のコンピュータモデリングの研究プログラム(彼はこれを「人工知能の研究」と称していたが、現在は「認知科学の研究」と称している)を開始した。1984年にミシガン大学に移籍して心理学の教授となった。1988年にインディアナ大学ブルーミントン校に戻り、認知科学と計算機科学の両方を担当する"College of Arts and Sciences Professor"に就任した。また、科学史・科学哲学、哲学、比較文学、心理学の非常勤教授にも任命されたが、これらの学科との関わりは名目的なものであると自身は述べている。1988年、懐疑主義的研究委員会の最高栄誉である"In Praise of Reason"賞を受賞した。2009年4月にアメリカ芸術科学アカデミーのフェローとアメリカ哲学協会の会員に、2010年にウプサラのスウェーデン王立科学協会の会員に選出された。 ミシガン大学とインディアナ大学では、メラニー・ミッチェル(英語版)と共同で「高水準の知覚」の計算モデル「Copycat(英語版)」を開発したり、ロバート・M・フレンチ(英語版)と共同で「Tabletop」プロジェクトを開発するなど、類推形成や認知に関するいくつかのモデルを発表している。ホフスタッターの博士課程指導学生であるジェームズ・マーシャルは、Copycatを拡張したMetacatを開発している。「レター・スピリット」プロジェクトは、スタイル的に統一された「グリッドフォント」(グリッドに限定された書体)をデザインすることで、芸術的創造性をモデル化することを目的としたもので、ゲイリー・マグロウとジョン・レーリングにより実装された。最近のモデルとしては、ボンガード問題(英語版)と数列のミクロ領域における高度な知覚と類推をそれぞれモデル化した「Phaeaco」(実装:Harry Foundalis)や「SeqSee」(実装:Abhijit Mahabal)、三角形の幾何学における知覚と発見のプロセスをモデル化した「George」(実装:Francisco Lara-Dammer)などがある。 ホフスタッターは、仕事の内外を問わず、美の追求をしてきた。美しい数学的パターン、美しい説明、美しい書体、詩の中の美しい音のパターンなどを求めている。ホフスタッターは自分のことを「私は文系と芸術の世界に片足を突っ込み、科学の世界にもう片足を突っ込んでいる人間だ」と言っている。彼は、大学のギャラリーで何度か作品展を開催している。そこでは、自身のグリッドフォント、アンビグラム、ワーリー・アート(インドのさまざまなアルファベットを基にした形を使った、音楽にインスパイアされた視覚的パターン)などを展示している。「アンビグラム」という言葉は1984年にホフスタッターが考案したもので、その後多くのアンビグラム研究者がこの概念を取り入れている。 ホフスタッターは、認知的誤り(主に言い間違い(英語版))、ボンモット(ユーモアのある警句、名文句)、様々な類推を収集・研究し、これらの多様な認知の産物を長年にわたって観察しており、その背景にあるメカニズムについての理論は、彼とFARGのメンバーが開発した計算モデルのアーキテクチャに強い影響を与えている。 全てのFARGの計算モデルには、以下のような重要な原則がある。 人間の思考は、何千もの独立した小さな行動が並行して行われ、現在活性化している概念に偏っていること 活性化された概念から、活性化されていない「隣の概念」へと活性化が広がっていくこと 並行して行われる活動のランダム性の度合いを調整する「精神的な温度」があること 有望な道は、そうでない道よりも早く探索される傾向があること また、FARGモデルには、「全ての認知は類推から構築される」という包括的な哲学がある。これらの概念を共有する計算機アーキテクチャは、「アクティブ・シンボル」アーキテクチャと呼ばれている。 ホフスタッターは、意識は脳内の低レベルの活動が生み出したものであるという説を唱えている。これは『ゲーデル、エッシャー、バッハ』(GEB)で初めて表明し、その後の著書にも示されている。GEBでは、アリのコロニーの社会的組織と、ニューロンのまとまったコロニーとしての心とを比較している。ホフスタッターは、我々が自我を持っている(私が「私」である)という感覚は、彼が「不思議の環」と呼ぶ抽象的なパターンに由来すると主張している。これは、音や映像のフィードバックのような具体的な現象と抽象的には類似したものであり、ホフスタッターは「レベルクロス・フィードバック・ループ」と定義している。ゲーデルの不完全性定理の核心である自己言及的な構造は、不思議の環の典型的な例である。2007年に出版された『わたしは不思議の環』では、ホフスタッターの意識に関するビジョンをさらに推し進め、人間が感じる「私」は、1つの脳に限定されるのではなく、多数の脳に分散しているとしている。 ホフスタッターの著作は、形式と内容の間の強い相互作用によって特徴付けられる。例えば、GEBの20の対話は、その多くがカノンやフーガといったバッハが用いた厳格な音楽形式を議論しつつ、文章の形式がそれを模倣している。また、GEBでは対話と章、『マインズ・アイ』では選集と考察、『メタマジック・ゲーム』では章と後書きといったように、ホフスタッターの著書の多くは、何らかの構造的な変化を特徴としている。ホフスタッターは、著書でも教育でも、常に例や類推を用いて具体性を強調し、抽象的な表現を避けている。代表的なものに「群論とガロア理論の視覚化」というセミナーがあるが、これは抽象的な数学的アイデアをできるだけ具体的に表現したものである。また、学生が理解できないのは、決して学生のせいではなく、常に自分のせいであると主張している。 ホフスタッターは言語に情熱を注いでいる。母語である英語に加えて、フランス語とイタリア語を流暢に話す。家で子供と話す言語はイタリア語である。"Le Ton beau de Marot: In Praise of the Music of Language"は、言語と翻訳、特に詩の翻訳について書かれた長編の本である。この本の中で、ホフスタッターは自分のことを「パイリンガル」(pilingual)(π=3.14159...個の言語に精通しているという意味)と冗談めかして表現し、また、「オリゴグロット」(oligoglot)(oligo は「少数」、glotは「言語に通じている」の意で、「いくつかの言語に通じている」の意)であるともしている。
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