地上波デジタルテレビにおけるスピルオーバー潰しと課題
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/15 00:14 UTC 版)
「スピルオーバー」の記事における「地上波デジタルテレビにおけるスピルオーバー潰しと課題」の解説
地上デジタル放送ではスピルオーバーへの技術的制御、すなわち「スピルオーバー潰し」が容易となる。特に地上デジタルのチャンネルプランではスピルオーバー受信(特に地元に系列のない局)しにくいチャンネルプランとなっているケースが多い(具体例として中国放送 (RCC)広島親局とテレビせとうち (TSC)岡山親局が両方18ch、静岡県・山梨県と東京キー局、新潟テレビ21 (UX)新潟親局とテレビ東京 (TX)東京親局が両方23chなどがある)。具体的手法として同一チャンネル(例: 山梨甲府送信所)や指向性(例:静岡牛山送信所)、方向毎の出力制御(例: テレビ神奈川 (tvk)の鶴見送信所)などがある。しかしながら、以下の諸問題により、今後の対応(周波数リパッキング、地理的ホワイトスペース)が注目される。 スピルオーバー状態で視聴する現行放送視聴者を如何に納得させるか。人口の少なさ故に民放の数が少ない地域では、スピルオーバー潰しは地域格差による不便な生活をさらに助長する形になる。 都市部のテレビ局では放送されても地方では放送されにくい番組ジャンルがある(深夜アニメはその一例として知られる)。スピルオーバー潰しにより、各系列のテレビ局が地元にあるのにこうした番組が財政的理由などで放送されない場合の視聴者の不利益が拡大する。 瀬戸内海地方、特にその島嶼部においてはスピルオーバーによる受信以外出来ない地域が存在している。スピルオーバー潰しが行われると、(少なくとも一般家庭で導入できる価格帯のアンテナとほぼ全ての携帯電話・カーナビでは)その地域では地上波のテレビ放送が一切受信出来なくなる。 民放1局地域(徳島県・佐賀県)の視聴者を如何に納得させるか。 ただし徳島県・佐賀県は民放連では特例地域として位置づけられており、基幹放送普及計画で最低と定められている民間放送4系列 (JNN/NNN/FNN/ANN)のうち地元に系列がない局の区域外再放送が認められている(TXN系列局や独立局などそれ以外はCATV側とテレビ局次第)。また、チャンネルプランにおいても特別に受信出来る配置になっている。 スピルオーバー潰しを徹底すると中継局数が増えることがあるので、放送局にとって中継局置局費用がかさむことになる。一方、スピルオーバーを大目に認めると中継局数は少なくて済むため中継局置局費用を抑えられる。そのため、費用の面で各放送局の経営事情と絡むことになる。 また、以下のように総務省や地域民放が意図しない副作用も多発している。 スピルオーバー潰しによる混信や、スピルオーバー抑制のための送信所の出力抑制の影響により、山間部・島嶼部はもとより市街地であってもワンセグが映らない場所がある。また、防災上、特に避難所などは屋内でもワンセグが映って然るべきであり、停電時の情報収集の観点からは各家庭の屋内でもワンセグが映ることが望ましいが、屋内でワンセグが映るほど電波が強い場所はかなり限られている。現在ではラジオを所有する家庭は減少しており、また、FMラジオを搭載した小型ミュージックプレイヤーは多い一方、ワンセグは受信できてもラジオを受信できない携帯電話・スマートフォンは多数を占める(日本国内向けではない機種は除く)。なおかつ、避難するときに携帯電話は持ってくることが多いが予備のFMラジオ受信機としても使える事が多いMP3プレイヤーは盲点になりやすいので、避難の道中や避難所でラジオを利用できない人は多くを占める。このため、送信所の出力抑制とスピルオーバー潰しはワンセグのメリットの一つである、ラジオを所有していない家庭・個人が増える現状において、停電時や、災害発生時の避難の道中や避難所における情報収集の手段としての可能性を台無しにするので、防災・減災・国防上好ましくない。 スピルオーバー潰しや送信所の出力抑制の結果、地上デジタルへの移行や引っ越しに際し、少し地形や周りの建物の条件が悪いだけなのに、地元(区域内)のテレビ局を普通に視聴する、ただそれだけのために、パラスタックアンテナなどの高価なアンテナを買うことを余儀なくされたり、固定経費のかかるケーブルテレビへの加入を余儀なくされる事例(例えば奈良県南部の大半)、送信所設置を代行した自治体から数万円に及ぶ自己負担を求められる事例が見られる。 スピルオーバー潰しのための送信所増設や、最小限の出力の送信所を多数設置することに資金を費やした結果、本業であるTV番組の制作が疎かになり、番組の質を低下させる一因となっている可能性がある。また、スピルオーバー潰しの内実が、アマチュア無線の延長としての受信実験やベリカード収集、あるいはテレビの遠距離視聴を趣味とする人々により問題提議され、周知の事実となった結果、テレビ局のブランドイメージが低下していく懸念もある。 ネット上で販売されているGoogle TVの「類似品」には、インターネットを介して日本の放送局を(区域外)オンライン受信する「裏」機能を持つ代物が存在するが、スピルオーバー潰しは、総務省や放送局の意図に反して、こうした闇市的な製品の販売を助長する結果を招いて結果的に地方局をさらなる窮地に追いやるおそれがある。また、ネット上にもアフィリエイト収入を目当てとした闇市的な区域外ストリーミング再配信を行うウェブサイトが日本国外に存在し、同様にアクセス数増大を助長してしまっているおそれがある。 スピルオーバー潰しにより、地元局が混信して受信が困難になる場合もある。具体的事例として以下の4つが有名である。阿波中継局のNHK徳島総合の26ch/四国放送テレビの22chとサンテレビ親局の26ch/NHK神戸総合の22ch(阿波中継局が2012年7月2日に29chおよび33chへ変更したため混信は解消済み)。 姫路テレビ・FM中継局の朝日放送の15ch、関西テレビの17chと前田山送信所の西日本放送の15ch、瀬戸内海放送の17ch。 栃原テレビ中継局のNHK奈良総合の26chとサンテレビの26ch(栃原テレビ中継局が2012年2月に52chへ変更したため混信は解消済み)。 水戸テレビ放送所の日本テレビの14ch、NHK水戸総合の20chとTOKYO MX親局のアナログ14ch・デジタル20ch(日本テレビの14chは2011年7月24日のTOKYO MXアナログ停波で既に解消済み。NHK水戸総合の20chはTOKYO MXが東京スカイツリー移転時に16chに変更となり、また東京タワーからのTOKYO MXの送信が2013年5月12日に完全停波されたのを以って混信が解消されたことにより、茨城県内では受信出来る範囲が若干広がった(特に県南・県西地域))。
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