再びインディペンデントへ: 2009–
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「アラン・ムーア」の記事における「再びインディペンデントへ: 2009–」の解説
DCの作品内容への干渉や、自身の望まない形で作品を利用したことへの不満から、ムーアは再びメインストリーム・コミック界と絶縁することを決めた。2005年にはコミックというメディアは愛している。コミック業界は大体において反吐が出る。あと15か月もすれば、たぶんメインストリームの商業的コミックとは縁が切れているだろうと語っている。ムーアはワイルドストーム社でABCを設立するとき、共作者が手にする金額が多くなるように、多少の原稿料上乗せと引き換えに大半の作品の著作権を手放していた。ムーアはジム・リーを信頼して自作を預けたのだが、その後の買収劇により、再びそれらをDCに取得される成り行きになった。 ABC作品でムーアが書き続けたのは「リーグ」だけだった。トップシェルフとノックアバウト(英語版)の共同出版で第3作 『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン: センチュリー(英語版)』(2009–2010年)とスピンオフ The League of Extraordinary Gentlemen: Nemo Trilogy(→ネモ三部作)(2013–2015年)が書かれた。第4作 The League of Extraordinary Gentlemen, Volume IV: The Tempest(→テンペスト)(2018–2019年)がシリーズ最終作となった。当初はスーパーヒーロー・コミックの変種かスチームパンク活劇として始まった「リーグ」だが、巻が進むにつれて芸術と現実世界の関係を考察する私的な性格の作品になっていた。 複数のシリーズを並行して書いていたABC期はムーアのキャリアの中でも多産な時期だったが、2000年代半ば以降はコミックの執筆量が目に見えて減少した。ムーアの精力は小説執筆や神秘学関連のパフォーマンス公演のほか、マッドラブを復活させて2010年に発刊した21世紀最初のアングラ雑誌こと Dodgem Logic(→ドッジェム・ロジック)に注がれていた。同誌はノーサンプトンを含むミッドランド(英語版)地域に在住する作家・アーティストが中心となる隔月刊誌である。ムーアは同誌の編集思想について、「中央集権的な権威が力を失った今、個人主義的な文化をどう構築するか」「グローバル時代に地域をどうエンパワーするか」「来るべき企業主義文化の崩壊にどう対応するか」といった問題意識があると語っている。誌面では地域のコンサート情報や節約レシピの紹介と並んでゲリラ・ガーデニングやスクワッティングのような政治的行為のハウトゥ記事が載せられていた。売り上げは地域貢献に充てられた。同誌は8号が発行された後、売れ行き不振により2011年4月に廃刊された。 災害支援のためのチャリティ出版や、社会運動の資金調達のための出版物に政治的主張を込めた作品を寄稿することもあった。2001年、アメリカ同時多発テロ事件の翌月にマーベル・コミックスから刊行されたチャリティ・コミックブック Heroes には、歴史と人間性への認識を共有するよう訴える This is Information を書いた。2013年には『Vフォー・ヴェンデッタ』の影響を受けた反グローバリズム運動である占拠運動(英語版)(オキュパイ・ムーブメント)に賛同し、Kickstarterを通じて発行された『オキュパイ・コミックス(英語版)』にカウンターカルチャーとしてのコミック論を寄稿した。2018年、前年に起きたグレンフェル・タワー火災の被災者へのチャリティとして刊行されたコミック・アンソロジー 24 Panels(キーロン・ギレン編)に詩を書いた。ムーアの妻メリンダ・ゲビーがイラストレーションを提供した。 2000年代には初期作の再刊のほか、インタビュー集や評伝、作品研究などの出版が盛んになった。2010年5月にはノーサンプトン大学においてムーアを題材とする学際的な学術会議が開催された。 この時期、スプラッター・ホラーで知られるニッチな出版社アヴァター・プレス(英語版)がムーアの未発表原稿や詩、小説のコミック化を行った。世界幻想文学大賞にノミネートされた1980年代の小説作品 A Hypothetical Lizard(→仮想の蜥蜴)のコミック版(2004年)はその一つである。コミックへの翻案はムーア本人ではなくアントニー・ジョンストン(英語版)が行った。2012年には全10号のコミック Fashion Beast がアヴァターから刊行された(翻案ジョンストン、作画 Facundo Percio)。原作はムーアが1985年に書いた映画脚本で、音楽プロデューサーのマルコム・マクラーレンが取り組んでいた映画のために依頼されたものである。クリスチャン・ディオールの生涯をモデルにして異性装と『美女と野獣』を組み合わせたディストピアSFだったが、スポンサーの急逝によって映画製作は頓挫していた。 コミック原作者としての活動末期にはもっぱらホラー作品に注力した。アヴァターが出していた旧作のコミック化の中には、散文のクトゥルフ神話関連作を集めたアンソロジー Alan Moore's Yuggoth Cultures and Other Growths と、クトゥルフテーマの短編小説を原作とする「中庭(英語版)」全2号があった(いずれも2003年刊)。ムーアはこれらの作画を手掛けたジェイセン・バロウズ(英語版)と組み、コミックオリジナルのクトゥルフ作品第1号として『ネオノミコン』(2010–2011年)を出した。次いでその前日譚/続編として、H・P・ラヴクラフトの時代にさかのぼって事件の源泉を描く全12号のコミックシリーズ『プロビデンス(英語版)』(2015–2017年)がやはりバロウズの作画で刊行された。ジャクソン・エアーズはこれらの作品を… そこで描かれる暴力と荒廃感には、ムーアが考える現代文化の恐るべき実相が込められていると書き、ラヴクラフトのパルプ・フィクションからジャンル小説やコミックに受け継がれた人種差別性やセクシュアリティ観の系譜を批評的に描き出していると論じた。2016年4月からはアヴァターのホラー・アンソロジー誌 Cinema Purgatorio(→煉獄のシネマ)のキュレーションを務めはじめ、自身でもケヴィン・オニールと組んで同題の巻頭連載を寄稿した。主人公が悪夢のような映画館に座り、どこかねじれた古い映画を続けざまに見せられるという体の作品で、軽いパロディ連作のようだが、やはり娯楽産業におけるクリエイターの苦悩や、創作の意味についての考察が読み取れる。
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