中立的
中立的
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/29 14:20 UTC 版)
「最低賃金 (アメリカ)」の記事における「中立的」の解説
明日山陽子は論文「米国最低賃金引き上げをめぐる論争」 で「最低賃金制度の目的は、低賃金労働者に最低限の生活を保障しその生活水準を向上させることだといえるだろう」と認めつつも「最低賃金は貧困削減にはあまり有用なツールではないとみなされ、また、最低賃金だけでは、貧困線を下回るまたはぎりぎりの生活しか保障されない。あくまで、最低賃金制度は低賃金労働者の生活水準向上のツールの一つにしかすぎないといえる」と指摘している。 また明日山は、労働市場を需要独占的とみなす需要独占的(Monopsonic)モデルの場合は、最低賃金が適度に引き上げている限りは、雇用の減少は無く、むしろ増加させる場合があると論文で明記している。なお、「需要独占(Monopsony)」とは、市場に買い手が一人しか存在しない状況のことを指すが、需要独占的(Monopsonic)モデルはこの純粋な需要独占のケースに限らない。買い手(この場合、労働の買い手である企業)が多数市場に存在する場合でも、情報の不完全性を理由に、労働者に移動コスト(職探しのコスト)、雇用者に採用コストが発生すると、企業は純粋な需要独占の状況と同様、右上がりの労働の供給曲線に直面することになる。 経済学者のジョセフ・サビアは、最低賃金引き上げはオバマ大統領が考えているような貧困撲滅にはならないと指摘している。サビアは、最低賃金引き上げは高失業率の時期には特に未熟練労働者の雇用に大きな打撃を与えるとしており、「最低賃金引き上げに最適な時期などないが、経済的に不透明な時期や景気後退時は最悪である」と述べている。 スイスのチューリヒ大学が行った米国の最低賃金と小売価格に関する研究結果(2017年11月発表。2001 - 2012年の米国における166件の最低賃金上昇[地方自治体・全米]と41州に所在する食料品スーパー2,000店の商品価格への影響を調査) によると、最低賃金上昇により食料品や日用品など生活必需品価格が上昇し、最も圧迫を受けることになるのが最低賃金で働く労働者だという。研究結果の論文の8ページより、家計支出に占める生活必需品の支出比率は、平均11%で、最低所得層では14 - 15%、最高所得層では9%となり、世帯収入が低いほど比率が高くなる。 また一般的に、最低賃金の引き上げは、賃金格差縮小を目的として行われる。しかし、最低賃金の引き上げ前に、食料品店は値上げを行ってしまうため、最低賃金の引き上げによる恩恵は弱まってしまう。 議会予算局(Congressional BudgetOffice, CBO)が、2014年2月18日に発表したレポート「最低賃金引上げが雇用と家計収入に及ぼす影響」 は、かなり異なる調査結果を報告している。 CBO は、最低賃金の引上げは、多くの低賃金労働者の収入を増やし、彼らの家族を貧困ランから引き上げる一方で、一部の労働者にとっては雇用そのものが失われる結果をもたらすとする。 CBO による最低賃金引上げのシミュレーションでは、2つのオプションを想定しており、ひとつは、最低賃金を2016年までに3段階で10.10ドルまで引き上げ、その後、毎年インフレに連動させて調整する案(時給10.10ドルの場合)であり、もうひとつは、2016年までに2段階で9.00ドルに引き上げ、その後のインフレ調整は行わないとする案(時給9.00ドルの場合)である。CBO は、これら2つのオプションのそれぞれについて、以下のとおり最低賃金引上げの影響を予測している。 時給10.10ドルの場合 $10.10 オプションが完全に実行された場合、2016年において、約 50万人の規模で雇用の減少が見込まれる。ただし、最終的な影響の予測には幅があり、CBO は、雇用の減少幅がごく少人数から100万人までの間である可能性が約3分の 2であると評価する。 このオプションによる低賃金労働者の名目所得の増加は、CBO の試算によれば、トータルで 310億ドルとなるが、低賃金労働者の多くが必ずしも低収入の家庭に属しているわけではないため、これらの所得の増加のすべてが低収入の家計にもたらされるわけではない。CBOは、310億ドルの配分として、貧困ライン以下の家族の増加分が19%に過ぎないのに対し、貧困ラインの3倍以上の収入の家族の増加分が29%を占めると見積もっている。 さらに、最低賃金の引上げは、失業者に加えて経営者や物価の上昇の影響を受ける消費者の実質所得の減少を伴う。そのため、CBOは、全労働者の所得の増減を考慮に入れた結果、実質所得の増加は、全体として20億ドルであると見積もっている。 これらの結果として、時給10.10ドルのシナリオは、現行の最低賃金で貧困ライン以下の収入となる家族に対して、最終的に50億ドルの実質所得の増加をもたらし、およそ90万人を貧困ラインから上に引き上げる。一方で、貧困ラインの6倍以上の収入を得ている家族にとっては、最終的に170億ドルの実質所得の減少が見込まれるとする。 時給9.00ドルの場合 上記と同様の試算によれば、$9.00 オプションでは、約10万人の規模で雇用の減少が見込まれるが、ごく少人数の雇用の増加から20万人の減少までの間である可能性が3分の2であるとしている。また、貧困ライン以下の収入となる家族に対しては、最終的に10億ドルの実質所得の増加をもたらし、およそ30万人を貧困ラインから引き上げる一方で、貧困ラインの6倍以上の収入の家族にとっては、最終的に40億ドルの実質所得の減少となると見積もっている。 2019年7月にCBOは、2025年までに1時間あたり10ドル、12ドル、15ドルに上昇した場合の、3つの最低賃金額のシナリオで連邦最低賃金上昇の理論的効果を推定した。 15ドルのシナリオでは、2025年に130万~370万人の労働者が失業する可能性がある。また、貧困者の数は130万人減少するだけでなく、2019年時点で時給15ドル未満の労働者1,700万人と時給15ドルを上回っているが潜在的な影響を受ける1,030万人を合計した2730万人の労働者の収入が増収する(収入の増加による税金の影響がないと仮定した場合)。 更には、低収入世帯の所得が増加し、高収入世帯の所得が減少する為、所得格差が縮小するとしている。 そのため、このレポートでは、15ドル引き上げの影響として、 ①賃金の上昇は失業によって相殺されるが労働者の収入得を引上げる。 ②人件費の上昇は消費者に転嫁され、事業収入を低下させるとともに、価格が引上げられる。 ③雇用の減少と資本ストックが減少し、国内生産量を若干削減する。 と推測している。 CBOの見積もりにおける統計では、2018年基準の購買平価ドルに換算した場合、どのシナリオにおいても最低賃金額は、時間の経過ととももに上昇することが推測されている。CBOは、これらの推定値はインフレ率の上昇と同時に不確実であるため、貧困レベルの変化を推定する際にこれらの政策によるインフレの影響を考慮していないと述べている。加えて、CBOは、最低賃金引き上げに対する雇用の影響についても不可実性を伴う予測であることも述べた。 CBOによる3つのケースは以下の表となっている。 シナリオ時給10ドル時給12ドル時給15ドル賃金上昇が見込める最低賃金以下の労働者数(百万人) 1.5 5 17 賃金上昇が見込める最低賃金超えの労働者数(百万人) 2 6 10 週平均の雇用変化(百万人) -0.05 -0.3 - -0.8 -1.3 - -3.7 貧困者数の推移(百万) -0.05 -0.4 -1.3 実質年収の変動:貧困基準以下の家族(億ドル[2018年基準]) 0.4 2.3 7.7 実質年収の変化:貧困基準の1 - 3倍の世帯(億ドル[2018年基準]) 0.3 2.3 14.2 実質年収の変化:貧困基準の3 - 6倍の世帯(億ドル[2018年基準]) -0.05 -0.3 -2.1 実質年収の変化:貧困基準の6倍越えの世帯(億ドル[2018年基準]) -0.6 -5.1 -28.4 実質年収の変化:全世帯(億ドル[2018年基準]) -0.1 -0.8 -8.7 ジョー・バイデン大統領就任後の2021年2月8日に発表された議会予算局(Congressional BudgetOffice, CBO)のレポートによれば、2021年3月末に賃金引上げ法案「the Raise Wage Act(H.R.582, S.150)」が制定され、連邦最低賃金が2025年6月までに時給15ドルに引き上げた場合、以下の影響が表れると予想されている。 2025年には一部の企業が技術や自動化への投資を増やすことで、総雇用者数の約0.9%に当たる約140万人が解雇される一方、約90万人が貧困層から抜け出す試算となっている。この他にも、時給15ドルを下回る約1700万人の労働者に直接影響を受ける。 2021年から2031年にかけて、最低賃金引き上げの影響を受けた人々の累積賃金は約3,330億ドル増加(内訳 時給引き上げによる賃金上昇分:約5,090億ドル、雇用減少による賃金減少分:約1,750億ドル)し、それに伴い企業の人件費が増加する。 2021年から2031年にかけて、連邦政府の累積財政赤字が約540億ドル増加する。増加する理由は、賃金引き上げに伴うモノやサービスの価格上昇を起因とする政府歳出増や、職員の多くが時給15ドル未満で働いている介護施設や介護サービスの賃金引き上げによる公的医療保険「メディケア」と「メディケイド」を通じた医療費増加を挙げた。また、引き上げ法案が2025年になっても可決されない場合、それらの産業で働く約300万人の労働者が15ドル未満で働くことも予測されている。 最低賃金引き上げによるインフレと生活費の増加により失業給付が増加する一方、補助的栄養支援プログラム(通称フードスタンプ)は受給者数と平均給付額の両方が減少する。但し、政府歳出は総合的には増加する。
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