中心核の水素枯渇後
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 08:25 UTC 版)
ベテルギウスが赤色超巨星として過ごした期間は、質量放出率と観測された星周物質の比較、および表面の重元素の量から推定することが可能で、その期間は20,000 - 140,000年の範囲であると推定されている。ベテルギウスは短期間のうちに大量の質量放出を経験しており、また宇宙を急速に移動する逃走星であるため、現在の質量放出量とこれまでの総質量放出量を比較するのは困難である。ベテルギウスの表面は、窒素の増加、炭素の量が比較的少ないこと、そして炭素12に対する炭素13の割合が高いという特徴が示されており、これらは全てベテルギウスが最初の汲み上げ効果を経験した恒星であることを示している。しかし、最初の汲み上げ効果は恒星が赤色超巨星の段階に達した直後に起きるため、これはベテルギウスが少なくとも数千年に渡って赤色超巨星の状態にあることを意味するに過ぎない。最良の予測ではベテルギウスはすでに約4万年を赤色超巨星として過ごし、おそらく約100万年前に主系列星の段階を終えたとされている。 現在の質量は、進化モデルから初期質量とこれまでに失われた予想質量とによって推定できる。ベテルギウスの場合、失われた総質量は約1太陽質量以下であると予測されており、それに基づくと現在の質量は19.4 - 19.7太陽質量となり、これは先述の脈動特性や周縁減光モデルなどの他の手段で推定された質量値よりも大きい。 質量が約10太陽質量より大きい恒星は通常、中心核が崩壊して超新星爆発を引き起こすことによりその一生を終えると予想されている。最大で恒星が約15太陽質量の場合までは、II-P型超新星は必ず赤色超巨星の段階で引き起こされる。より大質量の恒星、特に自転していたり質量放出率がとりわけ高いモデルの場合、速く質量を失い、中心核が崩壊する前に表面が高温になれる可能性がある。これらの恒星は黄色超巨星または青色超巨星の段階からII-L型かIIb型の超新星、もしくはウォルフ・ライエ星の段階でIb型かIc型の超新星となる。自転する20太陽質量の恒星のモデルでは、青色超巨星の前駆天体からSN 1987Aに似た特異なII型超新星が引き起こされると予測されているが、一方で同質量で自転をしない恒星のモデルでは、赤色超巨星の前駆天体からII-P型超新星が引き起こされると予測されている。 ベテルギウスが爆発するまでの時間は、予測された初期条件と、赤色超巨星としてすでに費やされた期間の推定値に依存する。赤色超巨星段階の開始から中心核崩壊までにかかる時間は、自転する25太陽質量の恒星では約30万年、自転する20太陽質量の恒星では55万年、自転していない15太陽質量の恒星では最大100万年であるとされている。ベテルギウスが赤色超巨星になってからの推定時間を考えると、 ベテルギウスの余命の推定値は、自転しない20太陽質量の恒星モデルを採用した場合である10万年未満という「最良の推測」から、自転しているもしくは低質量星である場合を採用したさらに余命は長いとするモデルまで、長い範囲に及ぶ。 典型的なII-P型超新星は2×1046 Jのニュートリノを放出し、2×1044 Jもの運動エネルギーで爆発を発生させる。ベテルギウスがII-P型超新星となった場合、地球から見た超新星の明るさは最も明るいときで-8等級から-12等級の範囲のどこかになるだろうとされている。これは昼間であっても容易に観望できるほどの明るさで、満月の明るさまでは超えないが、それに近い明るさにまで達する。このタイプの超新星は、急速に減光するまでの2 - 3ヶ月間はほぼ一定の明るさを保つとされている。超新星の際に発せられた可視光線は主にコバルトの放射性崩壊によって生成され、超新星爆発によって放出された冷却されている水素の透明度が増加するため、その明るさが維持される。 2009年に発表されたベテルギウスの大きさが15%収縮しているという内容によって生じた誤解により、ベテルギウスはしばしば1年以内に超新星爆発を起こすといったオカルト系の噂や話題の題材で取り上げられることも多く、実際にベテルギウスで観測された出来事が誇張されて主張されてしまうことがある。こうした噂の流行や流行する時期には、天文学に対する誤解や特にマヤ暦において言い伝えられている世界の終末にまつわる予想に関連されていることが多い(2012年人類滅亡説など)。最近では、日本国内を中心に2020年3月20日にもベテルギウスが関連した終末論が囁かれた。こうした噂ではベテルギウスが起こしたガンマ線バースト(GRB)によって放射された有害な放射線が終末の要因として取り上げられることもあるが、実際にはベテルギウスがガンマ線バーストを起こす可能性は低く、また、放出された物質やX線、紫外線が地球に甚大な影響を与えるほどベテルギウスが地球に近い距離にあるわけでもない。2019年12月にベテルギウスの大きな減光が観測されると、様々な情報が科学メディアや大手メディアで取り上げられたが、中にはベテルギウスが超新星爆発を起こそうとしているかもしれないという憶測も含まれていた。アストロノミーやナショナルジオグラフィック、スミソニアンのようないくつかの科学雑誌は、ベテルギウスの大きな減光を興味深くて珍しい現象として取り上げている。ワシントン・ポストやABCニュース、ポピュラー・サイエンスなどの一部の大手メディアは、超新星爆発は今後起こりうるとしても今は起こりそうにないと報道しているが、他のメディアの中にはベテルギウスの超新星爆発の可能性を現実的に言及したものもあった。例えば、CNNは記事に「A giant red star is acting weird and scientists think it may be about to explode(巨大な赤い星が妙な動きをしており、科学者らはそれが爆発するかもしれないと考えている)」という見出しをつけており、ニューヨーク・ポストはベテルギウスの減光は「due for explosive supernova(超新星爆発によるもの)」と明言している。アメリカの天文学者フィリップ・プレイト(英語版)は、自身が「Bad Astronomy(悪い天文学)」と呼んでいるこのような話題を修正するために、この頃のベテルギウスの振る舞いは「珍しいながらも、前例のないことではない。そして、それ(減光を続ける異常な状態)はおそらく長くは続かないだろう」と述べている。 2020年に発表されたオーストラリア国立大学やカブリ数物連携宇宙研究機構などによる研究で、恒星進化や脈動の流体力学、星震の理論計算を用いてベテルギウスの明るさの変化を分析した結果、現在ベテルギウスはヘリウムによる核融合反応を起こしている段階にあると結論付けられた。超新星爆発を起こす要因になる鉄が中心核で生成されるようになるには炭素や酸素などのさらに重い元素による核融合反応の過程を経る必要があるため、それまで考えられていたほどベテルギウスはすぐには超新星爆発を起こさないと考えられ、超新星爆発を起こすのは10万年以上先になると予測されている。 超新星爆発を終えた後には中性子星かブラックホールのいずれかの小型で高密度な残骸天体が残される。ベテルギウスはブラックホールを残すほどの大きさの中心核を持たないため、残される残骸天体は1.5太陽質量ほどの質量を持った中性子星であると予測されている。
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