ハーモニカの構造と材質及びその分類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/29 07:21 UTC 版)
「ハーモニカ」の記事における「ハーモニカの構造と材質及びその分類」の解説
ハーモニカのリードは金属製で、一般的には合金である真鍮を主に使われるが、それに多種の金属を混ぜた複雑な合金製の物もあり、真鍮リードと一言で言っても、国内で使用が許可された真鍮合金は11種類有る。また、最近は、真鍮ではなくステンレスを用いたリードを持つハーモニカ (サイドル・ゾーン社製の物) も発売されている。これは真鍮性の物よりは丈夫であるが、せいぜい真鍮性の3倍程度の寿命が延びるもので、サイドル・ゾーン社のアナウンスほど耐久性が有るとの実証実験をされた物ではない。 次に、それぞれのリードよりわずかに大きい穴を開けたリード・プレートにリードが取りつけられ、「木製」あるいは、「プラスティック」、「木製の微細なチップを合成樹脂に練り込んだ特殊樹脂の新素材」、「アクリル樹脂」、また近年は「無垢のアルミ素材」や「真鍮にメッキをした金属」のボディ(これらは櫛型筐体のためコームと呼ばれる)などにリード・プレートが取りつけられる。高級品ハーモニカのコームは「木材製」にこだわる物も多くある。主に使用される木材は、国内だと楓材やローズウッド材があり、狂いも出にくく音程が安定しやすい。ドイツのホーナー社などは初期の頃はカリン材を使用していた。特定のコーム素材が他のコーム素材よりも優れているのは、その耐久性である。 そのコームにリード・プレードを取り付ける。昨今の「合成樹脂コーム」、「木材粉末入り特殊樹脂コーム」、「アクリル・コーム」、「無垢なアルミニウム素材で仕上げたコーム」そして、「真鍮素材に鍍金を施した金属製コーム」などは、先のリード・プレートをネジで締め付けて止める様に設計されている。しかし、戦前からある高級木製ハーモニカは、国内産の物は既に高級版しか残存しないため、ネジ止めとはせずに、わざわざ昔ながらの製法を尊び、リードプレートは、木製コームに釘止めされて組み上げられている。そのため、分解清掃が頻繁には出来ない。 また、コームにはリードの長さにあわせた溝が掘ってあり、前面の吹き口から吹き込まれた息で、それぞれのリードを振動させる仕組みとなっている。リードを取りつける向きによって、吹き吸い別々のリードを鳴らすことができる。「吹奏する楽器」であるが、いわゆる管楽器のような管体を持っていないので、管楽器という呼称はあまり用いられず、分類するなら(リードオルガン類)である。このことが口琴と言う名前の由来となっている。 一番利用率の高いコームの材質は、現在は殆どが合成樹脂製のものである。製造が安価で楽に出来ること、複雑な形の物も簡単に製作でき不良品が出にくい、また、長時間の演奏でも水分を吸収しないために、音質が安定しているなどの長所がある。リード・プレードとの接合部から息がもれるのも少ないため、その多くは音の立ち上がりが際だち、澄んだ音質に鳴りやすい。 しかし、より精緻な音質や微妙な余韻にこだわる高度な演奏家向けには、いろいろな素材のコームで出来た高級ハーモニカが販売されている。一般的には木材製の物は水分を含むと膨張して音程が狂ったり、変形しやすいのだが、ホーナー社は昔はカリン材を使用していた。カリン材(Pterocarpus indicus Willd., 1802) とは、「Burmese Rosewood」などと呼ばれ、バラ科のカリン(Chaenomeles sinensis (Thouin) Koehne, 1893) とは別種の木材である。ここで述べるカリン材とは、マメ科シタン属の広葉樹であり、主にミャンマーなどが主要産出国である。材質はシタン(紫壇)に劣るが、耐朽性は大きい。 また、日本の国産高級ハーモニカには、昔ながらの楓材を使用している物もある。本来の楓材とは、ハード・メープル(Acer saccharum Marshall, 1785) と ソフト・メープル {レッド・メープル(Acer rubrum L., 1753), シルバー・メープル(Acer saccharinum L., 1753), ボックスエルダー(Acer negundo L., 1753)などの以上3種の楓材の総称。} の合計4種の木材のことを指す。これらは用途に応じて使い分けられる。(しかしソフト・メープルとして分類される樹種のボックスエルダーは用材として現在はあまり使われない。) また、トンボ楽器製作所などは、以上の海外楓材ではなく、国産の楓に拘り、独自に開発使用しており、これはどの種(しゅ)のカエデを使用材としているかの内訳は非公開である。カエデ属の植物は964 records.もの多種が学術記載をされているため、真相は不明である。 最近の流れとして、より良い音質と美しさを兼ね備えた付加価値が見いだされているため、鈴木楽器製作所などでは、ローズウッドを使用している高級機種が開発されている。ローズウッドとは、花のバラとは全く関係ない樹木で、マメ科のツルサイカチ属(Dalbergia)及び、シタン属(Pterocarpus)に属する木材である。西洋で高く評価されるローズウッドは、ブラジリアン・ローズウッド(Dalbergia nigra (Vell.) Allemão ex Benth., 1860) なのだが、今ではワシントン条約 (CITES) で絶滅の危機に瀕した種に指定されており入手困難である。(ブラジリアン・ローズウッドはリオ・ローズウッド、バイア・ローズウッドとしても知られている。)この木材は強い甘い匂いがあり、この匂いは長年持続するので、「ローズウッド」という名前が付けられた。591 records もの数が学術記載をされている、ツルサイカチ属のすべての樹種がローズウッドというわけではなく、ローズウッドと呼ばれる木は、その中でもおよそ 12 種類に過ぎない。東洋で重要視される木材のシタン(紫檀)も精密加工に向いた木材として利用することのできるツルサイカチ属(Dalbergia)及び、シタン属(Pterocarpus)に属する樹木の総称であり、ローズウッド同様堅く磨きが掛けられる良質の材質が得られる木材である。 それらとは逆に、コームを金属で製作した物も増えてきている。アルミニウムや、真鍮にクロム鍍金をしたものなどである。金属コームのハーモニカは、音質の正確性が依り増すので、レコーディングなどに向いたプロ用の超高級ハーモニカが作れる。 上記のリード・プレートとコームが組み上げられた物に、さらに金属のカバー・プレートで覆いネジ止めをして組み立てが完了する。この金属性のカバー・プレートが共鳴箱の役割をしてハーモニカの音を響かせている。そのため、このカバー・プレートの素材や素材の厚み、開口部の形状、カバー・プレートの金属に対するメッキの種類などを変えることで、音質もかなり大きく異なるため、金属のカバー・プレートは軽視されがちな部材であるが、この金属のカバー・プレートは実はとても大切な部材なのである。 また、ハーモニカのリードは、音を出す音域の周波数と同じ回数1秒間に振幅をし、音を発する。薄い金属片が1秒間に400回以上振える訳であり、長年月使用していたり、過度な使用をすれば必ず金属疲労を起こして、音程が狂ってくる。そして、その後はリードは折れてしまう。そのためリードは消耗品である。音程が不安定になってきたときには、リードの金属疲労が懸念されるので、専門家に見て貰うか、新規に購入し直す必要がある。金属疲労を起こし始めたハーモニカを使い続けていると、吸い音の際に折れたリードが口腔内に入り事故になる事例もあるので、この危険性はきちんと認識をしておく必要がある。なお、上を向いて吹くとより一層危険である。このことは、国内メーカー、特に鈴木楽器製作所の取扱説明書には記載されている。また、口を付ける楽器の性質上、ハーモニカを常に清潔に保つために、演奏前には必ず口腔内を丁寧に濯いでハーモニカを演奏し、演奏後はハーモニカを軽く振って水分を切ることが大切である。
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