風と共に去りぬ
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続編と人種差別問題
初刊から大ベストセラーとなったが、ミッチェルの生前発表した作品は本作のみであった。続編の希望はあったものの、ミッチェルが病弱であったため、本作の執筆と完成だけでも膨大な年月を要し、同時に海賊版等の版権管理に追われたこともあって、本作以降の創作意欲を喪失してしまったためとされる。また、未発表原稿はあったものの、ミッチェルの遺志によって、死後夫により全て破棄されたとも言われる。
『風と共に去りぬ』を完結した作品とみなしていたミッチェルは、多くの人から勧められても決して続編を執筆しなかった。1949年に交通事故で他界し、夫ジョン・マーシュ(John Marsh)の手に渡った『風と共に去りぬ』の著作権は、1952年にジョンが死去すると兄のスティーヴンズ・ミッチェル(Stephens Mitchell)が相続し、1983年にスティーヴンズが死去するとさらにその子(つまりマーガレットの甥)であるジョー・ミッチェル(Joe Mitchell)とユージン・ミッチェル(Eugene Mitchell)に引き継がれた。
あくまで南部白人の視点からのみ描かれた本作は、「奴隷制度を正当化し、(オハラのような)白人農園主を美化している」ため人種差別を助長するとして根強い批判と抗議を受け続けている。特に黒人奴隷の描写を非常に強く批判されており、また白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)を肯定している点等も強い批判を受けている(主人公スカーレットの周囲にいる白人男性たちは、レット・バトラー以外のほぼ全員がクランのメンバーである)[2]。
この小説に対抗して、『風と共に去りぬ』の黒人奴隷達を主体にした黒人からの批判的パロディー小説、『風なんぞもう来ねえ』(The Wind Done Gone)が黒人女性作家アリス・ランデルによって2001年に著されている。この『風なんぞもう来ねえ』は、ミッチェル財団から「著作権侵害」として提訴された。
この訴訟について、いったんは連邦地裁が出版差し止め命令を下したものの、2001年5月25日、アトランタの連邦高裁によって「著作権侵害に当たらず」として却下されている。
ミッチェルの相続人たちが恐れたのは、2011年に『風と共に去りぬ』の著作権が切れた後、誰もが競って続編を書き始めるという状況が現出することであった。悪くすると、南北戦争の仇敵である北部出身者や三流作家が執筆してしまうという可能性もある。実際、アン・エドワーズのような例(映画の脚本として続編を書くが裁判の結果、続編の公開を阻止)もある。このような懸念からミッチェルの相続人たちは、先手を打って続編の出版を企画し、1991年にアレクサンドラ・リプリーの『スカーレット』が誕生した[3]。
しかし『スカーレット』は、世界的な大ベストセラーとなりテレビドラマ化されるなど、商業的な成功を収めたものの、作品自体に対する世評には厳しいものがあった。そこで1995年、イギリスの作家エマ・テナントに続編の執筆が依頼された。執筆には『風と共に去りぬ』の全体的なトーン、人物設定や背景を踏襲するという条件が付され、さらに白人と黒人の結婚は禁止、同性愛や近親相姦についての言及も禁じられた。テナントは『タラ』と題する575ページの原稿を書き上げたが、「感覚がイギリス的過ぎる」という理由でミッチェルの相続人側から却下され、出版も差し止められた。その後、アトランタ生まれの作家パット・コンロイにも続編の執筆が打診されたが、契約書中の同性愛等の描写を禁止する条項が作家としての自由を妨げるものとして、彼はこの依頼を引き受けることはなかった。
さらに続編の執筆者探しの試みは続けられ、南北戦争を舞台にした小説で評価されたドナルド・マッケイグに白羽の矢が立った。今度は過去の失敗を踏まえ、現代までの性や人種に関する人々の意識の変化を作品に反映することを容認し、内容に過度の干渉を加えないよう配慮がなされた。マッケイグはスカーレット・オハラではなくレット・バトラーの視点で続編を書き上げ、2007年にアメリカで『レット・バトラー』が刊行された[4]。
- ^ 上演台本『風と共に去りぬ シナリオ』ミッチェル 原作、菊田一夫 脚色(全2部、三笠書房、1967年)が刊行。
- ^ 青木冨貴子『「風と共に去りぬ」のアメリカ ―南部と人種問題―』岩波新書
- ^ 仙名紀 「戻る? 戻らぬ? スカーレットとレットのより – “続 『風と共に去りぬ』” が描く本当の結末- 」 『月刊Asahi』 1991年12月号、朝日新聞社、pp.128-129.
- ^ 小山猛「-海外出版レポート アメリカ- 『風と共に去りぬ』2度目の続編」『出版ニュース』2007年6月下旬号、出版ニュース社、p.19.
- ^ 【新文化】新潮社と岩波書店、「風と共に去りぬ」新訳で〝競作〟
- ^ 三笠書房の初訳版は大久保の単独訳、改訳版は竹内との共訳、「世界文学全集」版でも多数刊行。
- ^ 鴻巣友季子『謎とき『風と共に去りぬ』 矛盾と葛藤にみちた世界文学』(新潮選書、2018年12月)を刊行
- ^ 荒このみ『風と共に去りぬ アメリカン・サーガの光と影』(岩波書店、2021年6月)を刊行
- ^ “くだん書房:目録:マンガ:雑誌:講談社”. www.kudan.jp. 2023年7月7日閲覧。
- ^ “くだん書房:目録:マンガ:雑誌:集英社”. www.kudan.jp. 2023年7月7日閲覧。
- ^ “週刊セブンティーン 1979年12月4日号”. 2023年7月7日閲覧。
- ^ “風と共に去りぬ 全7巻 セット M・ミッチェル 原...”. ヤフオク!. 2023年7月7日閲覧。
- ^ 著, 津雲むつみ; 原作, M. ミッチェル (1979-01). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ 著, 津雲むつみ; 原作, M. ミッチェル; 原作, M・ミッチェル (1979-01-10). 風と共に去りぬ. 集英社
- ^ 画, 津雲むつみ; 原作, M. ミッチェル; 原作, M・ミッチェル (1979-01-10). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ 著, 津雲むつみ; 原作, M. ミッチェル (1980-07). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ 著, 津雲むつみ; 原作, M. ミッチェル (1980-07). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ 著, 津雲むつみ; 原作, M. ミッチェル (1980-08). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ 著, 津雲むつみ; 原作, M. ミッチェル (1980-08). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ むつみ, -2017, 津雲 (1978). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ むつみ, -2017, 津雲 (1980). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ むつみ, -2017, 津雲 (2002). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ むつみ, -2017, 津雲 (2002). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ むつみ, -2017, 津雲 (2002). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ むつみ, -2017, 津雲 (2002). 風と共に去りぬ. 東京: 集英社
- ^ “私はスカーレット 上・下 | 小学館”. 私はスカーレット 上・下 | 小学館. 2024年1月5日閲覧。
- ^ “私はスカーレット 上 | 書籍”. 小学館. 2024年1月5日閲覧。
- ^ “私はスカーレット 下 | 書籍”. 小学館. 2024年1月5日閲覧。
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