関西私鉄の電力供給事業の概況
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/13 08:47 UTC 版)
「関西私鉄の電力供給事業」の記事における「関西私鉄の電力供給事業の概況」の解説
関西の私鉄が開業した明治末から大正の初め頃は現在のような有力な電力会社は存在せず、鉄道のように大電力が必要な場合は自社で発電所を作らなければならなかった。多くの電鉄会社がその発電所の余力を使って、鉄道開通とほぼ同じ時期に一般家庭に電灯用の電力を供給する事業にも進出した。第二次世界大戦が始まるまでの電気鉄道会社は、鉄道事業と同時に鉄道沿線地域の電灯電力事業を兼営する事が多かった。あるいは逆に電力会社が余剰電力を使って鉄道(路面電車)を運営するパターンもあった。1912年(大正元年)当時のデータでは 各地の電力会社が余剰電力を利用して鉄道を経営しており、利根発電が9.1マイル、高崎水力電気が12.8マイル、和歌山水力電気が7.5マイル、広島水力電気が2.1マイル、九州水力電気が4.2マイルの鉄道を運営していた。 関西私鉄の電力供給の開始時期は、まず阪神電気鉄道が運転開始(1905年)3年後の1908年(明治41年)に阪神間へ供給を開始し、続いて阪急電鉄(当時は箕面有馬電気軌道)が開業と同じ年の1910年(明治43年)、阪急電鉄と同じ年に運転を開始した京阪電気鉄道が翌1911年(明治44年)に電灯電力供給を開始した。1885年(明治18年)から蒸気機関車で運転していた南海鉄道は、1907年(明治40年)に難波 - 浜寺公園間の電化を済ませていた。ただ、逓信省の許可を得て電灯電力供給を開始したのは1912年(大正元年)であった。生駒トンネルの難工事で開業が遅れていた大阪電気軌道は鉄道開通の前年の1913年(大正2年)に電力供給事業を始めた。各社の電力事業の開始時期は右の図に見られるように短期間に集中している。この時期は日露戦争終結後の好景気時期に当たり、また当時大阪・京都・神戸の市街を除けば電灯電力を供給する電力会社の供給網は発達していなかったため、電鉄各社の募集に対して多くの供給要望があって電気供給事業は順調に滑り出した。各社の電気供給事業が出そろった1914年の電灯電力事業の収入と全収入に対する割合を下表に示す。大正15年下期(1926年 - 1927年)の関西私鉄各社の総収入に対する電力収入の比率は各社の事情によって大きく異なり、京阪50.2%、阪神36.9%、阪急28.5%、南海25.7%、大軌17.6%であった。 1914年阪神電鉄箕面有馬京阪電鉄南海鉄道大阪電気軌道電気事業収入(円) 293,824 101,777 221,176 128,575 67,350 全収入に対する比率 19.2% 15.4% 15.4% 7.7% 11.8% その後各社の電気供給事業は時を追って成長し、阪急電鉄・京阪電鉄・南海鉄道は沿線地域の小規模な電力会社を吸収して営業範囲を広げた。各社とも電力需要が増加するにつれ自社の発電所だけでは賄えなくなり、安価な外部電力を購入するようになり、創設時に設置した自社の古い発電所は撤去していった。その後阪神・阪急・南海は自社の沿線に比較的規模の大きな火力発電所を新設したが、その後も外部からの電力購入も行っていた。下の表は1938年(昭和13年)末の各社の受発電能力を比較したものだが、阪急電鉄が設置した20,000kWの今津発電所は別会社に移管したためこの表の発電能力にはカウントされていない。 1938年末阪神電鉄阪急電鉄京阪電鉄南海鉄道大阪電気軌道発電力(kW) 19,689 340 160 21,400 0 受電能力(kW) 35,000 42,300 33,100 39,500 20,500 私鉄の電力供給事業は戦時下の国家による電力統制により終わりを告げる。まず1938年(昭和13年)に制定された電力管理法によって1939年(昭和14年)4月1日に「日本発送電株式会社」が設立され、各社の主力発電所がこの会社に出資された。下に1940年度の各社の電気事業収入と利益、全社利益に対する電気事業の比率を示す。当時各社とも電気事業が有力な収入源であり利益源であった。 1940年阪神電鉄阪急電鉄京阪電鉄南海鉄道大阪電気軌道電気事業収入(万円) 798 558 612 714 338 電気事業からの利益(万円) 420 220 254 281 172 総利益に対する電気事業利益の比率 59.7% 25.7% 47.2% 46.4% 38.2% さらに統制は配電にも及び、関西では政府の命令により私鉄5社を含む14社が出資して1942年(昭和17年)4月1日に「関西配電株式会社」(後に関西電力の元となる会社)が設立された。14社の内訳は、設立母体が宇治川電気と南海水力電気、大阪市(大阪電燈の事業を継承)・京都市・神戸市(神戸電燈の事業を継承)の3市、京阪・阪急・阪神・南海・関西急行鉄道(元の大阪電気軌道、後の近鉄)の私鉄5社、京都電燈・日本発送電・日本電力・東邦電力の4電力会社であった。各社が持っていた電気供給事業と従業員は関西配電に引き継がれ、関西の大手私鉄による電力供給事業は終了した。事業の引継ぎに際し、各社が保有していた「資産」とそれに関連する「負債」が関西送電に引き継がれ、その差額に相当する金額が関西送電の株券で各社に支払われた。 単位(円)評価額承継負債差引決済額株式交付額各社の比率阪神電鉄 35,205,360 10,985,588 24,219,772 20,122,400 4.1% 阪急電鉄 21,369,664 7,668,216 13,701,448 11,954,800 2.4% 京阪電鉄 29,944,656 7,239,521 22,705,135 20,908,000 4.2% 関西急行鉄道 14,107,317 4,220,486 9,886,831 9,041,200 1.8% 南海鉄道 21,641,436 6,591,869 15,049,567 14,328,250 2.9% 大阪市 176,662,543 4,152,371 172,510,172 165,567,800 33.3% 神戸市 66,822,755 953,239 63,279,600 63,279,600 12.7% 京都市 29,546,847 635,435 28,911,412 27,169,700 5.5% 京都電燈 76,142,248 44,439,983 31,724,265 28,733,250 5.8% 日本発送電 25,320,664 25,156,962 163,702 0 0 日本電力 30,282,597 6,088,301 24,194,296 18,955,100 3.8% 宇治川電気 253,074,055 137,722,508 115,351,547 111,150,000 22.4% 東邦電力 34,447,063 30,916,925 3,560,138 645,750 0.1% 南海水力 6,271,794 1,185,402 5,086,392 4,900,000 1.0% 大阪市・神戸市と京都市は各市の「電気局」が市内への電気供給を担当するとともに、おのおの大阪市電と大阪市営地下鉄、神戸市電、京都市電を運行していたが、このとき各私鉄と同様に電気供給部門を関西配電に出資した。なお 1942年4月の関西配電設立に際し電力供給事業を出資した14社は電力供給施設の固定資産額が500万円以上の企業であった。翌1943年(昭和18年)7月1日にこの14社以外の小規模企業の事業も関西配電に統合された。その中には明石市周辺に供給エリアを持っていた山陽電気鉄道も含まれる。 以下 各私鉄の状況について電力供給事業を開始した順に解説する。
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