開通の影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/10 01:39 UTC 版)
「関門トンネル (山陽本線)」の記事における「開通の影響」の解説
関門トンネルの開通により乗換・積替がなくなり、旅客で約1時間、貨物で約10時間の所要時間短縮が実現された。費用的には、貨車の車両航送による特別運賃が廃止されることにより、荷主にとっては年間約200万円の費用節約となった。これは鉄道省にとっては逆に年間約200万円の減収を意味し、また航路とトンネル関係の資本費や年間の運営経費を考えると、航路もトンネルも年間経費は約100万円と見積もられたため、トンネル開通による誘発需要がなければ国鉄にとっては減益となる。しかし、客車も貨車も直通運用が可能となり運用効率が増すことから、直接計上できない利益があったものとされる。輸送力の点では、それまで関門地区の駅は滞貨の山で溢れ返っていたが、トンネル開通により貨物が順調に流れるようになり、滞貨が原因で出荷できずにいた産品の出荷が可能となった。 関門トンネル開通以前、関門間の連絡は第一から第五の「関門丸」で貨車航送を行っており、2月から7月にかけて発生する濃霧や激しい潮流、冬期の北西季節風による障害の中で、海峡を往来する船舶を避けながら5隻の船舶を頻繁に往復させるのは大変な労力であった。それまで、海峡を通航する船舶と海峡を横断する船舶は平面交差している状況であったが、関門トンネル開通により立体交差化が図られたことになり、事故の防止に多大な貢献をすることになった。 関門トンネルの開通は、第二次世界大戦のさなかのこととなった。下り線の開通に際しては全国的なダイヤ改正を実施して、本州と九州をつなぐ輸送体制が整備され、戦時輸送力増強のためにスピードダウンしたとはいえ史上最高の列車設定キロとなった。しかし1943年(昭和18年)以降は旅客輸送力削減のダイヤ改正が繰り返され、1944年(昭和19年)に入ると深刻な船舶不足から海運の鉄道への転換が進められ、さらに輸送事情は逼迫していった。1945年(昭和20年)になると、全国的なダイヤ改正を実施することもできなくなり、地方ごとに場当たり的なダイヤの変更が繰り返され、空襲によって青函連絡船や関釜連絡船はほとんど運航不能となる事態となった。連合軍による機雷封鎖と潜水艦攻撃により関門海峡周辺の海上輸送は壊滅的な状態となっていたが(飢餓作戦)、もともと余裕を持って設計されていた関門トンネルは、貨物輸送を終戦まで継続することができた。関門トンネルは、戦争末期から直後にかけての深刻な船舶不足の時期に、国力の維持に多大な貢献をなした。 技術的には、当時トンネルの掘削中に壁面や天井を支える支保工は、松丸太と松板を組み合わせるのが常識であったが、関門トンネルの海底部では鋼製のアーチ支保工を採用し、きわめて慎重に掘削が行われた。鋼製アーチ支保工を本格的に採用して機械式で効率のいい掘削方法を使うようになったのは、日本では第二次世界大戦後のトンネルからであったが、日本で最初の採用は関門トンネルではないかとされている。 またシールド工法についても、1920年(大正9年)の羽越本線折渡トンネル、1926年(大正15年)の東海道本線丹那トンネル水抜坑に次ぐ、日本で3回目の採用であったが、前の2回ではいずれも成功をおさめたとは言えなかったのに対して、3回目にして日本国内製造のシールドマシンを使って成功をおさめた。関門トンネルでは、おもに鋳鉄製の環片(セグメント)を使用したが、上り線の一部で鉄筋コンクリート製セグメントが用いられ、ボルト継手が採用されるなど、のちに日本で一般的に使われるようになる中子型のセグメントの原形となった。第二次世界大戦後、名古屋市営地下鉄東山線において覚王山トンネルがシールド工法で建設された際にこうした技術が受け継がれ、以降の都市トンネルの標準的な工法として発展していくことになった。 第二次世界大戦の悪条件の下で、新しい技術を駆使して海底トンネルを完成させたことは、その後の日本のトンネル技術発展に大きな貢献をすることになった。ただし、関門トンネルは世界初の海底トンネルであると触れられることがあるが、ニューヨークのイースト川は名前に川(river)とつくものの実際には海峡であり、ガスの導管を通すトンネルが1892年に最初に開通したのを皮切りに、20世紀初頭には鉄道用を含む多くのトンネルが開通している。また日本統治時代の朝鮮において太閤堀海底隧道が1932年(昭和7年)に開通しており、海底トンネルは日本の内外で先例がある。
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