白髪
★1a.生まれながらに白髪の人。
『王書』(フェルドウスィー)第2部第1章「ナリーマン家のサーム」 勇者サームの子ザールは、生まれた時から白髪だった。サームはこれを恥ずべきことと考え、赤ん坊のザールを遠方のエルブルズ山に捨てさせた。この山に住む霊鳥スィーモルグがザールを見つけ、養育した〔*後にサームは、成長したザールを山から連れ戻した〕。
『神仙伝』巻1「老子」 老子は、母親の胎内に72年間いた。誕生の折には、母親の左の腋を割って出た。生まれながらにして白髪だったので、「老子」と呼んだのである〔*『酉陽雑俎』巻2-59では、老子が母親の胎内にいた期間について、72年説の他に81年説・3700年説を記す〕。
頭白(ずはく)上人の伝説 妊娠中の女が、旅の途中で賊に殺される。女は幽霊となって毎晩団子屋へ団子を買いに来る。不審に思った人が後をつけると女は薮の中に消え、横穴の中で子供が泣いていた。穴の中で生まれ育ったので、頭の毛が真っ白だった。この子は寺で養育され、後に頭白上人といわれるようになった(茨城県筑波郡筑波町小田)。
『日本書紀』巻15清寧天皇即位前紀 雄略天皇の第3子・白髪皇子(清寧天皇)は、生まれながらに白髪だった。
*武内大臣(=武内宿禰)は白髪で生まれた→〔妊娠〕9の『義経記』巻3「熊野の別当乱行の事」~「弁慶生まるる事」。
『河童』(芥川龍之介)16 河童の国に滞在する「僕」は、年をとった河童が1匹、街はずれに暮らしていると聞いて会いに行く。ところがそこにいたのは、12~13歳の子供の河童だった。首をかしげる「僕」に、河童は説明する。「わたしは母親の腹を出た時には白髪頭で、それからだんだん若くなったのだ。わたしは若い時は年よりだったし、年をとった時は若い者になっている。だから、年よりのように慾にも渇かず、若い者のように色にも溺れない。わたしの生涯は、幸せではないにしろ、安らかだったのには違いない」。
『ライ麦畑でつかまえて』(サリンジャー) 「僕(ホールデン)」は高校生だけれど、頭の右半分はいっぱい白髪が生えている。子供の時からずっとそうだ。「僕」は大人になったら、ライ麦畑で遊ぶ子供たちが崖から落ちないようにつかまえる仕事をしたい、と思っている〔*10代後半の「僕」の中には子供と大人が混在していて、頭の半分が白髪なのはその象徴だ、と言われる〕→〔病院〕2。
『十訓抄』第9-3 左大臣顕光の娘は小一条院女御だったが、関白道長の娘に寵を奪われた。顕光は道長を恨み、悪霊と化して、一夜のうちに頭髪がすべて白髪になった。
『十訓抄』第10-21 備中へ下向した八幡楽人元正が京へ戻る途中、片鬢がにわかに雪のごとく変じた。これは吉備津宮の祟りだったので、社に詣で「皇帝」等の秘曲を吹くと、白髪は再び黒くなった。
『世説新語』「巧芸」第21 魏の明帝の命令で、書の名手・韋仲将が、高い梯子を登って、新宮殿の扁額に文字を記す。書き終えて地上に降りると、韋仲将の頭髪はすべて真っ白になっていた。彼は、子や孫に「もう書の勉強はするな」と言った。
『白髪鬼』(江戸川乱歩) 「わし(子爵大牟田敏清)」は美人妻瑠璃子とその情人川村に欺かれ、岩から転落死して埋葬される。しかし「わし」は棺の中で蘇生し、5日後に地上に出る。その間に、30歳の「わし」はすっかり白髪になり、老人のごとき姿になっていた。「わし」はそれを利用し、外国帰りの別人をよそおって瑠璃子と川村に近づき、彼らを殺す。
『モンテ・クリスト伯』(デュマ)116 銀行家ダングラールは、山賊に2週間ほど捕らわれた後に解放された(*→〔飢え〕6)。彼は小川の水を飲もうとしてかがみこみ、自分の髪の毛が真っ白になっていることを知った。
*玉手箱を開けた浦島太郎はたちまち白髪の翁となった→〔箱〕1bの『万葉集』巻9。
*→〔処刑〕5aの『断頭台の秘密』(リラダン)は、ギロチン刑を受ける男の髪を鋏で刈る場面で、「鋏を当てて行くうちに見る見る頭髪が白くなるというような現象は生起しなかったことに人々は気付いた」と記す。通常は、見るまに白髪に変じて行く事例が多かった、ということなのであろう。
『龍宮に遊んだ男』(沖縄の民話) 龍宮の神様が、故郷へ帰る若者に紙包みを与え(*→〔髪〕9)、「故郷に家も頼る人もない場合には、この紙包みを持って龍宮へ戻って来なさい。けっして紙包みを開けてはならない」と言う。故郷へ帰った若者は、誰も知る人がいないので茫然となり、助けを求めて紙包みを開ける。中には白髪が入っており、それが飛んで来て、若者の頭も頬(ほお)も頤(あご)も、すべて白髪になった。若者はみるみる老衰し、枯れ木のようになって死んだ。
『神仙伝』巻5「薊子訓」 薊子訓(けいしくん)は神仙の人である。彼が、鬚も髪も真っ白な老人たちと対座して語り合うと、ただそれだけで、翌朝には老人たちの鬚も髪もみな黒くなっていた。
★3a.白髪は老いのしるしである。
『感情教育』(フロベール) 1840年、18歳のフレデリックはアルヌー夫人と出会い、彼女に恋をする。1848年になって、ようやくフレデリックはアルヌー夫人と逢引きの約束をするが、子供の急病のため、アルヌー夫人は約束の場所へ来ない。フレデリックは怒り、他の女を愛人にするなどして、歳月が流れる。1867年、アルヌー夫人は突然フレデリックを訪問し、2人は今もなお愛し合っていることを感じる。しかし彼らは関係を結ぶことなく、アルヌー夫人は自らの白髪を1房切り取って残し、永遠の別れを告げる。
『仕事と日』(ヘシオドス) 神々が人間を作るに際し、最初に黄金の種族、次いで銀の種族、青銅の種族、半神族を作ったが、時を経て皆滅び去った。現在地上にいる人間は、第5の、鉄の種族である。しかし、子供が生まれながらにして、こめかみに白髪を生ずるにいたれば、ゼウスはただちに人間たちを滅ぼすであろう。
『発心集』巻7-6 小野宮右大臣実資が納言ほどの位であった頃、小さな男が車に乗りこんで来て「閻王の使い白髪丸」と言い、実資の冠の上に昇って消えた。実資が帰宅してから見ると、白髪が1すじ見出された。
*理髪師が、王の黒髪中に1本の白髪を見つける→〔理髪師〕3bの『ジャータカ』第9話。
*60歳の王の黒髪に、白髪が生える→〔死体消失〕5の『七王妃物語』(ニザーミー)第44章。
『平家物語』巻7「実盛(真盛)」 70歳余の斎藤別当実盛は、白髪を黒く染めて戦場に出る。討死した実盛の首を見た木曽義仲は、老武者なのに鬢髭が黒いことを怪しみ、洗わせてみると白髪になった。
*実盛は死後、虫になった→〔虫〕2bの実盛虫(高木敏雄『日本伝説集』第22)。
★4.白髪は神性のしるしでもある。
『ヨハネの黙示録』第1章 「わたし(ヨハネ)」の前に、足まで垂れた上着を着、胸に金の帯をした人(キリスト)が現れた。頭髪は雪のごとく羊毛のごとく真っ白で、目は炎のごとく燃え、口からは両刃の剣が出ていた。その人は「わたし」に、これから見ることを書きとめよ、と命じた。
白髪と同じ種類の言葉
Weblioに収録されているすべての辞書から白髪を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から白髪を検索
- >> 「白髪」を含む用語の索引
- 白髪のページへのリンク