生物圏と生物多様性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/19 14:09 UTC 版)
現代の生態学者にとっては、 個体レベル 個体群レベル 生物群集レベル 生態系レベル 生物圏レベル といった幾つかのレベルで研究がなされ得る。 個体レベルで生態学的な視点と言えば、古くは生理生態学的なアプローチ、と言うことになろう。たとえばある種の海岸生物の分布域を、個体の耐塩性と関連づける、といったものである。近年では、行動生態学の進歩によって、行動や生活史の上での特徴までもが個体を単位に考える必要が示されている。 個体群レベルでは、対象は個々の生物の種、あるいはその一部である。ただしその個体を取り上げ、研究室内でその機能と構造を調べるのではなく、その生物が生存している場に於いて、さまざまな特性について考える。当然ながら対象とする地域は狭く、その生物の活動圏がひとつのまとまりである。 生物圏レベルの視点に立った場合、地球は水圏・岩石圏・大気圏といった構成要素から成っている。大気圏の外側に磁気圏を置き、水圏と大気圏を流体圏として統合することもある。ときに第四の要素として扱われる生物圏は、惑星上で生命が発展できる部分である。生物圏から人間活動部分を分け、人間圏とすることもある。 生物の大多数は-100~+100mの間に位置する区間に生息しているが、生物圏は深さ11,000m、海抜15,000mまでの非常に薄い表層である。 生命の起源はおよそ40億年前であると考えられている。生命は当初、深海の熱水噴出孔や海水内など嫌気的な環境で発生し繁栄したが、27億年前に光合成能力を持つシアノバクテリアが誕生し、繁栄していくことで地球環境が大きく変化した。シアノバクテリアが放出する酸素の増大に従い、まず大気圏内の二酸化炭素やメタンが消費され、温室効果が消失して24億年前にはヒューロニアン氷期とよばれる最初の全球凍結期に突入した。22億年前にこの氷期は終結するが、この時期には海中でも鉄の酸化が活発となり、縞状鉄鉱床がさかんに生成された。19億年前にこの酸化も終わると大気中の酸素分圧が目立って増加し、窒素と酸素からなる現在の地球の大気となっていった。生物圏の活動が大気圏や水圏におよぼした、最も大きな影響のうちの一つである。この変化は生物圏内にも巨大な影響を与え、それまでの嫌気性生物は海中深くなど特殊な環境を除いて大量に絶滅し、かわって酸素を必要とする生物が主流となった。この変化は生物の複雑化につながり、19億年前には真核生物が登場し、やがて多細胞生物が現われた。酸素分圧の上昇は紫外線から生物を守るオゾン層の上空への移動と拡大をもたらし、生物の陸上への進出と発展をもたらした。地上の生物の多様性は、大陸が分離・衝突することによって増大したと考えられている。大陸移動によって取り残された地塊には大陸で絶滅した古い種が残存しやすく、さらに孤島では新しい種の侵入も少ないことから固有種が多く存在する場合がある。 生物圏と生物多様性は、地球の特徴として不可分なものである。生物圏は、生物が存在する領域として定義されるが、生物多様性はその多様さを指す概念である。例えるなら、生物圏が容れ物であるならば、多様性はその内容物の状態を表している。多様性は、生態系レベル、個体群レベル(遺伝的多様性)、種間レベル(種多様性)といった異なる枠組みでとらえることができる。 生物圏は、炭素・窒素・酸素といった、多くの生物にとって必要な元素を非常に多量に含む。リン・硫黄・カルシウムなどのその他の元素も、生物には不可欠である。生態系・生物圏レベルでは、これらの要素は無機・有機の状態間で変化しながら、常に循環している。 生態系が機能するための主要なエネルギー源は、太陽光である。植物は光合成により、光を化学エネルギーに変換する。この過程で糖が生成され、生態系を動かす第二のエネルギー源となる。糖のうちいくつかは、エネルギー源として他の生物に利用され、その他の糖もアミノ酸などの高分子を形成する材料となる。動物媒を行う植物の場合、糖から蜜を作り送粉者を誘うことで、繁殖を可能にしている。 細胞呼吸は、哺乳類などの生物が糖を二酸化炭素や水に変換し、エネルギーを得る過程である。他の生物の呼吸活動に対する植物の光合成活動の割合は、大気中の成分構成(特に酸素)を決定する。気流は大気を攪拌することで、生物活動が濃密な地域と希薄な地域との間での大気バランスを保つ役割を持つ。極地方の寒気と赤道地方の暖気は、低緯度帯のハドレー循環・中緯度帯のフェレル循環・高緯度帯の極循環の3つの空気循環からなる、いわゆる大気大循環によって攪拌されており、熱の不均衡を緩和する役割を持っている。 水もまた水圏・岩石圏・大気圏・生物圏の間でやり取りされる存在である。海洋は水を蓄えた巨大なタンクであり、熱的・気候的安定性を請け負うとともに、海流によって化学物質の輸送も担っている。深海では熱塩循環と呼ばれる長期的な海水の大循環が起こっており、熱や物質の均一化をもたらしている。 生物圏がどのように働いているか、また人間の活動によって生じる機能不全をより深く理解することを目的とし、アメリカのアリゾナ州にバイオスフィア2と呼ばれる密閉型人工生態系が1991年に建設され、同年から2年間を1サイクルとして長期実験が行われる予定だった。しかしこの実験は酸素分量の低下などのさまざまな問題によって、最初の2年間の実験のみで打ち切られた。1994年にも短期実験が行われたものの打ち切られ、この実験は失敗に終わった。
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