無尽蔵
★1a.食物・宝物などがいくらでも出てきて、尽きることがない。
『ケルトの神話』(井村君江)「かゆ好きの神ダグザ」 ダーナ神族の1人ダグザが持つ釜からは、食べる人の徳に応じて、いくらでも食物が出て来た。この釜は他郷(アザ・ワールド)へ通じており、そこから限りなくさまざまな食料があふれ出てくるのだった。
*海へ通じている杯→〔無尽蔵〕2bの『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)。
『今昔物語集』巻16-15 観音を信仰する男が、龍王から金の餅を半分に割ったものをもらう。男は餅を少しずつ欠いて使うが、餅は割っても割ってもまたもとどおりになり、一生尽きることがなかった。
『捜神記』巻1-18 後漢の時代。薊子訓(けいしくん)は公卿の家々を訪問する時に、いつも酒1斗と乾肉1切れを土産代わりに持って行った。その酒と乾肉は、数百人が1日かかって飲み食いしても尽きることがなかった〔*→〔無尽蔵〕4aの『捜神記』巻1-21の左慈の話では、無尽蔵に見えて実はそうではなかった〕。
『俵藤太物語』(御伽草子) 秀郷は大百足退治の礼として、龍女から巻絹・俵・赤銅の鍋を得た。巻絹は、衣裳に仕立てるべくいくら裁断しても尽きない。俵からは、米がどれだけでも出てくる(*→〔名付け〕7b)。鍋の内には、思うままの食物が湧き出るのだった。
『遠野物語』(柳田国男)63 三浦某の妻が小川で赤椀を拾い、ケセネギツ(米・稗などの穀物を入れる箱)の中に置いて、穀物を量る器とした。この椀で量り始めて以来、いつまでたっても穀物は尽きることなく、やがて三浦家は村一の金持ちになった→〔川〕5a。
*大勢が猪を毎日食べても、食べ尽くせない→〔猪〕4の『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第38章。
*掌の金貨が、取っても尽きない→〔掌〕1aの『今昔物語集』巻2-10、2-14。
『おいしいお粥』(グリム)KHM103 貧しい少女が、不思議なおばあさんから鍋をもらう。少女が「お鍋や、ぐつぐつ」と言うと、鍋は黍のお粥をこしらえ、「お鍋や、おしまい」と言うと、作るのをやめた。ある日、少女の留守に、母親が「お鍋や、ぐつぐつ」と言ってお粥を作る。とめ方を知らないので、お粥は鍋からあふれ、どんどん出て来る。少女が帰って来てお粥をとめるが、町中がお粥におおわれ、人々はお粥を食べて道を作った。
『海の水はなぜからい(塩挽き臼)』(昔話) 貧しい弟が森の小人たちから得た挽き臼は、右に回すと何でも望みの物を出すことができた。兄がその挽き臼を盗んで塩を出すが、止め方を知らなかったので、塩は無限に出てくる。挽き臼は海底に沈み、今も回り続けている(岩手県上閉伊郡)。
『蛇息子』(昔話) 爺婆が御飯を炊いて、蛇からもらった杓子(*→〔蛇息子〕2b)でかき混ぜると、御飯が山のようにどんどん増えた。太閤さんがそのことを聞きつけ、「唐(から)を攻めに行くのに、そういう宝が欲しい」と言って、杓子を爺婆から買い取る。太閤さんが杓子でグウァーと混ぜると、大きな釜から御飯が出て来る。ところが、敵軍に攻められ、狭い所に追い込められた時、長い杓子が邪魔になるので、杓子の柄を切ってしまった。それからは、御飯を炊いても増えなくなった(兵庫県美方郡温泉町千原)。
『黄金伝説』162「聖女エリサベト」 聖女エリサベトが貧しい人々にビールを与えたが、甕の中のビールは少しも減らず、最初と同じだけの分量が残っていた。
★2b.いくら飲んでも酒が減らない角杯の底は、海の底へ通じていた。
『ギュルヴィたぶらかし(ギュルヴィの惑わし)』(スノリ)第46~47章 ウートガルザ=ロキ王の巨人国を訪れたトールは、角杯の酒を飲み干すように求められ、息の続く限り飲んだが、酒はほとんど減らなかった。2度目・3度目と試みて、ようやく酒がいくらか減ったので、トールは角杯を置いた。実は角杯の底は海へ通じていたのだった。
*他郷へ通じている釜→〔無尽蔵〕1aの『ケルトの神話』(井村君江)「かゆ好きの神ダグザ」。
★2c.いくらでも食べる聖(ひじり)の後ろには、無数の餓鬼・畜生などがいた。
『宇治拾遺物語』巻2-1 清徳聖(ひじり)は、3町(1万坪余り)の面積に植えた水葱(なぎ)や、白米1石(いっこく)の飯を、一時に食べ尽くした。これを聞いた坊城の右の大殿(右大臣藤原師輔)が、清徳聖を邸へ招くと、聖の後ろに続いて、餓鬼・畜生・虎・狼・犬・烏などが幾千万も歩いて来る。師輔だけがこれを見て、他の人の目にはまったく見えなかった。白米10石の飯が与えられ、餓鬼・畜生などがこれをむさぼり食ったが、人々の目には、聖が1人で全部食べてしまったように見えた。
*人の後ろに、多くの鬼がついて来たり、多くの神がついて来たりする→〔百鬼夜行〕2の『剪燈新話』巻1「三山福地志」。
*鬼が僧にとりついて、肉を食う→〔憑依〕6cの『正法眼蔵随聞記』第1-3。
『マハーバーラタ』第2巻「集会の巻」 ユディシュティラはドゥルヨーダナ方との賭けに負けて全てを失い、妻ドラウパディーも奪われる。ドゥルヨーダナの弟ドゥフシャーサナが、ドラウパディーの着物をはぎ取って裸にしようとする。新しい布が際限なく次から次へと現れ、ドラウパディーの足下に山となって積み重なる。
★4a.無限に物が湧き出ると思ったら、それはよそから取って来たのだった。
『今昔物語集』巻28-40 老人が、瓜売り達の食べた瓜の種を地面に植え、見るまに葉を繁らせ、たくさんの実をみのらせる。往来の人々にその瓜をふるまって、老人は去る。後で瓜売り達が見ると、籠に入れておいた瓜がすっかりなくなっていた〔*『捜神記』巻1-24に簡略な類話〕。
『捜神記』巻1-21 曹操が百人余りの役人を連れて、遊山に出かけた。神通力を持つ左慈が、徳利1本の酒と1切れの肉を持って行き、役人たちにふるまう。それは、百人が充分に飲み食いできるだけの量があった。曹操が不思議に思って調べると、酒屋の酒と肉がすっかりなくなっていた。
★4b.無限にお金が湧き出ると思ったら、それはよそから取って来たのだった。
『呪われた背広』(ブッツァーティ) 「私」が悪魔に仕立ててもらった背広は、ポケットから1万リラ紙幣を何枚でも出すことができた。最初の日、「私」はポケットから5千8百万リラを出す。その日、強盗が現金輸送車を襲って5千8百万リラを奪い、1人が死んだ。次の日、「私」はポケットから1億3千5百万リラを出す。その日、火事で不動産会社の金庫が焼け、1億3千万リラ以上が灰になり、消防士が2人死んだ。何回かこういうことがあった後、「私」は良心の呵責にたえかねて、背広を焼く。しかし、悪魔は「もう遅い」と言った。「私」の魂は悪魔のものになるのだ。
★4c.無限にお金が湧き出ると思ったら、それは未来から借りて来たのだった。
『ドラえもん』(藤子・F・不二雄)「お金がわいて出た話」 のび太がドラえもんからもらった未来小切手帳は、金額を書いてサインすれば何でも買える。のび太は自由に金額を書き込み、いろいろ買い物をする。ドラえもんが「それは、将来手に入れるお金を先に使ってるんだ。君がサラリーマンになって43歳の夏にもらうボーナスの分まで、もう使ってしまった」と説明するのでのび太は驚き、買ったものを返しに行く。
*来世で授かる寿命を前借りすることによって、現世の寿命を延ばす→〔寿命〕2bの『閲微草堂筆記』「ラン陽消夏録」54「来世の寿命」。
*いくらでも金貨が出てくる袋→〔交換〕2の『影をなくした男』(シャミッソー)。
*無限のページを持つ本→〔本〕10aの『砂の本』(ボルヘス)。
*無尽蔵とは逆に、器にいくら油を入れてもいっぱいにならない→〔墓〕5の『ギリシア奇談集』(アイリアノス)巻13-3。
*無尽蔵とは逆に、靴にいくら金貨を入れてもいっぱいにならない→〔靴(履・沓・鞋)〕1bの『土(ど)まんじゅう』(グリム)KHM195。
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