条約法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 06:16 UTC 版)
条約法は、国連国際法委員会 (ILC; International Law Commission) によって慣習法を漸進的発展とともに法典化した、1969年の「条約法に関するウィーン条約」(Vienna Convention on the Law of Treaties; VCLT)が主として機能する。しかし、同条約の批准国は100あまりにすぎず、米国やフランスなど有力な国も批准していないことから、ときおり、特定の条項について、その一般的効力が争われる。 条約法条約は、条約の締結 (conclusion) 、解釈 (interpretation) 、適用 (application) について定める。 同条約は、「国の間において文書の形式により締結され、国際法によって規律される国際的な合意」を対象としている(2条)。しかし、一般国際法上、文書によらない国家間の合意も拘束力があり、そのことを同条約は害しないとする(3条)。 条約の締結は、国家間の交渉(全権委任状、7条)、条約文の採択(9条)、国の同意の表明(署名 (signiture) 、批准 (ratification) 、加入 (admission) 、11条)により成る。最後の国家の同意については、単なる技術的、事務的な行政取極の場合は、署名だけで効力を発するが、通常の条約は、国内での承認(approbation、日本では国会の承認)を経ての認証である批准が必要とされる。 条約の締結について、今日、最も議論があるのが、留保である。留保とは、国家が、条約に署名、批准、加盟する際に、特定の条項の全部又は一部の適用を除外する旨の一方的宣言をいう。留保は、当該条約が禁止していない限り許される(19条)。当該条約で特別な定めがある場合はそれに従うが、特に規定されていない場合には、留保は、それに対して異議を表明しない国家に対して効力を有するが、留保の表明から12か月以内に異議を表明した国家に対しては、それを主張できない(20条)。なお、留保は、その条約の趣旨、目的に反しない限りにおいて、有効である(1951年「ジェノサイド条約に対する留保」国際司法裁判所勧告的意見、C.I.J.Recueil 1951, p.24)。これに従って、現在、特に人権条約において留保が許されるかという問題が議論されている。ILCは、留保に関する慣習法の法典化作業を進めている(特別報告者、Alain Pellet)。2007年の第59会期ではガイドライン案3.1.5から3.1.13が採択され、3.1.12によれば、人権条約に対する留保の条約の趣旨目的との合致性は、条約で定められた権利の「不可分性」(indivisibility) 、「相互依存性」(interdependence) 、「相互関連性」(interrelatedness) を考慮に入れなければならないとされた(A/62/10)。 解釈に関しては、条約法条約31条が定めている。まず、「条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。」そして、「文脈」とは、前文、付属書に加えて、当事国の後に生じた慣行や当時国間に適用される国際法の規則までも含む(31条3項)。近年、この規定に基づき、条約締結時の当事国の意思を離れて、現存する関係国際法規を考慮する「発展的解釈」(l'interprétation évolutive)が、特に環境法の分野において、さかんに行われている(例えば、1997年「ガブチコヴォ・ナジュマロシュ計画事件」国際司法裁判所判決、I.C.J.Reports 1997, pp.77-78, para.140)。 適用に関しては、特に、条約の第三国に対する効力が問題となる。条約法条約は、条約が第三国に権利または義務を設定する場合には、その第三国の同意が必要であるとし(34条)、義務を課す場合は、明示の同意が必要(35条)、権利を付与する場合は同意が推定される(36条)と規定する。しかし、これらの規定の例外として、「客観的制度」(objective régime) の理論が学説上、主張されることがある。その例として、南極条約体制は、人類全体の利益に資するとして、締約国以外の第三国にも対抗できる(特に、南極における海洋資源保護)と主張される場合がある(国際化領域の項目も参照)。また、「相前後する条約の効力」として、条約法条約は、「後法は前法を廃す」の原則を置いているが(30条)、例えば、1989年の「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」よりも後にできた、1994年の世界貿易機関 (WTO) を創設する「マラケッシュ協定」が定める自由貿易制度が優越するのか、といった疑問が提示されうる。 最後に、条約法条約は、強行法規(ユス・コーゲンス; jus cogens)に反する条約を無効とする(53条)。これまで、古典的学説の立場から、ユス・コーゲンスの存在に対して懐疑的な立場も根強く見られたが、2006年の「コンゴ領における武力行動事件(2002年新提訴)」(管轄権)(コンゴ民主共和国対ルワンダ)で国際司法裁判所としては初めて明示的にユス・コーゲンスの存在を認定し(arrêt, par.64)、この問題に決着がついたといえる(2007年の「ジェノサイド条約の適用に関する事件」(ボスニア・ヘルツェゴビナ対セルビア及びモンテネグロ)判決でもユス・コーゲンスの存在を認定、Judgment, para.185)。
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